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レゾナンス   作者: AQUINAS
プロローグ
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第二話 白き世界

 男が意識を取り戻したとき、まだ爆発音とともに訪れた白光がまだ光り続けているのかと思った。そう思うほどの景色が男の目の前に続いていた。どこまでも。


 しかし、よく見ると白光で何も見えないのではなく、ただ単に、白で塗りつぶされただけの世界にいることに気付く。


 地面なのか床なのかわからないが足下は白。


 空なのか天井なのかわからないが頭上も白。


 地平線なのか壁なのかわからないが正面も白。


 初めて見る光景に一瞬戸惑ったものの、あらためて周囲を見渡す。


 視線を身体ごと180度後ろまで回したところでようやく白以外の色を見つける。


 (うん。さっきまで言い争ってた人達だな。)


 そこには男が意識を取り戻した時と同じように、白一色の風景に声も出ないで呆けてる6人の男女がいた。堅気とは思えない強面の男が2名。高校生と思しき男女各2名。


 (彼らはどの位の時間で再起動するかな?)


 どこか他人事のように考えながら、この状況について考える。


 (どうも現実っぽくないんだよなぁ。いっそ夢の世界です!って割り切った方がいいかも。)


 結局何も考え付かず、思考放棄したところで周りが再起動し始めていた。


「ち、ちょっとなんだよこれ」


「た、拓海(たくみ)?どこだかわかるか?」


侑斗(ゆうと)こそ教えてくれよ」


「「なにこれ!」」


 強面の男が動揺の声を上げ、少年達が互いの名を呼び、少女たちが慌て、それぞれが騒ぎ始めた時、真っ白な空間に急に人が現れた。


「すまないが、まずは私の話を聞いてもらえないだろうか?」


 急に現れた人物の低く威厳のある声が7人の視線を強制的に集める。


 20代にも50代にも見える年齢不詳というべきその人物、そう、低い声ながら男性とは言い切れない不思議な印象を持つその人物を前に先ほどまで騒いでいた6人も声をあげずにただ見ていた。気圧されたといってもいいのかもしれない。


「ありがとう。」


 話を聞く体勢になったと判断したのか、優し気な微笑みを浮かべ礼を述べる年齢性別不詳の人物。


「この地で残された時間は非常に短いので、簡潔に諸君の置かれている状況を述べさせてもらう。そして、質問があれば時間の許す限り最後に受け付けることを約束する。」 


 その言葉とともに砂時計を取り出し話が始まった。


「本来なら、私の自己紹介から始めるのが筋なのだろうが、生憎と君たちに短時間で納得してもらえる説明がない。なので、神の遣いのようなものだとでも思ってもらいたい。」


 本当に困った、とでも言いたげな表情で語りだす自称神の遣いに対し、7人は言葉が出ない。


「で、だ。まず大切なことを言う。先ほど時間がないと言った件についてだ。」


 そこで全員の視線が砂時計に集まる。


「皆がこの地に居れるのはおおよそこの砂が落ち切るまでとなる。我々の落ち度もあるため、できる限りのことをしてあげたいが、この砂が落ち切るまでが精一杯であることを了承願いたい。」


 そういって頭少しを下げる自称神の遣い。


 男がさっと他の6人に視線を向けると、どうやら頭の中に?が浮かんだままのようだ。


「それを踏まえた上で話を聞いてもらいたい。まず、皆がこの地に居る原因だが、アメイジアと呼ばれる世界から召喚魔術によって地球から召喚される途中に我々が割り込んでこの地に呼んでいる。」


 ここで男の頭の中にも?マークが点灯した。


「本来、召喚魔術というものは世界の均衡を崩す恐れがあるため、数百年前にアメイジアから消したはずなのだが、どうやら古代遺跡から再発見されたようなのだ。すぐにこの術式が2度と行使されないように手を打つつもりであるが、残念ながら諸君らの召喚阻止には至らなかった。」


 どうやら、ゲームなどによくある『異世界召喚』らしい。


(そうなると、戻れるかどうかが重要なのだが・・・)


 と男が思っていると、


「残念ながら、送還魔術というものは存在しないため、諸君が地球に帰還することはない。」


(おいおいマジかよ・・・でもオレの直感がこの人嘘吐いてないって感じてるんだよな・・はぁ)


 直感とも第六感ともいうどうも論理的に説明つかないこの能力と完全記憶とまではいかないが常人以上の記憶力で財を成し、海千山千の大人を相手に学生ながら会社を興して発展させ、生命の危機を凌いできたこの男にとっては重要な判断材料の一つなのだ。まあ、あくまで材料の一つなのは、失敗した経験があるからなのだが。


「ふざけるな!」


 強面の男の片割れが帰還不可の言葉を聞いた瞬間に大声を上げた。そして、それに追従するようにもう一人の強面が、そして高校生達が騒ぎ始めた。


「勝手に召喚だなんて誘拐じゃないか!」


「訴えてやるぞ!」


「うそだ!呼べるのに戻せないなんて、そんなはずない!」


(うん、収集つかなくなってるな。まあ、気持ちはわかるし、オレも帰れないのはいやだよ。でも時間が限られてるならまずは情報を集めないと。)


 この時点で言葉を発していないのは男だけで、他6人はもう絶叫に近い声音で詰め寄っている。そして、その間も砂時計の砂は落ちていく。時間は有限だ。


「まずは続きを聞かせていただけませんか?」


 静かだが威圧の篭ったその男の声によって一瞬の静寂が訪れる。


「そうさせてもらえるとありがたい。一通り話し終えたら質問を受ける。」


 怒りの篭った視線や、涙を浮かべた瞳など、様々な感情の視線を受けても自称神の遣いの表情は変わらないようだ。


「古来から召喚の理由は簡単だ。諸君はアメイジアの人々に比べ大きな力を有している場合が多い。一番は身体能力だ。諸君らはアメイジアに住まう者に比べてやや身体能力が高い、という程度だが、鍛えればアメイジアトップクラスの能力を得られる可能性がある。つまり、成長速度が高く、その限界も高いということだ。2番目は、知識だ。世界が違えば発展する方向も違うため、その知識がアメイジアに取って有用なことも多い。実際、過去に召喚された者によってもたらされた知識や技術はアメイジアにとって大きな力になっているものもある。」


 一旦ここで言葉を区切った自称神の遣いは、ここで表情をやや歪めて次の言葉を紡いだ。


「だが、しかし、全てが良いことばかりではなかったのだ。」


(まあ、過ぎた力は勿論、新しい技術や発見が良い結果だけをもたらすわけないもんな。)


 男は自身の過去を思い返して自称神の遣い以上に表情を歪める。


「とにかく、間違いなく召喚主たちは諸君の力を求めている。それも、知識ではなく、戦闘力を早急に求めているようなのだ。しかし、現状のまま召喚されてもやや身体能力が優れている、といった程度しかないため、不幸にも召喚対象に選ばれてしまった諸君らには非常に生きにくい状態だと思う。」


 生きにくいという言葉を聞いて皆の表情が一気に曇る。戻れるか否かはさておき、召喚される世界の人々に比べ、能力が高いと聞かされて内心悪い気がしていなかった者もいたはずだが、いきなり戦いを強いられる可能性を示唆されては平和な日本に暮らしていた者であればほとんどの者が拒否反応を起こすだろう。


「そこで、我々ができるだけ手を貸そうと思い、召喚魔術に干渉したのである。」


 この言葉で特に高校生組の内3人が期待の眼差し、簡単に言うと、目がキラキラしだしていた。そして期待の篭った声で自称神の遣いに問いかける。


「チートもらえるんですね!」


 問いかけというより、確認といった声音だ。しかし、その期待はあっさりと裏切られた。


「なにがしかの能力を我々が授けることはできない。」


 あっさりとチートを授けることを否定した自称神の遣いに対して、唖然とする高校生組。


「えっと、ではどのように手を貸していただけるのですか?」


 終始不安そうな表情をしていた七海と呼ばれていた少女が律儀に手をあげて聞く。


「我々ができるのは、あくまで手を貸すということだけである。つまり諸君らが自力で力をつけるための時間を稼ぐことで手を貸そうと思う。」


 時間ということで、全員の視線が砂時計に集まる。


「最初に時間を稼げるのはこの砂時計が落ちるまでって言ってたじゃねえか!それにもう半分くらいしか残ってないし、そんな短時間でなにが力をつけるだよ!」


 至極真っ当な意見である。男もそう思ったが自称神の遣いは当然その辺も考えていたようだ。腕を一振りすると7人のそばに顔のそっくりな、いや、自称神の遣いと全く同じ顔をした人物がそれぞれの隣に現れた。急に出現した7人の自称神の遣いのそっくりさんに驚いている間に手を貸す内容が語られた。


「確かに、この地に居られる時間はすでに1時間あるかないかである。そこで、これが我々が手を貸すという意味だ。」


 そう言葉を区切ると、再度腕を振る自称神の遣い。


 すると、今度は7つの扉が現れた。


「その扉の中はウルティマフィールドという。簡単に言うと、修行場だ。そしてこのウルティマフィールド内は時の流れが緩やかになる。おおよそだが、一人で入った場合、この白き世界での1分がフィールド内の約1カ月に相当する。つまり残りが57分ほどだから5年近くの間、アメイジアで生きる為の術を身に着ける訓練を行えることになる。」


 ここで引っ掛かる言い方が気になった男がはじめて質問をした。


「一人で入った場合ということは、それ以上で入った場合は時間経過が変わるんですか?」


「うむ。2人になれば2分が1か月、3人で入れば3分で1か月となる。ただし、その人数計算には個別に指導担当としてつく我が分身は入らない。また、フィールド内での修行で必要と判断されたものは分身が用意できるようにしてある。」


(あ、このそっくりさん達は分身で個人家庭教師なのか。)


「何人で入るかは個人の判断に任せるが、指導担当がつくとはいえ、一人で入るのはあまりお勧めしない。フィールド内はアメイジアで生き抜くために必要なスキルが付きやすい環境であるが、その分過酷であり、精神的にキツイ。我々としては、2,3人合同で入ることをお勧めする。」


 そこまで聞いて、各自が相談に動き始める。高校生組は帰還の可否について問い詰めたそうな視線を向けていたが、時間が限られていることを理解してか、当面を生き抜く術を身に着けることを優先して相談を始めていた。


 (へ~、結構冷静じゃん)


 最も冷静そうな男は自分のことを棚に上げていた。そして真っ先に行動を開始した。


「あなたが私の指導担当ということでよろしいでしょうか?」


 男は自分の近くに居た分身に声を掛ける。


「はい。私が担当致します。」


(あれ?分身という割には口調も声音も違うな?まあ、いいか。今は1分が重要。なんたって1か月相当だもんな。)


「では、さっそくフィールドへお願いします。」


 そう言って丁寧な口調の分身家庭教師に扉への先導をお願いする。すると突然声が掛かる。


「おい!勝手に行動するなよ!」


 大柄な体躯の方の少年だ。


「なにか?」


 男は少年が何を言いたいのかわからなかった。


「だから!今フィールドに入る人数やメンバ-を相談してるんだから勝手に動くなっての!」


 大柄な少年は今にも掴みかかりそうな勢いで怒鳴る。相談中とはいっても、強面2人組と高校生組にわかれて好き勝手話をしているようにしか見えないが。


(あぁ~余裕ないのはわかるけど、これは良くないよね。)


 男は周囲にわからない程度の溜息をついてから大柄な少年に視線を合わせる。


「1人でフィールドに入らせてもらいますね。」  


 さらっと声を掛けて扉に向かって再度歩みを進めようとしたところで肩を掴まれ力任せに歩みを止まらせられる。掴んだのはもちろん大柄な少年だ。


「好き勝手してるんじゃねえよ!」


(これはちょっと言い返してもいいよね。)


 男はそう判断すると大柄な少年が肩を掴んでいる手首に触れながら話しかける。


「神の遣いさんが言ったように、何人で入るかは個人の判断でいいはずですよね?私は私の責任において1人で入ることを選択しました。邪魔をしないでいただけますか?」


 ここまで言うと爽やか風イケメンの少年と茶髪の少女からも声が掛かる。


「話聞いてなかったのか?神の遣いだって、1人で入るのはお勧めしないっていってたじゃないか。」


「侑斗の言う通りよ!勝手な行動で和を乱さないでもらえる?」


(あ~あ。もういいよね?判断しちゃっても。少なくとも、この3人との協力体制はないかな。)


「あ~ごめんね。君たちとは明らかに合わないから一緒にフィールドに入るっていう選択肢はないんだよ。まず、君たちの言葉遣い。見ず知らずの年長者に対するその口の利き方はなに? 次に、話聞いてなかったのか?って、話を遮って時間を無駄にした上に状況を理解出来てないのは君だろ? 最後に、和ってなに? 君たちが君たちにとって都合のよいものが和っていうかい? オレにはそんなものに入るつもりは微塵もないよ? ということで時間がもったいないからこれで失礼するね。」


 そういうと、いまだに肩を掴んでいた大柄な少年の手首を捻り、肩から手が離れた瞬間に身体を入れ替えて空気投げの要領で少年の身体を最小限の軌道にて前方に四分の三回転させて尻餅をつかせる。どんな素材でできているのか、白い床なのか地面なのかは180センチを超える体躯が投げられて尻餅をついても振動どころか音すらしない。男はそれを不思議に思いながらも、唖然とする少年少女を見もせずに扉を開けてフィールドへと入っていった。





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