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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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another point of view 3 ~侑斗・拓海・志帆・七海~

~~勧誘~~


 騎士団や魔法隊の訓練に参加するようになってからの侑斗たち4人は頻繁に騎士や魔法士たちから夕飯に誘われるようになっていた。親睦会に魔獣討伐成功祝い、情報交換会等名目は様々だったが、今日招かれていたのはアンナ主催の晩餐会だった。


 皇位継承権第一位のアンナ主催の晩餐会ともなれば参加する者の顔触れは貴族もしくは騎士団の隊長クラスとなるのだが、今夜に限っては少数精鋭の参加といってもいいかもしれない。いや、そもそも晩餐会という会の名前自体が名目に過ぎなかった。参加しているのは侑斗たち4人の他は主催者のアンナ、将軍サイラス・カルフィード、筆頭魔法士ルーデンス・モークス、第3騎士団長ネーブルの計8名だけだった。


「魔獣駆除では大活躍だったようだな。」


 ハルガダ帝国全軍を束ねる将軍サイラスが不器用な笑みを浮かべて侑斗たちに話し掛ける。帝国軍最強の男が直接異世界人と話すのは今夜が初めてであった。数代遡れば皇族の血筋を引くサイラス将軍ではあるが、血筋的にはバラク皇帝やアンナ第一皇女はおろか有力貴族たちよりもはるかに下である。その彼が全軍の長を務めているのは全て実力によるものである。190センチ80キロのその肉体は40歳とは思えない程引き締まっており、眼光の鋭さは視線のみで人を射殺せるのではないかと思わせる程だ。そして彼の個人戦闘力は騎士団長5人分とも10人分とも言われているが全軍の長がそれだけであるはずはない。作戦立案能力と統率力、そしてなによりも帝国への忠誠心を買われての抜擢であり、実際、5年前の北部独立戦争では彼がいなければ戦争の名称がロゼッタ公国によるハルガダ帝国征服戦争になっていたと言われる程である。そのサイラス将軍から直接声を掛けられた侑斗たちは完全に委縮していたが、第一声が褒め言葉であったことに安堵も感じていた。


「初陣であれだけの戦果を挙げた者など私は他に知りませんよ将軍。」


 アンナが侑斗たちをさらに持ち上げる。当然それに続かない者などいない。


「えぇ。念のために我が騎士団を動員しましたが、彼らだけでほとんど倒してしまいましたから。」


「その通りですね。我が魔法隊も出番が少なすぎて退屈ですらありました。」


 ネーブルとルーデンスが杯片手に笑いながら追従する。特にネーブルはこの中で最も身分的に下になるはずだがそれを感じさせない気さくな応対をする。全てアンナの指示である。


「い、いえ、皆さんが色々と教えて下さったからです。」


「そうです。オレらだけじゃあんなにスムーズに駆除できませんでした。」


 侑斗と拓海がカチカチになりながらも返事をするだけの元気を取り戻す。


「いや、ネーブルたちの言う通りだよお客人たち。君たちのお蔭で近隣の村への脅威が随分と減ったと報告を受けている。この通り感謝する。」


 サイラス将軍が軽く頭を下げる。


「私からも感謝致しますわ。侑斗さんたちももう知っている通り、帝国内には魔獣スポットが数多くありますわ。そしてその分だけ帝国民は安全を脅かされています。皆さんが協力してくださることで多くの命が助かることでしょう。」


 すでにアンナは侑斗たちのことを、彼らの世界のことをある程度理解していた。それは帝国の覇業のために彼らを指揮下に置くべく口説き落さなくてはならないからだ。そのために公務に割く時間を減らし、彼らと過ごす時間を多くとってきたのだ。


「いえ、私たちがお役に立ったならよかったです。」


 七海がやんわりとアンナの言葉を修正する。アンナの言葉は今後も七海たちが協力することを当然の流れとしているが、そこまで決めているわけではないのだ。だからこそここは今回の魔獣駆除についての感謝だけを受け取らないといけない。七海は反射的にそう思ったのだ。


「皆さんの国では魔獣のような脅威もなく、また治安もよく命の危険も少ないと聞いています。」


 アンナは七海の警戒心を悟ったのか一旦引くことにする。


「ですが、この世界では危険は至る所に存在します。魔獣、隣国、盗賊と常に周囲を警戒しなければすぐに他者に飲み込まれてしまいます。皆さまは個人として優れた資質をお持ちですが、それだけで安全が確保されることはありません。」


「皇女殿下の仰る通りですな。私から見てもお客人たちの資質は素晴らしいと思う。いずれは私と肩を並べる、いや、それ以上の力を付けることになるでしょうな。だが、今の私であっても軍を放り出されて1人で生きて行けるかと聞かれれば厳しいと答えるしかないのだよ。そしてそれはお客人たちも同じだと私は思う。」


 アンナとサイラスが交互に語り続ける。アメイジアがいかに厳しい世界であるかを。そして力のある者ですら生きることが厳しいこの世界には無力な民を守る力が不足していることを。それらを語ることで侑斗たちの恐怖心と良心と刺激するつもりだったのだ。そしてそれは侑斗と拓海の正義感を呼び起こすことに成功する。


「オレたちの安全のためにも、そして無力な民の安全のためにも騎士団に入ることが最善なんだろうな。」


「あぁ。オレたちはまだ街のこととかよくわからないけど、魔獣駆除で役に立てそうなのはわかったしな。」


 侑斗と拓海が自身に言い聞かすかのような発言が出るまでに1時間と掛からなかった。志帆にしても同様の結論に至ったようで彼らの言葉に神妙な顔で頷いている。七海1人が難しい顔で必死に考えをまとめているが、侑斗たちが軍入りを表明したところでようやく言葉を発する。


「お願いがあります。」





~~七海の不安~~ 


「七海、サンキューな!」


「オレらはそこまで考えてなかったよ。」


「さすが優等生ね!頼りになるわ!」


 七海のお願いは2つ。軍に所属しても出来るだけ4人で行動する許可と対人戦への拒否権だ。本音を言えば戦闘にかかわりたくないのだが、異世界人という存在について知るにつれてそれは不可能だと判断していた。きっと放って置いてはくれないということを理解したのだ。なので絶対的に避けたい対人戦だけは断固として拒否することを主張した。これについては侑斗たちも望むことであったために賛同を得られたのだが、もう1つについては七海の悩み種だった。


(本当は大輝さんを含めた5人がベストなんだけどな・・・)


 七海の中で召喚された中で最も頼りになるであろう人間が黒崎大輝であった。一郎、二郎は電車内でのトラブルやその後の行動から信用できない。侑斗や拓海、志帆は友人として大切な仲間であり、その真っ直ぐな性格は七海にとって非常に好ましいものであるが、この世界で生き抜くには危うい気がしていた。それはもちろん七海本人にも当てはまるのだが、それを補ってくれる存在が大輝であるはずだというのが七海の考えであった。


 だが、侑斗を筆頭に大輝への風当りは厳しい。召喚されてからすでに2か月近くが経っているが大輝との距離は遠ざかるばかりだった。そして七海にはアンナや騎士団、魔法隊が率先してそのように仕組んでいるように感じられていた。晩餐会でアンナたちの話を聞いていても上手く誘導されている気がしてならない。


(このままでいいのかな・・・)


 七海の心には底知れない不安が渦巻いていた。









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