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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第二十話 野営地での宴会

 「凄い・・・倒しちゃった。」


 「お、終わったの?」


 「「・・・・・・・。」」


 大の字に横たわるフォレストベアーとゆっくりと歩いてくる大輝を交互に見る少女たち。商人2人と護衛の男たちは目の前で起こったにもかかわらず信じられないといった表情で微動だにしない。


「皆さんの援護のお蔭でなんとかなりましたね。ありがとうございました。」


 少女たちの元へ辿り着いた大輝が笑顔で感謝を述べる。


「い、いえ。私たちは大したことは・・・」


「魔法使いすぎて疲れた?」


「信じられないわ。」


「もう大丈夫なのよね?」


 ミリアは得意ではない火魔法の連発でかなり疲弊しているように見える。それに対してロロはまだ余裕がありそうだ。スキルのレベルや魔力変換効率の差が出ているのだろう。テンカウントを繰り返しただけのエリスと出番のなかったカーラは緊張から来る精神的な疲れがやや見られるものの問題なさそうだ。


「フォレストベアーは倒れました。もう安全ですよ。」


 そう言う大輝に疲れは見えない。少なくとも周りの人間にはそう見えた。5分程の戦闘だったが、一撃でも喰らえば死に繫がりかねないフォレストベアーと接近戦を演じた直後とは思えない姿だった。


「で、このフォレストベアーなんですが、私とエリスさんのパーティーの共同作戦で倒したので5人で山分けしましょう。」


 敢えて声量を上げて野営地にいる者全員に聞こえるようにして話す大輝。そしてその意図を汲み取ったエリスが話を引き継ぐ。


「そうね。殊勲はもちろん大輝クンだけど、共同作戦だもんね。」


「そういうことです。本当は命を助けられた人たちにも何かしら請求したいところですが、とりあえずそれは置いておきましょう。フォレストベアーが居たことですぐには他の魔獣が寄って来ることはないでしょうけど、それでも早めに解体処理した方がいいと思いますので。」


 下品な要求をした者たちに、実力主義を声高に主張した者たちに、それを肯定した者たちに立場をわからせるべく会話を続ける大輝。


「カーラは家が猟師だったから熊の解体は出来たわよね?フォレストベアーの有用な部位は私が知ってるから早速始めましょう。みんな疲れてるだろうけどやるわよ!」


 エリスの言葉に頷いた少女たちは各々がナイフ片手にフォレストベアーに近づく。絶対的強者として数分前まで自分たちの命を奪いに来ていた相手に向かっていくその姿はまさしく冒険者だった。


「まずは血抜きなんだけど、どうしよう。」


 体長4メートル、体重は1トンに近いと思われるその巨体を前にカーラが困惑顔だ。いきなりの難問だったが、ここは大輝の知恵と魔法の出番だ。カーラと簡単に打ち合わせをした大輝。


「では、私が頭が下に来るように調整しますね。」


 そう言うと、土魔法を発動する。土を隆起させてフォレストベアーの下半身が徐々に持ち上げる。角度を30度程に調整してフォレストベアーを滑り台に乗せた状態にする。そこで喉を切り裂き、重力を利用した血抜きが始まった。あふれ出る血は頭の周辺に穴を掘りそこへ流れるようにする。しかしこれでは足りない。フォレストベアーの心臓はすでに停止しているため、ポンプの機能を果たさないがために完全な血抜きにならないのだ。そこで、胸を切り開き、心臓に直接魔法を掛ける。水魔法だ。血管が破裂しないように威力の抑えられた水流の魔法によってフォレストベアーの体内に直接水が流され、綺麗に血抜きが完成した。


「こんな方法もあるのね。知らなかったわ。」


 両親がともに猟師だったカーラが感心する。


「今回は頭部にしか目立った傷を与えてないから出来る方法ですけどね。」


 そう言って返す大輝だったが、タイミングよく言葉とともに腹が空腹の唸り声を上げた。


「あはは。フォレストベアーを接近戦で倒してもお腹の音は可愛いのね。どうかしら、ここからは解体班と料理班に別れない?」


「あ、それいいですね。正直お腹が持ちそうにないので。どうせなら討伐祝いに熊鍋に串焼き、熊汁と熊三昧にしましょうかね。」


「決定ね。どうせ全部は持ち帰れないし、盛大に行きましょう!」


 こうして解体班は班長にカーラを据え、ロロとミリア。料理班にエリスと大輝が回った。大輝が料理班を希望したのは、こっそりと虚空(アーカーシャ)から調味料を色々と提供するつもりだったからだ。決してロロとミリアが料理が壊滅的だったからではない。




 2時間後の20時、ようやくある程度の解体が終わり、料理の準備も整い宴会が始まろうとしていた。

この間、商人2人と護衛の男たちの存在は完全に無視されていた。彼らはフォレストベアーに荒らされた荷車や荷物、テントの後片付けに負傷した男の手当てにと動きながら何かを言いたそうにしていたのだが、バツが悪いためか話し掛けてくることはなかった。


「では、フォレストベアー討伐と出会いに乾杯!」


 大輝が辞退したため、エリスの乾杯の音頭によって遅めの夕食が始まった。人数が増えたために急遽大輝が作った熊鍋用、鉄板焼き用、串焼き用の3つの火処を囲み、これまた土魔法で作ったイスに座る5人が薄い葡萄酒を掲げて乾杯してから食事を始めていた。


「フォレストベアーの肉ってこんなに美味しいんだ・・・」


「このタレ、クセになる?」


「なんか胃の中に染み渡る感じがする。」


「男に料理で負けそうな自分が悲しい・・・」


 焼肉風のフォレストベアーの肉に感動するエリス。帝都で分けてもらったタレの虜になるミリア。熊鍋の滋養強壮っぷりに感慨に浸るロロ。冒険者のくせに大量の調味料を持ち運び味にこだわる大輝に嫉妬交じりの視線を向けるカーラであった。


 ある程度腹の膨れた5人は次第に饒舌になっていた。


「ちょっと気になったんだけど、大輝くん、その口調なんとかならないかしら?」


「あれ?なんか気に障りましたか?」


「いやな感じなわけじゃないのよ。私たち年齢も近いし、同じEランクとはいえ大輝くんの方が圧倒的に実力あるわけだし、タメ口でいいと思うんだよね。というかタメ口でお願い!」


「う~ん。了解。じゃあ、そうさせてもらうよ。」


「うんうん。その方がいいよ。それにしても凄い体捌きだったよね?スピード重視の剣士を目指す私には理想的に見えたわ。」


「身体強化の訓練はかなりやったからね。」


「それが秘訣?」


「それだけじゃないけどね。でも基本は身体強化だね。」


「確かに身体強化はスピードもパワーも上がるけど。」


「納得いってないね。じゃあ、エリスは部分強化は出来る?」


「出来るわ。走る時は足に掛けるし、重いものを持ち上げるときは腕に掛けるわ。」


「戦闘の時は?」


「もちろん全身に掛けてるわよ?」


「オレも基本は全身だけど、戦闘中に使い分けてるんだよね。」


「どういうこと?」


「例えばさっきのフォレストベアー戦だと、回避に専念してる間は全身に掛けてたけど、ナイフを投げる直前には足に重点的に魔力を回して後方に飛んでたし、ナイフを投げる瞬間は右手に集約してたね。最後に剣を突き立てた時も同じだよ。」


「あの一瞬でそんな事してたの?」


「そうでもしないとフォレストベアーに大きなダメージ与えられないし、4メートルも上に飛ぶなんて足に集中強化掛けないと無理でしょ?」


「確かに・・・でもそれって凄い難しいよね。」


「だね。いきなりやろうとしても無理だと思うよ。オレも最初は魔力を体内で自由に動かせる訓練から始めたしね。年単位で毎日訓練が必要かな。その結果、意識しなくても必要な箇所に必要な量の強化を掛けられるようになることが目標かな。戦闘では失敗できないからね。」


「気が遠くなりそうね。」


「かもね。でも訓練すればするほど上達するからやって損はないと思うよ。」


「マサラまでの道中でいいから訓練方法を教えてくれないかしら?」


「いいよ。」


 エリスと大輝の話がひと段落したのを見たミリアが大輝に声を掛ける。


「私も聞きたいことがある。大輝はあの男たちに実力を見せろって言ったけど、もしあいつらが本当にフォレストベアーを倒してたらどうするつもりだった?」


「「「それ私も気になってた!!!」」」


 ミリアだけではなく、エリス、ロロ、カーラも同じく疑問に思っていたようだ。


「別にどうも?」


「それは力を示せれば私たちはあいつらの要求を呑むべきだってこと?」 

 

 ミリアたちは大輝の主張を、「フォレストベアーを撃退すれば男たちの要求は正当である」と言っていたと感じているようであった。それにようやく気付いた大輝はやんわりと否定する。


「いや。そんなことはないよ。まず、力があれば何をしていいわけじゃない。あいつらが主張してるのは自分勝手な言い分だからね。そんな要求呑む必要はないね。」


 じゃあ、なんで?という4人の8つの瞳が訴えている。


「順を追って説明するね。今言った通り、あいつらの要求はエリスたちが拒否した時点で通らない。仮に、あいつらがフォレストベアーを撃退していても、それはあくまでも荷車の荷物を守るという護衛任務の義務を果たしただけだし、そのついでにエリスたちが救われたとしても慣例でお礼を要求できるだけ。そのお礼も身体で払う必要なんてないよ。お礼内容は慣例通り金銭でも良い訳だしね。それにもし強制してくるようだったら、あいつらの主張通りにあいつら相手に力を示してあげるだけだし。そもそもCランク魔獣相手にあいつらが勝てるとは思ってなかったけどね。」


 スラスラと答える大輝に4人の目が点になる。


「あの時にそこまで考えてたの?」


「そうだよ?」


「まさかとは思うけど、フォレストベアーが来ることも気付いてて話してた?」


「フォレストベアーかどうかまではわからなかったけど、大型の魔獣が近づいてるのは気付いてたよ。結構強そうな気配だったけど、Dランクのあいつらが勝てそうな相手だったらサクっとオレが斬りかかって終わらせるつもりだったんだよね。」


 ここまで大輝は笑顔を絶やさなかった。悪戯っ子の顔ともいう。


「「「「はあぁ。」」」」


 4人は脱力した声を漏らす。男たちとの会話から筋道を立てて正当性を主張できる頭脳、Dランク冒険者のパーティーに実力で勝るという自信、Cランク魔獣すら利用する胆力。どれも17歳のEランク冒険者が持つものではなかった。実際の大輝は、精神はもうすぐ28歳、いや、フィールド上の年月も考えれば33歳相当だし、異世界人であることやフィールド恩恵等も考えればおかしくはないのだが。


「大輝が悪辣なのは理解した。」


「それ酷くない?」


 君付けが取れ辛辣な一言を放つエリスに対し、すかさず突っ込む大輝。

 

「まあ、それはともかく、フォレストベアーの件だけど、全部は持ち帰れないだろうし、持ち帰った分を売って得た金額の内、大輝が7割で私たちが3割でどうかしら?」

 

 そう。討伐完了後すぐに解体と夕食の準備に取り掛かったため報酬の取り決めをしていなかったのだ。


「その件だけど、ちょっと考えがあるから上手く行けば全部持ち帰れると思うんだ。それと、取り分は全員で5等分で。」


「持ち帰れる方法があるならそれはもちろん歓迎だけど、さすがに5等分はもらいすぎだよ。」


 エリスの言葉に頷く少女たち。特に戦闘でなにもしていないカーラが凄い勢いで首を縦に振っている。

エリスはテンカウントをひたすら繰り返しただけだし、ロロとミリアも魔法は連発したがフォレストベアーに一撃も与えていないのだ。


「いや、今回は共同作戦だったし、同じEランク同士だってこともある。それに、ロロとミリアの魔法の援護が作戦の要だったんだよ。エリスはタイミングを計ってくれた上に料理も勉強させてもらったし、カーラのお陰で解体はスムーズだった。十分に報酬を得るに値するだけの働きをしてるよ?」


 少女たち全員の名を挙げて正当な権利があることを主張する大輝。


「そこまで言ってくれるなら遠慮なくもらうことにさせてもらうわ。ありがとう。」


 そう言ってエリスが折れ、ロロ、ミリア、カーラの順で折れた。


 その後しばらく談笑して過ごした5人は、最初に大輝、次にカーラとロロ、最後にエリスとミリアと3組が2時間半交代で火の番をすることに決めて宴会を終えた。


 そして大輝はテントに入って行った少女たちと焚き火の薪が十分なのを確認してから商人と護衛の男たちの元へと向かったのだった。一番最初に火の番を引き受けた理由を果たすために。







 

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