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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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another point of view 2 ~侑斗・拓海・志帆・七海~

~~謁見~~


 侑斗たちの不安はここに来てさらに増大していた。映画のセットではない本物の宮殿に案内され、謁見の間での皇帝との面談が始まろうとしていたのだ。正面には皇帝と護衛の騎士、左右には数十人の貴族や騎士が控えているこの状態で平常心を保てというのは酷だろう。


 皇帝に問われても自身の名前をたどたどしく答えるのが精一杯の侑斗たちだったが、皇帝が召喚に対する謝罪を述べ、ハルガダ帝国の窮状を助けてほしいと懇願する姿を見てなんとかしてあげたいという気持ちが湧きあがる。特に侑斗と拓海は正義感の強い人間であるとの自覚がある。たとえそれが自分を良く見せたいという願望が混じっていたとしても悪いことではないだろう。しかし、同情心が吹き飛ぶ事実が明らかになったことでこれまでの不安が一気に怒りに転化される。大輝が契約魔法を本質を見抜いたからだ。


「「奴隷だとっ!」」


 一郎と二郎の声で転化された怒りが噴き出す。現代日本においては人権侵害も甚だしい暴挙である。怒りしか感じないであろうこの仕打ちに沸点の低い拓海はすぐにでもアンナや奴隷商人たちに殴り掛かろとする。当然ながら一郎、二郎も沸点が低いし、暴力に対する忌避感もない。侑斗自身も怒りに拳を握りしめていたところだ。志帆と七海は信じられないという表情で固まっていた。


「ストーーーップ!!!」


 あと1秒でも大輝が止めるのが遅ければ乱闘になっていただろう。後になって考えてみればよく止めてくれたとも思う。そうでなければ自分たちはよくて監禁、下手すれば殺されていた可能性もあるだろう。


(でも、異常だろ。あいつは。)


 迎賓館と呼ばれる館へ部屋を与えられた侑斗はそう思った。自分たちや帝国側を説き伏せたその後の弁舌は見事だった。いや、それだけじゃない。契約魔法に待ったを掛けた時からの大輝の言葉を思い出す。双方を刺激しないように細心の注意を払い、慎重に言葉を選んだであろう事がわかる。侑斗は直情的になることも多々あるが伊達にクラスの中心、部活の中心に存在しているわけではないのだ。大輝の異常さに気付く程度には周囲に敏感であった。


(街中で通りすがっただけの奴隷商人を覚えていて全てを看破するなんて普通できるか?)


 自分と拓海だけではなく、一郎、二郎だって初めて見る中世っぽい街並みや猫耳をつけた獣人、樽体型のドワーフを見て興奮していた時に大輝が全く別の視点で観察していたことも驚きに値する。もちろん、周囲が慌てている姿を見ると冷静になれる、なんていうことも知っているがそれとは次元が違う気がするのだ。


(あいつはどこかおかしい。気に入らない。)


 怒涛の一日が終わりかけ、ここまで感じていた不安や怒りといった負の感情が大輝の異常さへの不信感を増大させた瞬間だった。

 



 同じころ、侑斗と同様に大輝の言動に思いを馳せているものがいた。椚七海だった。


(あの人、たぶん、いえ、間違いなくフェイスレスだよね。)


 同性同名の可能性も無きにしも非ずだが、七海の知っている限りでは本人だと確信していた。


(本人が言わない限りは聞かない方がいいよね。)


 『フェイスレス』が自分から話してくれるまでは聞かないでおこうと決める七海は複雑な表情だった。


(大輝さんがこれからも守ってくれれば心強いんだけど。)


 幼い頃から独力で会社を興し、数々の特許を武器にIT系、製造系の会社への影響力を持つ会社へと育て、世界の経済情勢を読み切った上で資産を為替と株式でさら増やした『時代の先駆者』と呼ばれる男。一方で福祉関係に莫大な投資をしている慈善事業家でもあり、調査会社を通して社会基盤の脆弱性を指摘して何度も事故を未然に防いでいるらしいと一部で評価されている謎の多い男。そして表舞台へ出ることを拒否しているために『フェイスレス』と呼ばれていること。


 そんな男がすでに自分たちが契約魔法に縛られることを阻止し、3カ月とはいえ安全を確保してくれている。そしてその後の進路についても自分たちで決められるように帝国との交渉をまとめてくれているのだ。だからこそすでに七海の中では大輝のことを自分たちの保護者だと感じていた。そしてこれからも自分たちを守ってくれる存在であって欲しいと願っていた。


(大輝さんが自らのことを話したがらないのも何か理由があるのかな?)


 頭の中から大輝が消えない七海は召喚されてすぐにアンナを含めて自己紹介をし合った時のことを思い出す。大輝だけが名前以外はほとんどしゃべらなかったのだ。


(きっと私には想像もできないことを考えているんだろうなぁ。)


 すでに神格化しているとも言える程の扱いだったが、その理由の1つが不安でいっぱいな七海の心の弱さに起因していることにまでは気付かなかった。

 

(だったら、やっぱり余計な事は言わない方がいいよね、私。)


 大輝の邪魔にならないように振る舞うことを決める七海。しかし結局魔法隊主催のパーティーで初めて飲んだお酒のせいで大輝の話をしてしまうことになるが、幸いカンナ以外の上層部にはすぐに伝わらずに済む。そしてこのことが帝国の運命を2重に変えて行く原因になるのだが、それを知るものは誰もいなかった。




~~訓練と分断~~


「どうやらきちんと約束を守ってくれるみたいね。」


「そうだな。この10日間をみれば安心していいと思うぜ。」


 志帆の言葉に同意を示すのは拓海。迎賓館での生活にも慣れ、付けられた騎士と魔法士たちとも打ち解けて来たところだった。実際、至れり尽くせりの対応だったのだ。食事の世話からはじまり洗濯、掃除等の家事は全て迎賓館のメイドたちがやってくれるし、この世界の常識を身に着ける為の家庭教師までつけてもらっているのだ。そして接する人全員が親切であり客人として最上級の対応をされているのを肌で感じていた。

 

 もちろん志帆も拓海も召喚という名の拉致、そして契約魔法という名の奴隷化計画を目の当たりにして警戒心を全開にして数日を過ごしていたのだが、その心境も変わってきていた。友好的に接して来る相手を邪険にするということに心が痛んだのだった。


「で、訓練の誘いを受けた件はどうする?」


 大輝を振り返って拓海が尋ねる。


「オレは受けるべきだと思う。いずれにせよずっとこのままって訳にはいかないだろうからさ。」


「だよな。それにスキルってのも試してみたいしな。」


「私も賛成。なんかなにもしてないのにレベルが上がってるけど、訓練した方がもっといいんじゃない?」


 拓海と志帆も認証プレートを見ながら日々増加するスキルとそのレベルに興味津々であった。


「でも、大輝さんがもう少し様子を見た方が良いって・・・」


 七海だけが大輝の名を出して乗り気でないことを表明する。


「でも一郎と二郎も昨日から騎士と別行動してるぜ?あいつらより弱いのはまずいっしょ?」


 拓海が因縁をつけられた電車内のことを指摘し、自分たちも力を付けないといけないと力説する。


「オレも拓海と同じ考えだな。オレらはオレら、大輝は関係ないさ。」


 侑斗が苦々しい表情で大輝の名を口にする。侑斗が大輝を避けていることはすでに周知の事実だ。喧嘩腰で接することはないが、明らかに距離を取っていることはここにいる拓海、志帆、七海だけではなく館内のメイドたちですら気づくレベルである。七海としては気が気でないのだが、大輝自身が全く気にした素振りを見せないために放置していた。


「じゃあ、多数決で参加ってことでいいわね?」


 七海の明確な反対を唱えたわけではないため、志帆がそうまとめる。こうして着々とアンナ第一皇女とフィル宰相の異世界人分断計画が進行していくのだった。





~~タイプ~~


「見事に分かれたわね。」


「でもパーティー組むなら最適じゃないか?」


「だよな!全員が万遍なくスキルを持ってて、しかもそれぞれ少しタイプが違う。」


「万能型のパーティーってことかな?」


 侑斗たちが訓練に参加し始めて2週間足らずで急激なスキル習得が止まり、それぞれの方向性が見えてきたのだ。そしてそれぞれが認証プレートで確認し合っている。


        侑 斗   拓 海   志 帆   七 海  

【戦闘系スキル】

 剣術      6     4     2     2

 体術      5     5     4     4

 杖術       ‐     ‐     3     ‐

 盾術      2     6     ‐     ‐

 身体強化    6     6     4     4

【魔法系スキル】

 火魔法     4     2     6     3

 水魔法     2     2     2     6

 風魔法     2     2     3     6

 土魔法     4     4     5     3

 回復魔法    4     2     2     6

【その他】

 解析        3     2     2     2

 気配察知    5     4     4     4



「すごいよな、これって・・・」


「ああ、ネーブル団長が言ってたけど、スキルだけ見れば騎士団長クラスらしいよ、オレら。」


「魔法隊でも隊長クラスを超えてるって言われたわね。」


「戦闘関連の主要スキルはほどんど全部揃ってるって驚かれたんだけど・・・」


 スキルだけを見れば全員が万能型の戦闘が可能なレベルであった。ただ、この時の彼らは勘違いをしていた。アメイジアでは確かに所有スキルは大きな意味を持つが、それがイコール戦闘力では決してないのだ。【戦闘系スキル】でいえば、剣術スキルの中に大剣、短剣、槍等の刃物系全てが含まれる。それは全ての武器を使いこなせるという意味ではないし、また、スキルレベルは最大威力を発揮した場合の強さの限界値という意味になる。それぞれの武器の相性もあれば使いこなすための戦術、経験等が伴ってはじめて意味を成すということを彼らはまだ知らない。あくまで異世界人としてこの世界で最強になれる可能性を持っているということにすぎないのだ。


「これだけスキルがあれば今度の魔獣駆除も大丈夫だよな?」


「ええ。騎士団も魔法隊も一緒だしね!」


 実戦で経験を積むことになった侑斗たちだったが、魔獣駆除はお膳立てされたものであり、本当の戦闘を知るのはまだまだ先のことになる。




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