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レゾナンス   作者: AQUINAS
第四章 マデイラ王国・クルシュ都市連合~紛争~
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第百三十二話 国境の街

久々の更新となりますが、本日から第4章を始めます。


よろしくお願いしますm(  )m

「「 ローザ王女万歳!! 」」


「「 ハンザ王国万歳!! 」」


「「 マデイラ王国万歳!! 」」


「「 両国の同盟よ永遠なれ!! 」」


 すでに7回目となる見送りの声を聞いて大輝はげんなりする。なぜなら、大輝はローザ王女の乗る馬車のすぐ近くに配されており、見送りの人たちの視線に晒されているからである。


(まあ、ハンザ王国内の民衆の見送りはこれで最後だからな・・・・・・我慢我慢。)


 大輝は現在、マデイラ王国の王太子に嫁ぐローザ王女の護衛の1人として婚礼行列に加わっている。そしてその行列は王都アルトナを発って7日目を迎えていた。王都での盛大な見送りは当然としても、250キロ東に位置するマデイラ王国との国境砦であるミッテ砦に着くまで、宿場街を出るたびに毎回万歳三唱で見送られるのに居心地の悪さを感じているのだ。例え見送りの対象が大輝ではなくとも。


「っくっくっく。」


 意地の悪い抑えた笑い声が大輝の耳に届く。 


「アリス様、そのような下品な笑い方をしてはいけませんよ?」


 大輝の眉を顰めた顔を見て笑っているのはアリス・バイエルだ。彼女もまたマデイラ王国への同行者の1人であった。


「その様付けはやめなさいと言ったはずよ!」


 もちろん大輝はアリスが嫌がると知っているからやっている。


「何をおっしゃいますやら。ここは王宮内ではありません。誰が会話を聞いているかわからないのですから身分に応じた対応をするべきではありませんか?」


 4か月に渡る王都アルトナ滞在中、ほぼ毎日のように顔を合わせていた大輝とアリスたち王子の側近は今では気さくな間柄になっていた。少なくとも今のように敬語や丁寧語を使うような間柄ではなくなっていたのだ。


「だからその喋り方やめなさいよっ! 鳥肌が立ってきちゃったじゃない。」


 アリスは4か月間徹底的に大輝とルード王子、さらにはオーデンやゾフィーにまでダメ出しをされ続けた。政務官の会議に参加して意見を述べれば論破され、意見を控えればそれでは修行にならんといって怒られる。そんな日々の繰り返しだったのだ。頭でっかちな意見を述べがちなオーデンとゾフィーを逆にやり込めたこともあるが、一番矯正が必要なのがアリスであることは変わらず、特に大輝にはこっ酷くやられている。その分互いに遠慮がなくなり事情を知る者の前では呼び捨てやタメ口は当たり前になっていたのだ。


「ふんっ。人の事を笑うのが悪い。」


 大輝が回りを固める騎士たちに聞こえない声でアリスに言う。


「お前たち、じゃれ合うのはそこまでにしろ。」


「そうよ。仲が良いのはいいけど、もう少し緊張感を持ってもらえるかしら?」


 馬に乗って移動しながらも軽口を叩き合う大輝とアリスに声を掛けたのはローザ王女と同じ馬車に乗るルード王子と彼らの母でありキール王の第二王妃ソアラだった。  


 今回のローザ王女輿入れに同行する王族はルード王子とソアラ王妃だけである。キール王とマデイラ王国国王の妹でもある第一王妃、そしてグラート王子はハンザ王国に残っている。王家同士の婚礼式典であることから全王族がマデイラ王国へ行くのが礼儀なのかもしれないが、異世界人を召喚してまで勢力拡大を狙っているハルガダ帝国と国境を接するハンザ王国としてはそれは出来なかったのだ。


「「 申し訳ありません。 」」


 大輝とアリスは揃って馬上から頭を下げる。


「この2人は私が監視しておきます。」


 オーデンが近寄ってきて馬車に向かって言う。今はアリスとオーデンがルード王子の側近を務める期間であり、今回の婚礼行列に参加しているのだ。以前のアリスであれば同格であるはずのオーデンに上司面されたことに腹を立てて何事か言い争ったかもしれないが、現在は状況判断力が多少向上しており黙ったままであった。


(さすがに学習したか・・・・・・)


 大輝は自分が怒られたにもかかわらず悠長にアリスを見ていた。なぜなら・・・・・・


(どうせまた私を試すために大輝が仕掛けたことだ。そしてルード王子だけではなくソアラ王妃までそれに乗っている・・・・・・オーデンだってそうだ。絶対にその手に乗るものかっ!)


 アリスの心中である。この4か月、あらゆる場面でアリスは試されていた。今回のように大輝を中心にして状況を作っては反応を見られているのだ。ここ数年のアリスの言動からすれば当然の扱いである。むしろ、幽閉されていないだけ幸運である。それはアリス自身がわかっており、今回の婚礼行列への同行が試験の一種であることも理解していた。ルード王子と大輝という監督者の下であるということ、同盟国マデイラであれば多少の失敗も大目に見てくれるだろうこと、この2つがあってようやくアリスの同行が認められていたのだ。 


 今回も最初こそ大輝の言葉遣いに過大な反応を示してしまったが、これは問題ない。仲間同士のコミュニケーションは重要だと事あるごとに言われているからだ。だが、注意を受けた時には素直に聞き入れなければ叱責対象になる。言い訳もご法度だ。


「アリスもいい感じになってきたな。」


 馬車の窓を閉めたルード王子が誰とはなしに呟き、それをローザ王女が拾う。


「ずいぶんとお兄様と大輝さんに揉まれていましたからね。」


「揉みはしたかもしれんが、その分私も随分と揉まれだがな。」


 試練を受けているのはアリスだけではない。ルード王子やグラート王子、他の3人の側近も同様なのだ。数年以内に国を背負って立つためには1日たりとも疎かにはできない。


「ふふっ。ルードも表情が明るくなったわ。前は私たち血を分けた家族ですら近寄りがたい雰囲気を醸し出していることがあったけど、最近は全くないわ。」


 ソアラ王妃が嬉しそうに言う。アリスが変わってきたのと同じようにルード王子もまた意識が変わりつつあったのだ。


「母上、私も必死だったのです。ですが、ようやく進むべき道が見え、成すべきことが定まったことで少しは余裕が出来たということでしょう。」


「次は私が頑張らないといけませんわね。」 


 兄であるルード王子の穏やかな表情を見てローザ王女が言う。彼女はこれから隣国マデイラへと嫁ぐ。オーストリアからフランスへと嫁いだマリー・アントワネットの逸話ではないが、身一つで嫁ぐことになるのだ。これはマリー・アントワネットが儀式として行った全身をフランス製の衣装で身を包むという意味ではなく、侍女や護衛といったハンザ王国の人間を伴わないで嫁ぐという意味である。


 ハンザ、マデイラの両王国は同盟関係にあるが、過度の干渉を防ぐ為に王家の婚姻を同盟の象徴としながらもそれによる影響を極力排する傾向にある。そのために嫁いできた王女の手足となる侍女や護衛は嫁ぎ先が用意するのだ。ローザ王女は一から人間関係を築かねばならず、円滑な人間関係を築くにはマデイラ王国の人間になりきる必要があるのである。


「婚礼の儀が済むまでは私たちがついている。その間に出来るだけの手助けを約束しよう。」


 妹の気持ちを思いやってルード王子が優しい眼差しを向ける。正式な婚姻が結ばれるまではごく少数とはいえ侍女や護衛の同行が許されるし、親族であるルード王子たちと同じ場所で寝泊まりすることになっているのだ。


「ふふっ。やっぱりお兄様は変わられたわ。少し前のお兄様なら自分でなんとかしろと言うか、何も言わないかのどちらかだったはずですもの。」


 ローザ王女は嬉しそうに微笑んだ。





「お待ちしておりました。」


 ミッテ砦に到着した一行を待っていたのはハンザ王国のミッテ砦の長だけではなかった。


 ミッテの街はアメイジア大陸でも特殊な街である。なぜなら、国境上に存在している街であり、ハンザ王国、マデイラ王国双方の国民が自由に出入りできる街なのだ。そして、ミッテの街を挟んだ東西に双方の砦がある。名前も同じミッテ砦であるため便宜上ハンザ王国側を西ミッテ砦、マデイラ王国側を東ミッテ砦と呼んでいる。そして双方の砦がミッテの街の城門を兼ねており、入るのは容易だが出る際には入念なチェックが行われる街である。相手国への不法侵入などを防ぐためである。


「いわゆる経済特区みたいなものか・・・・・・」


 東西のミッテ砦の長やミッテの街を預かる為政者たちの挨拶を受ける王族たちを眺めながら大輝はこの街の成り立ちを記憶から吸い上げて感想を呟く。


 鉱物資源が豊富で精製技術および加工技術に優れたマデイラ王国とそれらに魔法陣を刻んで魔道具化することに長けたハンザ王国。互いの長所をさらに伸ばす最適な組み合わせである。その2国が同盟を結び、物流を強化するために生まれた街がこのミッテの街である。つまりおよそ200年前に作られた街ということになる。


「ここは半分マデイラ王国と言えるわ。人も物もね。だからハンザ王国内では流通していない物も売っているし、珍しい食べ物もあるわよ。今日はここで一泊の予定だし、街でも歩いてみたらいかが?」


 アリスが大輝にだけ聞こえる声量で言う。大輝が異世界人であることを知っており、旅の途中であることも知っているアリスなりの気遣いだと感じた大輝。この街にはハンザ王国の騎士も常駐しているし護衛として張り付く必要はないということを大輝に伝えているのだ。

 

「そうか。ありがとな。そうさせてもらうよ。」


 周囲の耳がないことを確認した大輝はタメ口で返す。確かにここから先はマデイラ王国に入るため同行者が一気に減りローザ王女たちから離れる機会は少なくなる。ここまでは騎士団の行軍演習も兼ねて1個中隊1000人と共に移動してきたが、マデイラ王国に入る人数は100人以下にまで減るのだ。ローザ王女たち王族の他には、大使に任命されている伯爵や政務官が数人、そして婚礼式典の日まで彼らを世話する侍女たち、そして大輝のような護衛50人程だけがミッテの街からマデイラ王国に入る予定である。その分、マデイラ王国から迎えが来ることになっており、彼らが王都までの道中を警護することになっているが、大輝たち直衛警護の者は王族から離れるわけにはいかなくなるのだ。


「待たせたな。このまま私たちはミッテの街に入る。騎士たちは砦に泊まるがマデイラ王国に入る者は全員街へ入るぞ。」


 東西の砦長たちとの長い挨拶が終わってルード王子が声を掛けてきた。その声に従って大輝たちおよそ100人は入街手続きを経て両国国境の街ミッテに入った。





「なあ、なんでアリスがいるんだ? それに・・・・・・あなた方はまずいでしょうに。」


 ミッテの街での滞在先である街内最高級の宿に入った大輝はすぐに街へ繰り出したのだが、なぜか隣にはアリスがおり、さらにその後ろには変装したルード、ローザの兄妹がいた。


「ふむ。さすがは大輝だ。私の変装を見抜くとはな。」


「お兄様の言う通りこれなら安心して最後の息抜きができますわね。」


 ルード王子とローザ王女は下手な芝居を打つ。変装といっても王族用の衣装を脱いで庶民風の衣装に変えただけである。確かにフードを深く被っており、一見して顔は確認し難いが漂う気品というか佇まいで高位の者のお忍びであると簡単に見破れる。


「お2人とも街の有力者たちとの食事に行かれる予定ではなかったのですか?」


 ルード王子とローザ王女の棒読みのセリフを無視して大輝は咎める。


「長旅の疲れが・・・・・・」


「疲れたなら宿で寝ててくださいよ。」


「兄妹水入らずの最後の機会を・・・・・・」


「それなら王都アルトナで済ませたはずですよね? お2人がどうしてもと言うからキール王に叱られるのを覚悟で2泊3日のキャンプに連れ出してあげたはずですよ?」 


「「 それはそれ、これはこれ。 」」


 大輝は頭が痛くなる。ローザ王女の性格は最初からこうだったが、ルード王子は明らかにローザ王女に合わせているからだ。悩みどころは大輝としても嫌でないことである。王子2人と王女1人に王子の側近4人と大輝を合わせた8人だけで行ったキャンプは楽しかったのだ。実際は話のわかるガイン卿とベント卿が密かに周囲を騎士で固めて護衛していたのだが、丸3日間を彼らだけで過ごした。狩りと釣りの成果を競い、バーべキューに露天風呂で英気を養った。王族と貴族ばかりのため料理やテント設営などは大輝の負担が大きかったのだが、大輝にとっては初めての隠し事の無い友人との休息の時間だったのだ。楽しくないわけがなかった。


 7歳の時に『未来視』を得てからは家族以外誰にも話せなかった。


 異世界に来てからは異世界人ということを隠してきた。召喚した側であるハルガダ帝国上層部は信用ならなかったし、唯一カンナたちだけは話のわかる人間だとは思ったが友人関係とまではいえなかった。


 だが、彼らは違った。確かに衝突はしたし、王宮内では喧々諤々と意見を戦わせたこともあった。アリスなんかは最初の印象は最悪に近かったし、ルード王子にしても警戒対象だった。彼らは大輝が異世界人と知って驚きはしたが悪い方向に接し方が変わることはなかったのだ。主従であったり雇用者と被雇用者であったり教師と生徒であったりと時と場合によって互いの立場は変わるが間違いなく友人と呼べる間柄になっていた。


 だから困るのだ。大輝にはここまで受け入れられたことなどないから・・・・・・


「そういうわけで諦めてくれないかしら。」


 アリスが大輝の肩に手を置いて言った。


「アリス、王子たちが抜け出すためにオレに散策を勧めたな・・・・・・」


 大輝はアリスのしてやったりという笑顔を見て悟る。


「ふっふっふ。いつまでもやられてばかりの私じゃないのよ? たまにはやり返さないとねっ」


 アリスはルード王子の提案に乗って大輝を嵌めたのだ。


「そういうわけだ。私とアリスは自分の身は自分で守れるだけの力があるし、ローザのことは大輝に任せれば問題あるまい。なにせハンザ王国の騎士団および魔法隊の全部隊長をそれぞれの土俵で倒した男なんだからな。」    


「大輝さんが同行したとなれば誰も文句は言わないはずですわ。それに、お母様には許可を取ってありますし。」


 大輝は王都アルトナ滞在中に騎士とは剣で、魔法士とは魔法で模擬戦をやっている。その相手は中隊1000人の騎士を束ねる部隊長と魔法士100人を束ねる小隊長であり、1対1での戦いで全勝している。とはいえ、全員が手練れであり、剣と魔法の組み合わせを得意とする大輝は苦戦することも多かった。それに、彼らより上位である騎士団長や魔法隊長たちは手の内を晒さないためか手合せをしていない。


 ルード王子の言い分は、大輝は少なくともハンザ王国内有数の武力を持っていることは証明されており、それを買われて婚礼式典の日まで直衛警護の長を務めることになっていてその大輝が護衛として同行していれば問題がないということであり、ローザ王女もまたソアラ王妃の許可という大義名分を掲げているのだ。


「それに、父上に内緒でキャンプに行って帰ってきた時に父上が言った言葉を覚えているだろう?」 


「「「 次は私も誘いなさいっ! 」」」


 つまりそういうことには寛容なのだ。もっとも、大輝を始めとしたローザ王女以外のメンバーは剣か魔法、もしくはその両方で優秀な者が多いし、密かに護衛を付けていたからという事情はあるが。


「まあ、今はローザ王女の護衛が私の受けた依頼ですから雇用主には従いますけどね。」


 大輝は最初から諦めてはいたのだ。それに1人で街を歩くよりは友人と一緒の方が楽しいに決まっている。だが、形だけでも無理やりだということを表明しておく。


「最初からそういえばいいのだ。」


「ほんと、男の人ってめんどくさいですわ。」


「確かに・・・・・・私の旦那様にもこういう一面があるのかしら。気を付けないと。」


 3人とも大輝が形だけの拒否だと知っていて言いたい放題だった。



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