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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第十八話 配達依頼

 冒険者が街を移動するとき、大抵は2つのグループに分けられる。1つは街道ではなく敢えて魔獣スポットを通り、魔獣を狩って魔石を集めながら移動する者たち。もう1つは護衛依頼等の依頼を受けて街道を進む者たち。大輝は後者の依頼を受けて帝都を離れるつもりだった。ただし、護衛依頼ではなく単独で受けられる依頼を探していた。それも出来れば北へ向かう依頼を。




 冒険者になって10日目の夜。大輝はいまだに狙った依頼が見つからずに帝都の宿「銀の懐亭」に滞在していた。もちろん何もせずにぼぅーっとしていたわけではない。日中は依頼を受けて街中の力仕事や郊外の土木作業をしていたし、それなりの収穫も得ている。


 1番の収穫は、大輝を監視していると思われるグループが3つあることに気付いたことだ。これは大輝が気配察知スキルと視覚強化と記憶力の3つをフル活用して突き止めた。大輝の気配察知では人物の特定は出来ないのだが、一定の距離で大輝の後をつけている者を把握するごとに身体強化で視力を上げて周囲を見回す。それを記憶力を活かして毎夜重複する人物を割り出しただけだ。


(1グループはハルガダ帝国で間違いないけど、あとはどこの人かね~。)


 もう1つの収穫は監視を撒く計画に必須な食糧調達が進んでいることだ。ネイサンに用意してもらったものがあるのだが、万一長期戦になった場合に備えて買いだめしているのだ。虚空(アーカーシャ)大活躍である。もちろん虚空(アーカーシャ)を大っぴらに使うのは危険なので、いつもの串焼きを少し多めに買ってこっそり収納したりして日々備蓄に励んだのだ。


 そして2日後、ようやく目的の依頼を発見する。





「お願いします。」


 大輝が1枚の依頼書を手に受付にいた。


「マサラの街への配達依頼ですね。かしこまりました。」


 Eランクから受けられる配達依頼。これが大輝の狙った依頼だった。通常街から街への手紙や物品の移送は商隊に託されることが多い。しかし、稀に急ぎの手紙等が冒険者ギルドに依頼されるのだ。そしてこの依頼は大輝の希望通り北へ伸びる街道を120キロほど北上した地点にある宿場町マサラが目的地だった。


「こちらが依頼の手紙になります。配達期限は2日後ですのでお気を付けください。」


「はい。わかりました。これからすぐに向かいます。」


 馬や馬車を使えば明日には到着できる距離だ。徒歩でも2日後の夕方には着く。もっとも身体強化7を使えば大輝なら遅くとも明日の朝には着くのだが。


 一旦「銀の懐亭」に戻り、怪しまれないように最低限の野営道具を虚空(アーカーシャ)から背負い袋に移し、今日で宿を離れる旨を女将に伝えてから北門へ向かう。いよいよ帝都から旅に出る。そう思うと大輝の足は自然と軽くなっていた。


 召喚魔術から101日目。大輝の長い旅が始まる。




 北門の守衛に認証プレートを提示し、依頼でマサラの街へ行くことを敢えて告げてから北門を抜けた大輝の目には、踏み固められた土で出来た街道が北へ真っ直ぐに伸びているのが見えている。わずかに右へ視線を向ければ、南西の森の数倍はあると言われている北東の森があり、その手前に見える建造物は騎士団の訓練場であり対北東の森最前線の砦だろう。その森で異変があれば今後は侑斗たちが出張る事もあるのだろうが、大輝が進むのは北の街道だ。門の外で軽く身体を解したあと、身体強化を発動させて街道を北上し始める。


「長距離走のはじまりだ!」


 走り出してすぐに北東の森に魔獣討伐へ向かっているだろう冒険者のパーティーを追い抜き、馬に曳かせた馬車の隣を歩く行商人の横を通り抜けながら挨拶の声を掛けて行く。マラソン選手程ではないが、時速15キロは出ているかもしれない。本気を出せばこれ以上の速度も出せるし、もしかしたらマサラの街へ今日中に着くことも可能かもしれない。しかし、アメイジアでは余力のない状態で街の外へ出るのは危険なのだ。魔獣に出くわす事もあれば、盗賊だっている。なにより大輝には監視が付いているのだ。単独で外に出た大輝にどのような対応をするかわからない。最もそれを見るために単独での依頼を探したのだが。


「あれ?誰もついて来てない?」


 2時間走ったあと、大輝は休息を取ることにしたのだが、周囲の安全を確かめる為に気配察知スキルを使用しても生物の反応が全くなかったのだ。魔獣はもちろん、監視していたはずの3グループもいない。


「もしかして監視も被害妄想だったとか?」


 一瞬そんな恥ずかしくて穴を掘って入りたい考えが浮かんだが即座に否定する。


「それはないな。間違いなく監視はいた。そうなると、見通しが良くて一本道だから距離を取ってる可能性が高いか。3グループいたから互いに牽制してるだろうし。」


 大輝の気配察知は障害物がなければ半径200メートル程が有効距離だ。見通しの良い街道ならその数倍の距離まで人影を確認できる。視覚強化すればさらにその距離は伸びる。


「できれば、マサラの街に着くまでにどこの国の人たちか位は知っておきたいんだけどな。」


 できればこれから行こうとしているハルガダ帝国の南に位置するハンザ王国が監視をつけていない、もしくは大輝に大きな関心を寄せていないことを願いながら呟くのだった。


 休憩を終えた大輝はしばらく徒歩で街道を北上していた。40キロごとに街道に設置してある野営地で昼飯を食べようと時間調整していたのだ。野営地は、商隊や旅人、冒険者等が徒歩で1日40キロ、馬車で移動する場合は1日80キロ程を移動するため、国や各地の領主が40キロごとに整備しておりテントが張れる広場や井戸があるのだ。そのため大輝は帝都から1つ目の野営地で昼食を、2つ目の野営地で野宿するつもりであった。スキルと体力を活かした馬車並の移動能力があるから組める旅程だった。



 12時を少し過ぎたころ、大輝は最初の野営地へ到着した。街道から30メートル程離れた草原の中に野営地はあった。草が刈り取られた1辺30メートル程の空間を高さ1メートルの木の柵で囲っている。

その中央には井戸があったが、それ以外には何もないし誰もいない。


「もうちょっとキャンプ場っぽいのを期待してたんだけど。」


 大輝もバンガローがあるとか、バーベキュー場があることを期待していたわけではない。しかし、東屋どころかテーブルもイスも無く、(かまど)すらないとは思っていなかった。一応、魔獣対策のための簡易的な木の柵があるだけマシなのだろうが。 


 気落ちした大輝は人の目がないのをいいことに虚空(アーカーシャ)からサンドイッチと水筒を取り出し、手早く昼食を済ませて野営地を立ち去った。



 真っ直ぐに北上していた大輝は現在街道を少しばかり東に逸れた位置でフォレストドックから魔石を取り出している。魔獣のランクでいえば最下級のFランクであり取れる魔石の大きさもビー玉と同じ位だ。数分前、街道をゆっくりとジョギングでもするかのように走っていた大輝に、変わらず東側に存在する北東の森から5頭のフォレストドックが襲ってきたのだが、あっと言う間に切り伏せてしまったのだ。折角だからと魔石をナイフで切り出しているのだが、残念ながらフォレストドックは魔石以外になにも有用な部位がない。そこで仕方なく魔石回収後は5頭をまとめて火球で焼くことにした。このまま死体を放置すれば他の魔獣が寄ってくる原因になりかねないため、冒険者は仕留めた獲物は持ち帰るか焼くかる等の処分をしなければならないのだ。


(そろそろ野営地だけど、飯どうしようかなぁ。)


 火球を連発しながら魔獣に襲われた事など気にしていない大輝だった。



 それから30分後、太陽が西に傾き、空が青からオレンジに変わり始めたころに野営地に到着した大輝だが、今度は先客がいたようだった。


(おぉ。人がいる。)


 この野営地も木の柵に囲われて井戸があるだけだったが、人の気配があるだけでだいぶ違った雰囲気に見えるのが不思議だ。木柵の中の野営地の中には、冒険者のパーティーらしき女が4人、商人らしき男が2人とその護衛らしい男が4人だ。他には商人の積み荷が満載の荷車2台が木柵の中に入れられており、それを曳いていたと思われる馬が2頭奥の木に繋がれて桶に汲まれた水を飲んでいる姿が見える。


「こんにちは。」


 同じ野営地に泊まるのだから挨拶くらいはと野営地に足を踏み入れてすぐに声を掛けた大輝だったが、

挨拶が返ってこない。


(あれ、なんか雰囲気悪い?)


 街道に近い野営地の入口付近に陣取っている商人の一団と奥にテントを立てている4人組の女性たちは大輝の存在を無視するかのように互いに睨み合っている。


(ま、いっか。)


 2つのグループが野営準備の作業をしながらも時々視線を相手へ叩きつけているところを堂々と横切り、それぞれから適度に距離が離れた場所へと向かう。そして自分の寝床となる場所を勝手に決め、背負い袋を下ろすとすぐに木柵を飛び越えて近くの木の枝を両手剣で切り落とす。切り落とした枝は無造作に自分の陣地へ放り投げ、そのままたき火の薪となりそうな枝を集めに回る。もはやこの野営地には自分しか存在しないと割り切ったかのような行動をはじめていた。面倒事に巻き込まれるつもりはなかった。


 薪となる乾いた枝を拾い集め終わった大輝は、木柵の中に戻り手慣れた手付きでテントを組み上げる。中心となる最も太い枝を土魔法で柔らかくした地中に埋め込み、これまた土魔法で固める。そして埋めた支柱を中心に四方から斜めに枝を組み、1辺3メートル弱の正四角錘のテントの骨組みを組み立てた。あとはあらかじめその形に合わせて作ってある布を被せれば完成だ。一応、防水効果のある塗料を塗ってあるそうだが、大雨の中では使えないし、枝で組み立てた即席の骨組みは強風には耐えられない。今日みたいな良い天気でないと使えないやり方だった。


 テントを組み上げた大輝はすぐに竈の作成に入る。手頃な石を幾つか拾ってくると、3方向を囲うように無造作に積み始める。ある程度の高さに積むとまたしても土魔法の出番だった。大輝が魔力を込めると不整形な石が乱雑に積まれて隙間だらけだったものが、表面こそごつごつした石そのものだが隙間は閉ざされ、3辺の高さが揃っていく。その上に背負い袋に入れてあった縦30センチ、横60センチの鉄板を

完成した石の台座の手前側に置けば完成だった。これで手前側では鉄板焼きが作れ、奥は鍋を吊るしてスープが作れる。夕飯と翌朝の朝食の時にしか使わないのでこれで十分だと満足する大輝。土魔法万歳である。


 日も暮れてきた頃、竈に火を入れて作業を終えた大輝はようやく周囲の視線を集めていることに気付く。一方からは呆れたような視線が、他方からは羨まし気な視線だ。面倒事に巻き込まれたくないから意図的に視線を遮断していたから気付かなかったとも言えるが。


「さっきは無視した形になってごめんね。」


「君、すごいね?手際いいし、魔法をあんな形で使う人初めて見たよ?」


 女性4人組の中から2人が大輝の側まで近づいて話しかけてきた。謝罪の言葉が1番に口から出ていたからか、話しかけてきたのが美人だったからなのかはわからないが、大輝はなにも気にしていないかのように会話に乗っていた。


「いえ。なんか取り込み中に邪魔したみたいでこちらこそすいません。野営準備もただの慣れですよ。」


「ううん。あれは私たちが悪いわ。」


「うん、感じ悪くてごめんなさい?」


「いいですよ。気にしてませんから。」


「そう言ってもらえると助かるわ。」


「ありがと?」


「って、ミリア!内輪以外では疑問形やめなさいっていつも言ってるでしょ!」


「ごめん?」


「だから!」


「ん?」


「あはは。大丈夫ですよ。そっちも気にしないので。」


「重ね重ね申し訳ないわ・・・」


「うん、ごめんね?」


 なんとなく和んだ大輝たちは互いに自己紹介をしあった。小柄で可愛い感じの疑問形少女が15歳のミリアで回復魔法が得意な魔法士、お姉さん役のスレンダー美人が18歳のエリスで剣士兼パーティのリーダーだった。他に同じ村出身の弓術士のカーラ18歳と魔法士のロロ17歳とパーティーを組んでいて全員がEランクだった。  


「普段はマサラの街を拠点にしてるの。で、目的の採取が終わってマサラに戻る途中であの一団と一緒になっちゃってちょっとばかりトラブっちゃったのよね。」


「向こうが悪い?」


「ミリアさん、そこは疑問形で言うのはどうかと。」


 つい突っ込んでしまう位には短期間で打ち解けていた大輝だったが、その打ち解けた雰囲気にイラついたのか、商人の護衛たちが絡んできた。


「おいおい、オレらを無下にしといて坊主に色目か?」


「マサラまでオレらが一緒に行ってやるっていったろ?」


「野営地で魔力無駄に使うような魔法士なんて素人だぞ。」


「そうそう、オレらならマンツーマンで夜もきっちり護衛してやるぞ。」


 4人の護衛がそれぞれ勝手なことを言いながら大輝たちに近づいてくる。エリスはすでに嫌悪感丸出しの表情で男たちを睨み、ミリアは大輝の後ろに隠れている。騒がしくなったことでカーラとロロもこちらに向かってくるが表情は硬い。大輝は雇い主たる商人たちが止めるのかと思ったのだが、

 

「こっちの護衛に支障がない程度にしてくださいよ?」


「仕事だけは忘れないでくださいね。」


 黙認するらしい。その依頼主たちの言葉に気を良くした男たちは、


「そういうわけで素人の坊主は引っ込んでな。」


「冒険者は実力主義。DランクのオレらがEランクのお嬢ちゃんたちを守ってやらないとな。」


「そうそう。オレたちがテントの中で訓練つけてやるよ。」


「護衛じゃねえのかよ。ぎゃはは。」


(なにがおかしいのかさっぱりわからん。まあ、へんな奴はどこにでもいるってことか。)


 大輝は辟易していた。やっぱり面倒事が起こったと。


 









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