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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第十九話 実力主義

 大輝の目には、女に餓えた30前後の屈強な男4人が4人の少女(といってもアメイジアでは成人女性であるが。)を力を背景にして無理やり夜を共にさせようとしているように見える。


(まぁ、一応確認と説得だけはしてみるか。もうちょい時間ありそうだし。)


 状況を見れば明らかでも事実がそうとは限らない。それを日本で何度も体験している大輝は口に出して確認することにした。


「えぇっと、ちょっといいですかね?」


 演技臭さ満点の大輝がおずおずと手を上げて発言の許可を求める。男たちは自らが素人冒険者と断じた大輝が口を挟んだことに不満そうだったが大輝は気にせず続けた。


「そっちのDランクのお兄さんたちがこっちのEランクのお姉さんたちをマサラの街まで護衛することを提案してるんですよね?」


「おぉ。そうだ。マサラで最もCランクに近いオレたちが護衛してやるって言ってんだ。」


「で、お姉さんたちはその提案を受けたんですか?」


「受けるわけがないわよ。ランクは下でも私たちだって冒険者よ。それに、あんな要求受け入れるわけがないわ!」


 見ればわかるだろうと、今更の大輝の確認を不快に思いながらも返答するエリスと頷く事でそれに同意を示す少女たち。


「お兄さんたちは何を対価として要求してるんですか?」


「簡単なことよ。一晩オレらと過ごせばいいのさ。」


「でも、拒否された以上は引き下がらないとDランク冒険者の名折れでは?」


 一応、彼らに引き下がる機会を与えてみる大輝だが、濁った眼を見る限りは欲望の方が強いことは明らかだった。


「一晩で安全が買えるんだぞ?お嬢ちゃんたちじゃフォレストドック相手だって危ういだろう?」


 やっぱりそうか、と大輝は可哀想な者を見る目を男たちに向ける。


「本人たちが拒否している以上は、手を出したら犯罪ですよ?」


「ガキが偉そうに。いいか覚えとけよ。街を出たら弱肉強食、実力がモノを言うんだよ。これ以上何か言いたいなら力で示しやがれ!」


 ここで引かないなら容赦しないとばかりに凄む男たちに対して大輝は平然と返す。


「じゃあ、まずはお兄さんたちの実力というのを見せてもらいましょうか。」


 そう言って街道の方を指さす。


 


 大輝たちが集まって居るのは、街道から見て野営地の右奥。左奥に少女たちのテントがあり、右手前に商人たちのテントと荷車がある。そして野営地の入口から30メートル程先には巨大な影が見えた。完全に姿を隠していない太陽のお蔭でなんとか大輝が指差したその影の正体がわかる。


「フォ、フォレストベアーだと!」


 男たちはその影の正体を見て狼狽し、少女たちは身動きが取れない。それも当然。フォレストベアーは北東の森最強の一角だ。体長は4メートルを超え、その膂力は大木をへし折る程だし、その鉤爪は鋭利なナイフのような切れ味を誇る。そしてなにより四肢は硬く中途半端な剣や魔法は弾かれてしまうのだ。


「さあ、あの熊さん相手に実力というのを見せてもらいましょうか。」


 大輝の呑気なセリフに男たちも少女たちも反応しなかった。フォレストベアーも今はこちらの動きを見ているのか、野営地の外30メートルで止まっている。今動いているのはテントに入っていた商人2人だけだ。男の叫びに驚いて転がるようにしてテントから出てこちらに向かっている。


「可愛いお姉さんたちにカッコイイところを見せるチャンスですよ?」


「バカなこと言ってる場合か!フォレストベアーなんだぞ!知ってて言ってるのか!?」


「魔獣ランクCのフォレストベアー。一撃必殺の攻撃力を誇り、強靱な肉体によって魔法すら弾く北東の王者でしたっけ?」


「わかってるなら手を貸しやがれ!」


「何を言っちゃってるんですか?さっきフォレストドックですら危ういって断じた相手に何を求めてるんですか?」


「てめえ、ごちゃごちゃ言ってる場合じゃねえっつってんだよ!」


「Cランクパーティーならなんとか倒せる相手のはずですよ?それに、お兄さんたちだけで力を示さないとお姉さんたちを口説けなくなっちゃいますよ?」


 煽りに煽りまくる大輝。少女たちを力でモノにしようとしていた彼らを助ける気はなかった。この場で大輝が守るとしたら、己の身と4人の少女だけのつもりだ。


「さあ、エリスさん、お兄さんたちがカッコイイところを見せてくれるから少し下がってて下さい。」


「で、でも・・・」


「逃げた方がいい?」


「フォレストベアーの注意がこちらに向いてる内は逃げない方がいいと思いますよ。逃げた者は弱いと判断されて執拗に追われる可能性が高いです。」


「わかったわ。みんな、少し下がって。いつでも動ける準備だけはしといて。」


 エリスが仲間に指示したとき、ようやく品定めが終わったのかゆっくりとフォレストベアーが動き出した。獲物は荷車の内の1台のようだ。邪魔な木柵を右の前足の一振りで粉砕し、ゆっくりと荷車に近づいていく。


「お、おい。護衛なら荷車を守ってくれ!」


「そ、そうだ!倒せとは言わないから追い払ってくれ!」


 Cランク目前という護衛の力を信じているのか、商売人らしく商品の心配をしているのか、どちらかはわからないが護衛に役目を果たすように迫る。男たちも一度でも護衛対象を放って逃亡したら冒険者として先がないことを理解しているのだろう。


「くそ!いくぞ!手傷を負わせて追い返すぞ!」


「無理に狩りに行くなよ。浅く斬り掛ければいいんだ。」


 声を掛けあい、左手に盾、右手に片手剣を持った2人が前、槍を持った2人が後ろという隊形で荷車に近づくフォレストベアーに向かっていく。


「今だ!」


 フォレストベアーが頭を荷車に突っ込んだ瞬間を狙って槍が2本突き出される。狙いは露わになった首筋だ。渾身の力で振るわれた槍は2本とも狙い通り首に命中した。そして穂先が僅かに刺さった。


「グァァア!」


 フォレストドックならば串刺しになっていただろう槍の一撃いや二撃はフォレストベアーを苛立たせただけだった。一吠えしたフォレストベアーはまるでちゃぶ台をひっくり返すかのように荷車を前足で跳ね上げる。盾持ちの男2人は寸でのところで躱したものの、飛んでいく荷物に視界を奪われ1人がフォレストベアーの突進を受けて吹き飛ぶ。吹き飛ばされた男は咄嗟に盾を突き出したお蔭か意識はあるようだが、持っていた木を金属で補強しただけの盾はひしゃげてしまいもはや用を成さない。


「グアァァア!」


 再度雄叫びを上げたフォレストベアーは後ろ足2本で立ち上がり、威嚇のポーズを取っている。どうやら、残りの3人に対する怒りの主張のようだ。まるで、折角見逃してやろうと思ったのに食事の邪魔をしやがって・・・と言っているように大輝には見えた。


「盾で受けるな!回避するんだ!」


 リーダー格の男から盾持ちに指示が飛ぶ。その声が合図となったかのようにフォレストベアーがリーダー目掛けて飛び込み右前足を振るう。辛うじて左へ捻って回避するもそれを追うように左前足が横薙ぎのように振るわれる。


「ぐわっ!」


 回避した直後の体勢を崩したところを狙われ、持っていた剣を盾に入れることが精一杯だったリーダーが吹き飛ばされる。3回転ほど地面を転がったところで商人のテントに突っ込むことになりテントの布地で簀巻きにされた状態でようやく回転が止まる。


 あっという間に2人がやられたが、ここで大輝は動くことにする。


「火魔法使える方はいますか?」


 少女たちを振り返りそう尋ねる。


「ロロが使えるわ。威力が小さくてもいいならミリアも使えるわね。」


「では、二人にお願いがあります。これからフォレストベアーを倒しに行きますので、お二人には牽制をお願いします。といっても、フォレストベアーには決して当てないでください。威力を最小に絞って数を撃つことに専念してもらえると助かります。最初は、ロロさんがフォレストベアーの右斜め上5メートルを狙って撃ってください。ミリアさんはその10秒後に左斜め上5メートルを狙って火球を撃ってください。その後もきっかり10秒ごとに交互に撃ってください。10秒のカウントはエリスさんがオレにも聞こえるようにお願いします。カーラさんは2人の魔力が切れそうとか何か異変があれば知らせてください。」


「「は、はい!」」


「当てなくていい?」


「当てちゃダメなんですよ。」


「よくわからないけどやってみる。」


「了解したわ。」


「お願いしますね。では行ってきます。」


 いつの間にか大輝は両手剣の他に腰にナイフを3本ぶら下げていることに少女たちは気付いていなかった。もちろん、大輝がこっそりと虚空(アーカーシャ)から取り出していたからだ。


「下がれ!」


 すでに回避一辺倒の男2人に少し威圧を込めた言葉を発する大輝。ここから彼らは邪魔でしかない。彼らが下がるのを待たずに大輝は前に出る。そして注意を自分に引きつける為足元の石をフォレストベアーの顔に投げつける。


「グラアァ!」


 新たな邪魔者の乱入に怒りの声を上げて睨むフォレストベアー。どうやらその間に男2人は簀巻きにされたリーダーを助けに行くようだ。


 まずは見ていて覚えたフォレストベアーの動きを間近で確かめる為回避に重点を置いて接近する大輝。

それを左右の前足の鉤爪で引き裂こうとするフォレストベアー。左右に細かくステップを繰り返す大輝は両手剣を構えていない。剣を回避するためのバランス制御にその重さを利用しているのだ。それを見ていた少女たちは大輝が防戦一方に見えて狼狽していたが、自らの役目を思い出し、ロロとミリアが交互に火球を撃ち始める。


(これなら十分いけるかな。) 


 大輝はフォレストベアーの弱点をいくつか見つけていた。


 敵が接近してくると必ず後ろ足で立ち上がること。

 立ち上がると必ず左右の前足を交互に振るうこと。

 目で追うことは苦手で聴覚もしくは嗅覚で相手を追っていること。


(やっぱり火は苦手なんだな。)


 低威力の火球、それもある程度自分から距離があっても動きが一瞬止まること。


(こっからは体術で回避っと。あとはタイミングを合わせて・・・)


 ロロとミリアの魔力切れの前に勝負を付けたいこともあり、すでに3分以上回避に専念して十分な経験値を得た大輝は攻撃に移る。


 ロロの火球が右上を飛ぶ。


 10・・・両手剣を握っていた右手を離す。

  9・・・右手でナイフを握る。

  8・・・フォレストベアーの懐に入る。

  7・・・左手一本で軽く剣をフォレストベアーの腹に当てる。

  6・・・フォレストベアーが右前足を振りかぶる。

  5・・・フォレストベアーの右前足の攻撃を左にダッキングして躱す。

  4・・・通り過ぎた右前足に軽く右手のナイフで切り裂く。

  3・・・フォレストベアーが左前足を振りかぶる。

  2・・・フォレストベアーの左前足の横薙ぎを屈んで躱す。

  1・・・屈んだ勢いで後方高く飛ぶ。

  0・・・ミリアの火球が左上を飛び、フォレストベアーの動きが一瞬止まる。


 大輝はその瞬間に狙いすましたナイフの投擲を見事フォレストベアーの右眼に命中させる。魔法や剣すらも弾くという筋肉は眼球まではカバーしない。残念ながら1撃で脳までは届かなかったようだがそれでも十分な傷を与えた。


「グガァァア!」


 大きな傷を負ったフォレストベアーは苦痛の呻きを上げるが行動は変わらなかった。大輝はもう一度タイミングを計って左眼にもナイフを撃ち込む。しかし今度は後方に着地するとすぐにフォレストベアーに向かって再度突撃する。そして足に集中して強化を施して跳躍した。


「グギャァァア!」


 左眼も潰されたフォレストベアーが痛みの余りこれまでで最大の咆哮を轟かせたところに大輝が4メートル大の跳躍で迫る。


「これで終わりだ!」


 素早く空中で足から腕に強化を移した大輝が両手剣をフォレストベアーの口に正面から突き入れる。そのまま突き刺さった剣から手を離し、フォレストベアーの胸を蹴って距離を取る大輝。着地の体勢が乱れ、後方に転がるようにして受け身をとり、すぐさまフォレストベアーの様子を見る。そこにはゆっくりと後方に倒れ行く様が見える。


ズドーーン!!


 数百キロの巨体が倒れる音は凄まじく、また、その振動で大地が揺れているのがわかった。そして、フォレストベアーは北東の森の王者らしくその巨体を大の字にして倒れていた。


「うしっ!終了!」


 小さく拳を握りガッツポーズを取った大輝は剣もそのままに少女たちの元へ歩き出した。








 


 




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