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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第二十八話 名もなき村

 意気揚々と村へと戻ってきたイース少年たちと彼らに招かれた大輝は現在の状況に困惑していた。少年少女たちは滅多に獲れないフォレストボアを2頭確保したことへの称賛を予想していたし、大輝も村の子供たちを危険から守ったことを感謝されると思っていたのだが、木柵で囲われた村の唯一の出入口で槍を突き付けられ、そのまま村内の広場まで連行されたからだ。


「イース君、これってどういうこと?」


 一緒に連行された少年に小声で説明を求める大輝。


「わ、わからないよ。もしかしたらこれまで村に純人のお客さんが来たことないからびっくりしてるのかも。」


 どうやら少年もこの状況に戸惑っていることから、大輝はしばらく様子をみることにする。数人が武装した状態でこちらを警戒している状態だが、剣を取り上げようとしたり拘束しようとする様子もないため、すぐに行動を起こすことを自粛したのだ。そしてまずは情報収集とばかりに周囲に視線を巡らす。


 木柵で囲われたこの村には連行された広場を中心に木造の家が5,60軒ほどあるようだ。そして広場で大輝とイースらを囲んで集まっているのは獣人と思われる人々100人余り。


(獣人のみで構成された村か?)


 大輝が断定できないのには理由がある。アメイジアには亜人、獣人と呼ばれる人々がいるが、彼らと大輝たち純人とを合わせて人種、つまり人間と言われる。人間と一括りにされる理由は、外見が似ていることと、子を成すことが出来るからだ。お伽噺によれば、大昔は外形上の差が顕著で、獣人の多くは獣耳、尻尾、爪、毛皮等それぞれが受け継ぐ動物の因子を濃く表していたようだが、徐々に薄れて今に至るらしい。その結果、個体差はあるものの髪の毛に隠れる程の獣耳しか持たない者も多く、見た目だけで判断できないのだ。


 ただ、同じ人種といっても、差別はあった。外見の違いだけではなく、それぞれの種族の持つ能力への恐怖や嫉妬が原因だ。能力的には平均的な純人たちがアメイジアで最も大きな力を持っているのは、単純に数が多いからだ。亜人の中でもエルフは魔法適正が高いし、ドワーフは持久力が高く器用な種族だ。獣人は種族全体で身体能力が高い上、狼族は俊敏性に優れ、犬族は嗅覚が発達している等の特徴を有す。争いになる理由は十分あったのだ。


 現在、アメイジアで大規模な種族間戦争が起きていないのはすでに決着が着いたからだと大輝は思っている。国の頂点にいるのはどこの国も純人だからだ。そして、ロゼッタ公国のように純人至上主義の国もあれば、表面上は差別の少ないハルガダ帝国、融和の進んだ南部三カ国もあるのはそれぞれの政策の違いと長い時間が経過した結果だろうと思っていた。


(もしかしたら、純人であろうオレを警戒している?)


 この世界の歴史を思い出し、独自の推測を加えた大輝の考えは半分正解だった。ただ、警戒されている理由はそれだけではなかったことがすぐに明らかになる。村の代表と思われる老人が現れたからだ。




 現れた老人を案内してきた者たちが老人の指示によって大輝とイースたちの手前3メートル程に草で編まれた敷物を広げる。縦横がそれぞれ5メートルはあろうかという敷物は花見用のレジャーシートのように見えた。そこに老人と2人の男女が靴を脱いで座り大輝たちにも座るように視線を向ける。一連の動きを見ていた大輝は相手に害意はないと判断し、まずは両腰に差していた小剣2本を鞘ごと引き抜きその場に置いてから用意された敷物に上がって胡坐をかく。敵意がないことを表明するためだったが、剣に手を掛けた大輝を見て一瞬槍を持つ男たちが色めき立ったのを老人が手で制す。それを見て大輝に続いてイースたちがそれに倣うように武器を置いてから靴を脱いで上がる。イース少年はリーダーの自覚があるのか大輝の右隣に座り、イーニャたちは大輝とイースの後ろに正座で畏まる。

 

「この名もなき村の村長を務めるガイルという。」


 おもむろに話し始めた村長ガイルは獣人としての因子を強く持っているようで、犬を思わせる耳と尻尾の他に、口を開かずとも伸びた犬歯が見える程だった。おそらく狼の因子だろうことが想像できた。


「大輝といいます。」


 一言だけ自己紹介をして軽く会釈する大輝。村長が出て来た以上、まずは相手の話を聞こうという姿勢だった。


「まずはお尋ねしたい。イースたちをフォレストボアから助けたと聞いたが真か?」


「門でも広場(ここ)でも散々オレが説明したろ?」


 大輝に対しての質問にイースが答える。扱いに不満を持ったイースがこれまでに何度も大輝との遭遇状況や礼をしたいから連れて来たことを周囲の人間に大声で説明してきたのだ。再度の確認につい不満をぶつけてしまったのだった。


「イース!お前は黙っていろ!」


 村長のガイルに付き従うように座っていた男から叱責が飛ぶ。


「父ちゃん。オレがもう何度も説明したことだぜ!」


「イース!」


 イースは父の睨みに今度こそ黙る。大輝のように魔力を乗せた威圧ではなく、父としての威厳を乗せた威圧だった。同じ村の人間に囲まれたことを不憫に思い、また、その原因が自分だろうことを理解していた大輝がここで話を戻す。


「はい。偶然イース君たちがフォレストボア2頭に襲われているところに遭遇し、フォレストボアを撃退しました。」


 出来るだけ簡潔に質問に答える大輝。


「そうか。ならば聞きたいことは色々あれどまずは感謝と謝罪が先だな。」


 そう口にしたガイルが胡坐から正座へと姿勢を変え、丁寧に頭を下げる。それに倣うように控えていた男女も同様に頭を下げた。


「この度は村の子供たちを助けてくれたことをここに感謝致します。また、恩人に対して失礼な振る舞いをしたことをお詫び致します。」


 口調を丁寧なものに変え、感謝と謝罪を示すガイルたち。大輝はその誠意の篭った態度に感心と安堵を覚える。一方、イースたちは村長とその相談役であるイースの両親の態度に驚いていた。はじめてみる姿だったからだ。


「いえ、当然のことをしたまでですし、皆さんが見知らぬ武装した相手を警戒するのも当然だと思ってますから。頭を上げてください。年長者にそう畏まられる方が困っちゃいますよ。」


 正直に思っていることを話し、最後は多少おどけた声音で気にしていないことを示す。


「そう言ってもらえるとありがたい。」


 ガイルが頭を上げてから敷物を広げていた中の1人に飲み物を用意するように告げる。まだこの場で話の続きがあることを示唆する指示だった。大輝としても過剰とも思われる村の反応が気になっていたのだ。先ほど自身が言った通り、外部の武装した人間を警戒するのは当然だが、村の子供が一緒にいる相手、しかもその子供たちが危ないところを助けられたと主張しているにもかかわらず村人たちは納得した表情を浮かべることがなかったのだ。それは子供たちの主張を疑っているのではなく、なにか別のことを警戒しているとはっきりとわかる様子だった。大輝はその理由が気になったのだ。


「少し大輝殿のことを聞いてもよろしいかな?」


 飲み物が人数分行き渡ったところでガイルから切り出した。大輝が何者でどこから来てどこへ行く予定なのかなどを柔らかい表現で尋ねてくるガイルに対し、大輝は召喚された異世界人であることや監視の目を掻い潜っている最中であることは言わないが、出来る限り嘘はつかないように答えていく。


「帝都ハルディアで冒険者登録をしたEランク冒険者です。フォレストボア2頭を撃退する程度の腕はあります。とはいえ、経験不足なので街道から離れて魔獣を討伐しながら旅をしている途中でイース君たちと遭遇しました。この後はハンザ王国へ行くつもりです。魔道具にも興味がありますし、コメをはじめとして帝国とは違った料理にも興味があるのが理由ですね。」


「魔道具か・・・。」


 大輝の話を視線を逸らさずにまるで見極めようとしているかのように聞いていたガイルが魔道具という単語に大きく反応する。そして一言呟いた後に後方に控えていた2人の方へと視線を向ける。視線を受けた2人は小さく頷いた後、いまだ周囲を囲む村人たちへ向けて解散を指示する。


「大輝殿をお客人としてお迎えする。」


「それぞれの仕事に戻って下さい。」


 ガイルの側近と目される2人の発言力は絶大のようで、村人たちは大輝たちに向けて非礼を詫びるかのように頭を下げてから散っていく。ガイルたちに任せておけば問題ないと安心しているのだろう。その様子を眺めていた大輝にガイルから場所を移して話がしたいと申し出が出る。


「大輝殿、申し訳ないがもう少し話がしたい。儂の家までご足労いただけないだろうか。」


「わかりました。」


 まるで本当に話はこれから、という雰囲気のガイルに一言で了承を伝える大輝。大輝としてもまだ何一つ疑問が解消出来ていないため当然の返事だった。


 すぐに移動を開始したのは村長のガイルを先頭に側近の男女と大輝の4人。イースたちもついて行くと主張したのだが、ガイルの側近でもある父によって同席を許されなかった。どうやら、規則を破って無断で行動を許された狩場の外へ出たため、説教と罰があるらしい。正座のままこの広場に残るように言われたイースたちに反論の術はなかった。



 大輝が案内された家は広場の中から見えた木造の家とほとんど同じ大きさだった。村長だからといって贅沢な暮らしを出来るわけではないようだ。木製の扉を開けて通されたのは土間から一段上がった食堂兼居間だろうか。靴を脱いで上がったその空間の中心には囲炉裏があり、それを囲むように座布団が置かれている。その上座に家主でもある村長が座り、左右に側近の男女、土間側の下座に大輝が腰を下ろす。最も、上座下座の概念がこの世界にあればだが。


「単刀直入にお聞きしたい。」


 先ほどまでと違い、緊張した声音でガイルが切り出した。


「大輝殿は異世界から来られたのではないか?」












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