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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第二十一話 少女たちの誘い

 午前7時。朝食を昨夜の残りである熊料理で済ませた大輝たち11人は大急ぎで出発の準備をしていた。そう、11人だ。すでに昨夜の内に商人と護衛の男たちには大輝が話をつけてあり、非常に協力的に動いている。彼らは名目上、フォレストベアーから助けてもらったお礼という形でフォレストベアーの運送協力を大輝たちに申し出たことになっている。大輝の相談という名の威圧に屈したのだが。


 結果、まずミリアの回復魔法で男2人を治療してもらった。運よく打撲だけで済んでいた男2人は瞬く間に回復した。その間、風魔法の使える大輝とロロが近くの樹を数本切り倒し何枚もの板にカットしていく。破壊された荷車のうち、無事だった車輪4つを使って2輪の荷車2台を作る為だ。他にも担架のようなものも1つ作る。それらは魔力操作に長けた大輝が石を加工して釘を作って接合する。力仕事は護衛の男たちにやらせる大輝。こき使うつもりだった。


 彼らがフォレストベアーを運送すべく動いている間、商人たちは散乱した荷物を残った荷車に積み直したり、ミリアは野営地の後片付け、カーラ班はフォレストベアーの一部を氷漬けにして保存したり運びやすいように小分けにしている。


 こうして2時間で準備を整えた一行は街道を北上し始める。マサラの街の門は18時には閉まるというので9時間以内に40キロを走破しないと今夜も野宿になってしまうため、大荷物にも係わらず早歩きで足を進めている。その先頭は商人の1人が手綱を持った馬1頭が曳く荷車、その後ろをもう1人の商人が手綱を持った馬が曳く2輪の荷車だ。もちろん2輪の荷車に載るのはフォレストベアーの一部だった。その後ろに大輝と少女4人が続くが、彼らは交代で荷物の載った担架の持ち手を務めながらだ。手の空いたものは周囲の警戒を務めることになっている。最後尾には護衛の男4人。彼らは2人ずつ交代で2輪の荷車を曳いている。


 宿場町マサラへの道中は順調に進んだ。担架の持ち手の少女たちも荷車の曳き手も冒険者である。得意不得意はあってもそれなりに身体強化が使えるため問題なく進んでいたのだ。途中、2度ほどフォレストドックが現れたが気配察知スキルを全開にしていた大輝によって事前に行軍が止められ、あっという間に討たれていた。


 これなら問題なくマサラに到着できるだろうと余裕の出来た大輝は約束通り身体強化の訓練方法や魔獣討伐方法について話をしながら歩いていた。


「つまり魔力操作が重要ってことかしら?」


 一通り自分が行ってきた訓練内容を話終えた大輝に確認するのはエリス。


「そうだね。身体強化って身体の動きを魔力でサポートするってことでしょ? だから魔力操作の精密さと素早さがあればより効率的に身体が動くようになるよ。あとは状況判断能力だね、大事なのは。」


「魔力操作はさっき教えてもらった訓練でなんとかなるとして、状況判断ってどういうこと?」


「簡単に言うと、「いつ」「どこを」「どの位」強化するべきか考えるってことだね。」


「確かにそれは大事ね。」


「うん。状況判断って、実はみんな常にしてるんだけどね。」


「それもなんとなくわかるわ。今だって、残りの距離や時間を考えて体力配分してるし、そういうことでしょ?」


「その通り。で、その状況判断は早く正確な方がいいよね?だから常に判断が下しやすいように知識を得ておいたり周囲の情報を見逃さないようにすることが大事になる。」


「大輝は昨日それが出来てたからあんなに冷静に対処ができたわけね。」


「そういうこと。魔獣について言えば生息範囲や遭遇情報、習性、弱点等色々知ってないと怖いからね。」


「事前準備も大切ってことね。反省しなきゃだわ。」


「偉そうなこと言ってるけど、オレだって失敗だらけだけどね。」


 そう。大輝はおおきな「失敗」をして旅に出ているのだ。「自由」を求めて旅という道を選んだのだ。


(自由気儘にって思ったけど、それって具体的になんなんだろうな?)


 大輝は青空の下、はじめて目標を持たない自分に戸惑っていた。 


 



 太陽が西に傾いて来た頃、街道の正面にマサラの街が見えてきた。総延長4キロ程の石垣に囲まれた宿場町マサラは人口1万を数える街だ。街の西側は土壌が豊からしく帝都へも穀物を大量に供給している。東には北東の森があり魔獣や薬草を求めて拠点とする冒険者も多い。そんなマサラの街を前にして大輝は劣勢に立たされていた。優勢なのは4人の少女たちだ。


「やはり大輝はパーティーに入るべき?」


「だからミリア!大事なところを疑問形にしないで!」


「エリスも突っ込んでる場合じゃないでしょ!」


「あと1時間くらいで街に着いちゃうよ。」


 一通りの身体強化訓練方法の教授と魔獣談義が終わった後、今後の大輝の予定を聞き出していたエリスが大輝の勧誘を始めたのだ。少女たちの中で勧誘は事前に話し合っていたのだろう。すぐに他のメンバーが寄って来てアピールが始まったのだ。ちょうど担架を担ぐ番で動きの取れない大輝に逃げ場はなかった。そこに後方でもう片方の担ぎ手であるカーラを除いた3人が囲む形で話が進む。カーラも3メートル足らずの距離にいるので口を出しているが。


 エリスの主張はこうだ。


「パーティーのリーダーとして有望な冒険者を勧誘するのは当然よ!うちは前衛を出来るのが私だけだからフォレストベアーと接近戦の出来る剣の使い手は是非欲しい!」


 ロロの主張はこうだ。


「うちは女性だけのパーティーで昨日みたいに男性パーティーに絡まれることもあるから、信用できる男性冒険者がいると心強い。土魔法でみた繊細な魔力コントロールも是非教えて欲しい。」 


 カーラの主張はこうだ。


「昨夜は納得したが、フォレストベアーの報酬は貰いすぎているので恩を返したいので時間が欲しい。

大輝が苦手としている解体の知識もあるので互いに利益があるはず。」


 ミリアの主張はこうだ。


「可愛いと言った。責任とれ?」


 エリスの主張は理解出来た。パーティーのことをしっかりと考えた良いリーダーだと思う。身体強化や剣の訓練の相手としても見込まれているのだろう。非常に嬉しく思った。美人だし。


 ロロの主張も最もだ。女性ばかりで苦労することもあるのだろう。男性としては守ってあげたい気もする。なにしろ、ローブの上からもわかるほどに大きな2つの山が存在を主張しているのだから。巨乳か。


 カーラの主張が最も合理的だ。フォレストベアーの報酬は大輝が敢えて受け取らせている面が強い。そして大輝が得る利益をきちんと提示している。こういう相手は大輝の好みでもある。


 ミリアの主張はよくわからない。ただ、大輝を兄のように慕いはじめていることには気づいていた。妹をもつ大輝にはそれが可愛いと思える。実際可愛いし。


 しかし、彼女たちとパーティーを組むことを大輝はやんわりと拒否していた。異世界人である大輝には少なくとも今はパーティーを組むことは出来ないのだ。まだ各国の動向がはっきりせず監視が消えた確証がないからだ。もし、彼女たちとパーティーを組んで親しくなった頃に人質にされたら? もしオレがいるせいで襲撃に巻き込まれたら? 予測が立てられない位に情報がないのだ。大輝には断る以外に選択肢はなかった。


「誘ってくれるのは非常にありがたいんだけど、今回は遠慮させてもらうよ。ありがとね。」


 何度目かの断りを入れた大輝。


「可愛いっていったクセに?」


「いや・・・それは言ったけど。」


「男色家?」


「違うわ!」


 一番の難敵はミリアだった。


「うちは品揃え豊富。何が不満?」


「ん?」


 ミリアは意味不明だと思った。


「エリス姉は美人。10人中9人は振り返る。数えたから間違いない。ロロ姉は巨乳。男の視線は大体ロロ姉の胸に真っ先に行く。カーラ姉は家庭的。嫁ランキング上位。わたしは・・・可愛い?」


 エリスから順番に指差しながら解説を加えるミリア。間違ってない解説だろう。認めざるを得ない。


「ミリアさんや。品揃えってそういう事ですかい。まあ、正しいとは思うけど。」


 ミリアの評価に照れ笑いを浮かべたエリスたちが大輝の肯定の言葉にさらに顔を赤らめる。


「そんなパーティーの勧誘を蹴るなら理由があるはず? 男色家とか?」


「いやいや。とりあえず男色家から離れてください。」


 つい敬語になる大輝だが、確かに納得できる理由を説明できていないのは確かだった。全てを説明できないのが心苦しいが、彼女たちの安全が最優先だと割り切ることにする。


「まあ、理由はあるんだよ。もちろん、ミリアたちがどうこうじゃなくてオレの理由なんだけどね。」


 そう前置きして、少し真面目な表情と声音で話をする大輝。


「理由っていうのを全部は言えないんだけど。個人的な理由で旅をはじめたばっかりなんだよ。それもつい昨日スタートのね。だから、すぐにマサラの街も離れるつもりだし、しばらくはソロでやるつもりなんだ。」


「私たちは近くの村出身だけど、いつまでもマサラにいるつもりはない。だよねエリス姉?」


「そうね。村に帰るつもりもないからね。大輝は目的地があるの?」


「いや。特にどこってことはないな。冒険者としてというよりは、旅人のつもりであちこち回るつもりだからね。」


 頑なな大輝に対して一旦引くことにするエリス。


「そっか。じゃあ、とりあえずは勧誘は一旦諦めるわ。マサラにはどの位滞在するつもり?」


「特に決めてないけど、数日ってところかなあ。」


「じゃあ、その間だけでも臨時パーティーってのはどうかしら? 私たちはマサラの街を拠点にして2年近いから案内役くらいにはなるわよ? ついでに訓練つけてくれるともっと嬉しいけど。」


 ミリアはすぐに街を離れてでも大輝と一緒に行動したいようだったが、話を引き継いだエリスが臨時パーティーで妥協を計る。一瞬考えた大輝だが、数日間なら彼女たちに害もないだろうと考え承諾する。


「そう言うことだったらこっちからお願いしたいかな。」


 ミリアは若干不満そうだったが、話が纏まったところでマサラの街の南門に到着した。閉門時間が迫っていることもあり、少し並ぶだけで守衛の元まで進めた。


「商人とその一行か。全員認証プレートの提示を。それと積み荷の確認をするので布を外してくれ。」


 守衛の指示に従い、商人と護衛の男たちがそれぞれの荷車を覆っていた布を外す。大輝たちも担架の布を取り去る。


「ぬ!これはフォレストベアーか!」


 守衛が驚きの声を上げる。魔獣ランクCのフォレストベアーだ。倒せる者はそれなりに限られる。しかも通常は北東の森の深域にいる魔獣であり、ほぼ全身が街に持ち帰られる事は少ない。


「ええ。40キロ南の野営地にいる時に襲われました。木柵を壊して襲ってきたところを昨夜撃退して持ち帰ってきたところです。」


 野営地の木柵が壊されたことを思い出した大輝が守衛に報告する。


(確か、国と領主が野営地の整備をしてるんだったよな? 報告しとかないとまずいな。)


「そうか。大変だったな。それにしても深域の魔獣が出てくるとは運が悪かったな。」


「そうですね。倒せたからよかったですが、護衛の居ない時だったら大参事でしたよ。」


 守衛の言葉にさりげなく人数がいたから倒せたことを匂わす大輝だった。


「うむ、野営地付近の監視強化と修繕を進言しておこう。なにはともあれ無事でよかった。通っていいぞ。」


「ご苦労様です。ではこれで失礼します。」


 無事マサラの街に入った大輝たちは冒険者ギルドの買い取り査定場へ向かう。もちろんフォレストベアー運搬を快く申し出てくれた方々も一緒にだった。




 マサラの街の冒険者ギルドは南門から200メートル程にあった。支部ではなく出張所という扱いだったが、それでも十分な大きさの敷地を持っている。魔獣スポットである北東の森が近いことがその最たる理由だろう。エリスに案内してもらい、裏手の査定場へフォレストベアーを運び込む一行。積み荷を降ろしたところで善意の方々とはお別れだ。大輝は商人と男たちに感謝を述べる。


「命が助かってよかったな。もう人に恨みを買うようなことはするなよ。」


 大輝の言葉を青い顔をして受け取る6人の男たちはすぐに腰を90度に曲げ頭を下げてから立ち去る。

それを怪訝な顔で見る査定担当のギルド職員と呆れた顔を大輝に向ける少女たち。


「いったい昨晩どんな話し合い(脅し)をしたんだか・・・。」


 


  


 

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