another point of view 1 ~侑斗・拓海・志帆・七海~
~~召喚~~
「テスト前って部活が休みになるのは嬉しいんだけど、これから勉強って考えるとテンション下がるよな。」
「だな。でも侑斗はまだいいじゃん。補習対象になるのはせいぜい1教科だろ?オレなんて確実に英語と古文は補習行きだぜ?下手したら数学だってやべぇし。」
「侑斗も拓海も2人まとめて七海に教えてもらいなさいよ。七海は優等生なんだから。」
「し、志帆ちゃん。私、誰かに勉強教えるなんてやったことないよ。」
「志帆だってそんなに成績良くないだろ?」
「そうだよ。自分のこと棚に上げてさ。」
「あら?私は補習なんて受けたことないけど?」
「「ぐぬ!」」
「志帆ちゃんそんな言い方ダメだよ。」
都心を周回する環状線の電車内で高校生らしい楽しそうな会話を繰り広げるのは同じデザインの制服を着る城戸侑斗たちだ。その侑斗から見て一番の親友といえるのが佐久間拓海だ。中学から一緒の拓海とは気が合い、高校に入ってからはよく遊びに出掛ける相手である。また佐伯志帆も侑斗にとっては幼い頃からの友人であった。クラスが同じになる機会が少なかったこともあってそれほど過ごした時間は長くないが小学校から一緒の幼馴染の1人である。この中で一番付き合いの短いのが椚七海だ。高校に入ってからの友人だが、元々社交性の高い侑斗たちとはよくカラオケなどに付き合っている。
キイィィィー!!
「「きゃっ!」」
突然電車が急ブレーキを掛けたために慣性の法則によって身体が前方に流される乗客たち。特に吊革に掴まっていなかった小柄な七海が転倒し、咄嗟に対応できなかった志帆が進行方向に向かって数歩分流される。そして彼女たちの身体は運悪くガラの悪い男たちにぶつかることでようやく停止することになる。
「いってぇな!」
「てめえら何しやがる!」
あまり品のよろしくないくたびれたダブルのスーツを着る30代中程の男2人。服装だけではなく目つきや口調もその筋の方々を思わせるかかわりたくないタイプの男たちだった。
「す、すいませんでした!」
「悪かったわ!でも仕方ないじゃない、急ブレーキだったんだから。」
「「言い訳してんじゃねえよ!」」
男たちの怒声が電車内に響いた直後、スッと周囲の人たちが離れて行く。誰もがかかわりたくないのだ。志帆と七海を庇いに来た侑斗と拓海、その筋と思われる男2人の一郎と二郎、騒ぎが起きてもその場を離れなかった品のよいスーツを着た細身の男の7人が乗客たちの注目を浴びている。そして彼らは己の意志とは関係なくその場から消え去った。
~~白き世界~~
高校2年生。大人とも子供とも言えない中途半端な立ち位置なのかもしれない。未成年であり学生であることから子供として扱われる方が圧倒的に多いが、身体は大人に限りなく近く自立を始める者もいるし、大人ぶりたい年頃でもある。ただ、親の庇護下にあり学校では先生という保護者もいる彼らは総じて甘えているとも言える。そして非常時にその傾向は顕著に表れる。それが現在だ。
いつもの下校風景から一転、ヤのつく職業と思われる方々に脅されている最中にこの世のものとは思えない空間に連れてこられ、神の遣いを名乗る人物に元の生活に戻れないと宣言されたこの状態は非常事態どころではない。異常事態だ。
「勝手に召喚だなんて誘拐じゃないか!」
「訴えてやるぞ!」
至極真っ当な主張ではあるが、この異常事態においては有効な手でないことに気付かないのも仕方ないと言える。この異常事態で平常心を保っていられることこそが異常なのだから。そしてその異常者が1人含まれていたことが彼らの心をさらにかき乱す。
「まずは続きを聞かせていただけませんか?」
黒崎大輝というその男だけが異常なのだ。わけのわからない事を言う神の遣いという人物の話を聞くべきなのは理解できる。この場で真実を知っているのは彼だけなのだろうから。喚きたてるだけでは何も解決しないことくらい高校生であれば当然わかっている。ただ、心が追いつかないだけだ。
「なにがしかの能力を我々が授けることはできない。」
神の遣いの言葉によって漫画や小説で有りそうなパターンを崩された彼らが怒るのも無理はない。今や彼らの神経は細く、敏感なのだ。全てに過剰反応を起こしてしまう状態である。それでも仲間がいたことが幸いした。相談できる相手がいるというのは非常に心強いのだ。しかし、今の状態を確認し合うこと、提示された修行場をどう使うか等話し合いたいことは沢山あるのに時間が限られていることで焦燥感が湧きあがってくる。そんな時に異常者が勝手な行動を取る。
「では、さっそくフィールドへお願いします。」
「おい!勝手に行動するなよ!」
人は身勝手な生き物である。多くの者が自分に都合のよい状況を望んだり解釈したり、それを相手に押し付けることがある。二重規範もその1つだ。
侑斗たちは心の中で自分たちを1人の大人だと思っているにもかかわらず大輝という明らかに大人であるとわかる人物に庇護を求めている。親や先生の代わりとして。それにもかかわらず敬語を使わないどころか敬意すら払っていない。自分たち子供を放って行くなど言語道断という姿勢である。大輝はそれを良しとせずに振り払ったのだが、侑斗たちにとっては厳しい判断が下されたといってもいいかもしれない。今は異常事態が起きているのだし、侑斗たちは大輝と違って普通の高校生なのだから。
「なんなんだよアイツは!」
「もうあんな奴を気にしてる場合じゃないでしょ!こっちも早く決めないと。」
大急ぎで2組に分けて修行場に入ることを決める侑斗たちだが、彼らの一郎、二郎、大輝に対する不信感はかなりのものがあった。そしてアメイジアの地へ降り立つ際に記憶を失っても大輝に対する不信感は心の奥にしこりとして残ってしまうことになる。
~~召喚~~
絶句。
電車内で光に包まれたと思ったら数十人に囲まれていたからだ。一瞬、テレビ番組によくある『ドッキリ企画』なのかな、と思った侑斗だがすぐに違うこと気付く。囲んでいるのは映画やアニメの世界に出てくる魔法使いや騎士の格好をしている者たちだが、演技とは思えない程の緊張感を醸し出しているからだ。
「な、なんだコイツら!」
「なにが起こってる!?」
「「・・・・・・・。」」
我に返った侑斗と拓海が声を荒げ、志帆と七海は無言でそれぞれの身体を抱きしめあっている。一郎と二郎はまだ再起動していない。囲んでいる側も不審者を相手にしているかのように不用意に近づいてこないようだった。その隙に侑斗は志帆と七海を守るかのように前に立って周囲を観察する。一緒に下校途中だった親友の拓海がいることに安堵し、他に同年代の男3人がいることを確認する。どこか見覚えがある気がしたが侑斗たちと一緒に囲まれているところを見ると敵ではないようだと判断する。
侑斗は基本的にリーダータイプの人間だ。彼の周りには人が集まる。社交的な性格と弱い者いじめを許さない正義感の持ち主というのが親や先生、友人共通の彼に対する評価だ。
(オレがコイツを守らないと。)
侑斗の気概を感じ取った親友の拓海が侑斗同様に女の子を守る位置につく。瞬時に意図を汲み取ってくれた親友に感謝しながらも次の行動を考える。
(言葉が通じるかわからないけど、とりあえず不良連中を相手にしたときと同じでいいよな・・・。)
銀で統一された鎧兜の騎士たちは日本人には見えなかったのだ。兜の隙間から見える髪の色は金、黒、赤、青と様々であり、アニメの世界の登場人物に見える。
(まずは一発かます!)
いきなり殴りかかるわけではない。不良連中を相手にするときはまず舐められないようにするために大声で威嚇するのが侑斗と拓海のやり方だ。繁華街で遊んでいた時に絡まれた時はそうして切り抜けてきたからだった。大声を出すために、ふぅっと息を吸い込んだ時、先に相手側が動いた。
「皆さま!我々には危害を加えるつもりはございません。」
侑斗たちと同年代と思われる女が騎士たちの前に微笑みを浮かべながら出てくる。
「はじめまして。アンナ・ハルガダと申します。よろしくお願いします。」
鈴の音が鳴ったような声とともに優雅に一礼するアンナと名乗る女。たったそれだけだったが、歩き方、微笑み、声、礼の全てが洗練されたものであり侑斗たちを魅了する。また、アンナの美貌とスタイルも相まって海外のスーパーモデルを連想させた。それも超の字がつく一流のだ。もちろん侑斗たち普通の高校生には本物の一流というものを目にしたことなどないが、アンナは一国の姫であり物心つく前からそういう教育を受けていることが侑斗たちを圧倒したのだった。
結局、侑斗たちはアンナの話を素直に聞くことを選択する。アンナの登場で囲んでいた騎士たちの緊迫した気配が薄らいだことも原因の1つであるし、アンナに圧倒されたということもある。しかし、自分たちが召喚された事実には怒り、絶望、嫌悪といった悪感情を抱く。当然のことだ。それでも悪態を吐くだけで直接的な行動をするほど侑斗たちは愚かではなかった。50人の本物の剣を持つ騎士と空想の世界のものだと思っていた魔法を使う魔法士20人が周囲を囲んでいるのだから。
蓄積された悪感情はアンナの指示で帝都へ向かう最中に同時に召喚された他人へと向かった。侑斗と拓海、一郎と二郎がそれぞれ組んで相手を貶め始めたのだ。それぞれが感情の捌け口にしていることをある程度自覚しつつも止められなかったのだ。そして大輝1人が冷静にそれぞれを諌めたがそれすらも彼らの感情を逆なでしたにすぎなかった。全員がただ不安だったのだ。今後自分たちがどうなるのか、と。




