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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第十五話 依頼は肉体労働

 「銀の懐亭」の食事は美味しかった。フォレストウルフのステーキは少しクセはあったものの、掛けられていたソースが絶品だったし、付け合わせの人参やジャガイモもステーキとは別に専用のタレが用意してあり、非常に満足だった。あとはコメがあれば文句なしなのだが、コメが南部3か国では準主食として存在していることは調査済だ。早ければ2か月後にはコメを食べられるはずと大輝は自分を抑えていた。


 食事が終わり、自分の部屋に戻った大輝は荷物の確認をしていた。明日は朝からランク上げに励むつもりだったため、今の内に確認しておくつもりだったのだ。確認する荷物は肩掛けカバンの中ではなく、大輝の首に掛けられているペンダントの中だ。人目につくとまずいため、今日までネイサン以外には見せていなかった代物だ。カンナには伝わっているだろうが。


 銀色の鎖に縦5センチ、横3センチ程の台座がぶら下がっており、その台座に真紅の宝石が埋め込まれているペンダント。現在、大輝の所有物の中で最も価値の高いアイテムだ。これは、師匠との訓練の最終日に渡されたモノで、師匠曰く「最後まで耐え抜いたご褒美」だそうだ。警戒心が薄く、口の軽い侑斗たちが所持品について何も言っていなかったことを考えるに、フィールドを時間目一杯使ったのは大輝1人で、根を上げずにフィールド修行を完遂した特典なのだと思っていた。そしてこのペンダントは非常に希少価値の高いことを大輝はすでに知っていた。


 虚空(アーカーシャ)と師匠が呼んでいたこのペンダントは「物質の存在を司る」らしい。難しい言葉で解説をされたのだが、大輝には全てを理解することは出来なかったが使い方と効果だけはしっかりと把握している。効果は非常に有用だ。量は無限でこそないが、生物以外の任意のものを虚空(こくう)へ収納できるのだ。収納先は感覚世界を超越した無為の世界であるため時間経過がないらしい。つまり、腐る事もお湯が温くなることもないのだ。そして使い方は簡単で、すでに虚空(アーカーシャ)には大輝の魔力を登録してあるため、収納したいものを大輝が触れて魔力を流しながら念じればOKだった。取り出したい時も大輝が取りだしたいものを頭に描き、置く場所へ魔力を通してやればいい。魔力登録で大輝以外には収納も取り出しも出来ないので防犯対策は完璧である。


 実は、アメイジア大陸にもこれに近いものは存在する。数百年前の「救国の魔女」と「魔職の匠」の合作で「アイテールシリーズ」と呼ばれる時間こそ止まらないが大容量を収納できる魔道具だ。膨大な魔力を有する「救国の魔女」と魔法を魔道具に変換する術を持った「魔職の匠」が同時期に存在したからこそ作られた魔道具と言われている。そして現存するのは10個に満たないと言われ、その殆どは国家の管理下にあるとも言われている。


 大輝はそんな貴重なアイテムを「ご褒美」としてくれた師匠に感謝していたし、それを知ってなお大輝の自由を認めてくれたネイサンとカンナに感謝もしていた。


 あらためて彼らに感謝の念を抱きながら虚空(アーカーシャ)に意識を通わせる。ネイサンから受け取って収納しておいた品々が脳裏に現れる。大輝本来の得物である2本の剣、機動力を重視して軽量ながら硬化処理の施してある革鎧、魔獣解体用のナイフ、初級の回復魔法と同等の効果を持つ回復薬、野宿に必須なテントや鍋、木製食器、調味料等の野営道具、雨具にもなる外套、パンや果物などの食糧を確認する。箱ごと収納したので気付かなかったが、どうやら頼んでいた以上の量を用意してくれていたらしい。

しかも、金貨が20枚も隠すように入れられている。召喚の黒幕とも言える一国の皇帝が金貨10枚であったのとは大違いだ。再度カンナたちに感謝しながら確認を終える。そして、明日から必要なものだけを取り出す。明日着る服と擬装用に用意してもらった両手剣だ。さあ、明日からランク上げだ。








 翌朝6時ちょうど。「銀の懐亭」の食堂に大輝の姿があった。テーブルの上にはパンとサラダとスープが並んでいるがあっと言う間に平らげていく。


「ご馳走さまでした。」


 10分で食事を終えて「銀の懐亭」を後にし、冒険者ギルドへ向かって歩き出していた。まだ日の出から大して時間が経っていないため、建物の影が長く大通りも殆どが日陰だ。それでも電気のないこの世界は日の出と共に起きて活動を始めるのだろう。水汲みに走る子供たちや屋台の準備を始める者、冒険者ギルドへと向かう帯剣している屈強な男たちなどが目に入る。



 アメイジアでは珍しい24時間営業をしている冒険者ギルドに着くと、「情報」のコーナーでは最近の魔獣目撃情報を求めて数組の冒険者たちが今日の獲物について騒がしく話し合っているのが目に入る。Ⅾランク以上の冒険者たちは目ぼしい討伐依頼がないときは自主的に魔獣を求めて狩りに行くのだ。


「だから!おまえのパーティーは4人だろ?なんで5人パーティーのオレらと報酬が半分になるんだよ!おかしいだろうが!」


「おかしくはない。メンバーのランクを比較すればこれが妥当な分配だ。」


 どうやら2つのパーティーが共同作戦を取ろうとしているようだが、報酬の分配で揉めているようだ。

赤髪を逆立てた大剣持ちの大男が吠え、緑のローブを着た魔法士風の男が冷静に言い返している。よくある光景なのだろう。その男たちのパーティーメンバーは黙って見守っているし、周囲の冒険者や受付嬢たちも気にしている様子はない。


(パーティー内もそうだけど、共闘とかはもっと面倒そうだな。しばらくソロで通そう。)


 大輝も皆に倣えとばかりに見て見ぬフリをしてGランクに相応しいであろう依頼を探し始めた。


「これとこれの依頼受理をお願いします。」


 GランクからFランクに上がる条件は10個の依頼を達成することである。そこで大輝は午前で終わる仕事と午後から始まる仕事の2つを受けることにしたのだ。


「認証プレートの提出をお願いします。」


 複数の依頼を同時に受けることはよくある為、受付嬢は何も言わずに依頼受理手続に入る。


「タイキ・クロサキさん。はじめての依頼ですね。頑張ってくださいませ。」


 認証プレートに依頼歴が記録されるため、大輝が初仕事であることに気付いた受付嬢が花が咲いたような笑顔で激励の言葉を掛ける。おそらく、受付嬢が美人なのも愛想が良いのも冒険者たちにやる気を起こさせる目的があるのだろう。それでも悪い気がしないのは間違いない。大輝のやる気ゲージも少し上がっていた。


「ありがとうございます。では行ってきます。」


 こうして冒険者としての初仕事に出掛けた。





「おはようございます。冒険者ギルドから来た大輝といいます。」


「おぅ!来てくれたか!って、兄ちゃんそのナリで大丈夫か?力仕事だぞ?」


 大輝がやってきたのは、ロック商会という鉱石の採掘から販売までを行っている商会の倉庫だ。ロック商会では予定より早く製錬された銅や銀などの金属が到着したために人手が足りず、販売先である各工房行の馬車への積み替え作業要員を求めて冒険者ギルドに依頼を掛けたのだった。当然力仕事なので、大輝のような痩身の少年が来るとは思っていなかったのだ。


「大丈夫だと思います。これでも身体強化は得意なので。」


「そっか。見たとこまだ成人前だろうに大したもんだな。」


「いや・・・これでも17歳なんですが。」


「がはは。それは悪いこと言ったな。すまん。で、早速だがオレの指示に従って積み替え頼むわ。」


 比較的成長の早いアメイジアの人々に比べて大輝が幼く見られるらしいことは知っていたが、それでも面と向かって言われるとちょっとショックなのであった。しかし、ロック商会流通担当のライズというこの男は気にも留めずに大輝に次々と運び込まれている金属の積み替えを指示する。


「この馬車の銅3箱と鉄5箱を先頭の馬車に持って行ってくれ。」


「了解です。」


 金属の種類ごとにマークが付けられている為わかりやすい。その箱詰めされた金属を次々と積み替える大輝。


「スゲーな。大輝。」


 書類をチェックしながら積み替え指示を出していたライズが思わず声を出す。指示が追いつかないスピードで大輝が荷を運んで行くからだ。一箱50キロはあるはずなのに、2段重ねで運ぶ大輝だった。


「おまえさん、身体強化レベルいくつだ?」


「それは企業秘密で。駆け出しとはいえ冒険者なのでスキル開示は控えてるんですよ。」


「あぁ。悪い。スキルを聞くのはマナー違反だったわな。今のは忘れてくれ。」


「いえいえ大丈夫ですよ。次はどれを?」


 身体強化は基本的なスキルだ。使えない事の方が珍しいのだが、高レベルとなると話は違ってくる。身体強化はレベルが1違うとおよそ20%効果が変わると言われている。レベル5になると本来の身体能力が2倍に、レベル10になると3倍まで引き上げられるようになるのだ。また、レベルが高い程その応用力は高く、目や耳に特化すれば視力や聴力が上がるし、脚だけに強化を掛ければ3倍以上の脚力を得ることも可能になる。ちなみに大輝は身体強化7、つまり超一流と呼ばれる域になる。


「いやあ。助かったわ。最初見た時はどうなることかと思ったが予定よりかなり早く終わったのは大輝のお蔭だ。ほれ、依頼達成の証だ。」


 11時を少し回った頃、全ての荷の積み替えが終了し、ライズが依頼達成証明書にサインして渡す。大輝の働きぶりに満足したのか、大輝への呼び方も変わっていた。


「ありがとうございます。なんとか初仕事を無事完了できたようで一安心ですよ。」


「おぅ。駆け出しとは言ってたが、初仕事か。でもその身体強化があれば街中での仕事は楽にこなせるだろうし、魔獣相手でも無理さえしなければ大丈夫だと思うぞ。」


「そう言ってもらえると自信にはなりますが、コツコツやろうと思ってます。」


「それがいい。若いのは過信して返り討ちに遭う奴も多いらしいからな。まあ、がんばれよ!」


「はい。今日はありがとうございました。」


 こうして初仕事を無事に終え、ライズと握手を交わしてロック商会の倉庫を後にした大輝は腹ごしらえの為南門前広場に向かう。目的は魔獣の肉の串焼き屋台だ。





「お。昨日のあんちゃんかい?」


 大輝を覚えていた魔獣の串焼き屋台の店主である30代後半の男が声を掛ける。


「はい。昨日のフォレストベアーの串焼きが美味しかったのでまた来ちゃいました。」


「おお!嬉しいこと言ってくれるね。ただ、残念ながらもう残ってないんだよ。」


「ありゃ。売り切れですか?」


「そういうこった。フォレストベアーは元々北東の森の奥にいる魔獣で狩れる人間自体が少ないのと、森の奥から巨体を全部持って帰ってくるのは無理だから元々出回る肉が少ないのさ。昨日のはたまたま知り合いの冒険者が狩って持ち帰った分をお裾分け程度に譲ってもらったもんなんだよ。」


「なるほど。昨日食べられただけラッキーだったんですね。」 


「だな。替わりに今日はフォレストウルフが大量に入ったから安くするぞ。最近は街道沿いにまで出てくるらしく、結構狩られてて仕入れも楽なんだわ。2本で大銅貨3枚で食べないか?」


「じゃあ、それ頂きます。」


 通常1本大銅貨2枚らしいので即決で2本を買う大輝。フォレストベアーに比べると歯ごたえがあり、クセも強いが、フォレストウルフ用に香草を加えてあるタレがいい塩梅に馴染んでおり十分以上に美味しかった。昨日のベアー、ラビット、そして今日のウルフとそれぞれに専用のタレを用意して舌を楽しませてくれるこの男に感謝と礼を述べて午後の仕事へと向かった。





「お疲れ様でした。」


 本日2つ目の依頼も力仕事で、家屋の解体で出た廃材を荷車に積み込んで引き取り先の倉庫へ運ぶ仕事だったが、大輝の身体強化7の前に簡単に屈していた。午前と同様に依頼達成証明にサインをもらった大輝は2つの証明書を持って冒険者ギルドへ向かう。17時というこの時間は冒険者たちが依頼完了手続きに戻ってきはじめる時間だ。大半の冒険者は夕方に戻り、夜は繁華街で酒を飲んだり、娼館に行く者も多い。


 冒険者ギルドの1階のカウンター10席の内7席が「依頼完了」用になっていた。お蔭で大して待たずに大輝も依頼完了手続きに入ることができた。


「依頼完了手続きをお願いします。」


 そう言って依頼者のサインの入った依頼達成証明書を2通と認証プレートを受付カウンターへ出すと、受付嬢が即座に証明書のサインを確認し、認証プレートへ2件の依頼達成を書き込む。そして報酬として大銀貨1枚を大輝に渡す。


「大輝さんお疲れ様です。2件の依頼完了を確認しましたので報酬をお渡しします。これからも頑張ってくださいね!」


 最後に軽くウィンクして声を掛ける受付嬢。これもサービスの一環なんだろうか、と思いながらもつい笑顔を返してしまう大輝だった。


 



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