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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第十四話 冒険者ギルド

 晴れて自由の身になった大輝は意気揚々と大通りを南門方向へ向かって歩いていた。茶色に染められた麻のズボンに白のシャツ、魔獣の皮で作られた靴、肩からたすき掛けに麻袋のようなカバン、以上が周りから見た大輝の装備品だ。帝都民から見れば、少し上等な衣服を纏った街人Aに見えるはずだ。そのように見えるように大輝が用意したのだが。


 今日の大輝の予定はそれほど多くない。しばらくは帝都内の宿屋に泊まるつもりだからだ。理由は簡単だ。ハルガダ帝国を始めとした各国が異世界人である大輝をどう見ているかを知る為だ。大輝の予想では、各国は異世界人召喚の魔術が成功したことを知っている。企業や国へのスパイなど地球では当たり前としてその存在が知られていたため、当然このアメイジアでも情報の重要性を理解してスパイを放っている国は多いと思ったのだ。そうなれば、帝国に仕官しなかった大輝になんらかの形で勧誘なり監視なり、場合によっては暗殺を仕掛けてくる可能性がある。今後の方針を決める為にもまずは相手の出方を帝都内で確かめてから街の外へ出るつもりだった。魔獣が存在する街の外よりも人の目が多い帝都内の方が安全だとの判断である。


(まあ、旧壁を出てすぐにどこかから接触があるとは思わないけどな。)


 大輝はそう思いながら、ちょっと早めの昼食を探しに南門近くの広場へ向かった。屋台が目当てだ。


 帝都ハルディアは全長20キロの城壁に囲まれた正方形だ。その東西南北に各1か所城門があり、各門から入るとまず大きな広場に出る。その広場周辺を囲うように屋台が出ており、人々はその屋台で少量ずつ買って広場の中央に用意されている木のテーブルとイスで食べることができる。まだ昼には少し早いが、結構な人数が中央のテーブルに食事を並べている。


「いい匂いだな。」


 大輝の鼻がタレの焦げた香ばしい匂いを捉え、その匂いにつられるままに串焼きを売っている屋台へと向かう。


「おぅ!あんちゃん串焼き食ってかねえか?」


 七輪の上で焦げすぎないように串を回しながら声を掛けてきたのは30代後半と思われる男。


「どんな串焼きがあるんですか?」


 すでにタレの匂いに惹かれて買う気満々の大輝が尋ねる。


「今日はフォレストベアーが一押しだね。昨日久々に冒険者が狩って来たのを仕入れたんだ!鮮度もいいしあんちゃんツイてるよ!あとはいつも置いてるフォレストラビットだな。まあ、うちはタレがいいからも魔獣以外も美味いぞ!」


「じゃあ、フォレストベアーとフォレストラビットをそれぞれ1串ください。」


「おぅ!大銅貨8枚だな!」


 大銅貨や大銀貨はそれぞれ銅貨10枚、銀貨10枚の価値だ。大金貨もあるが、1枚が100万円相当なため滅多にお目にかかる事はない。


「まいど!」


 支払いを終えた大輝は空いているテーブルを見つけてすぐに串焼きにかぶりつく。


「美味いな。これは。高いだけある。」


 串1本で大銅貨6枚のフォレストベアーは美味かった。大輝の感覚だと1本600円というのは非常に高いと思ったのだが、その味を自身の舌で確認して納得していた。


 アメイジアでは数は少ないが牛や豚なども家畜として存在している。数が少ないのは食用としての価値が相対的に低いからだ。比較される相手、それが魔獣だ。魔獣には野生動物が魔力暴走によって魔獣化するものと発生過程が解明されていない魔獣がいるが、そのどちらも狩れさえすれば有用なことが多い。肉は上質で野生動物に比べると倍以上の値段で取引されるし、角や内臓などは薬になることもあれば魔道具に刻む魔法陣を描く過程で必須の材料となる。これでは世話が必要な家畜が増えないのは当然だし、より上質で命の危険が伴う魔獣狩りの成果に高値が付くのも当然だった。


 さすがに串焼き2本では腹が満たされず、追加でサンドイッチを平らげた大輝は本命の目的地に向かった。といっても広場から見える位置にあるので、わずか1分で到着したが。




 大輝は目的の建物の正面に立っていた。帝都でも数少ない3階建の無骨な石造りの建物である。だが他の石造りの建物とは違い、石を積み上げただけではなく積んだ石を土魔法の使い手が接合して強度を高めているのが見て取れる。ただ石を積んでセメントで接着している他の建物とは一線を画しているのだ。建物の大きさは、小学校の体育館位の大きさだろうか。そして囲っている石垣から想像するに敷地はその倍くらいはありそうだった。


 冒険者ギルドハルディア支部。これがこの建物に入っている団体の名前だった。


 冒険者ギルドは本部をアスワン王国王都アスワンに置きアメイジア全土に支部、出張所を設けている。

人口10万人以上の街には全て支部を設置しており、その数33。その他にも魔獣が多い地域や発展中の街にも出張所を出している世界最大の組織である。


 元々は魔獣から身を守る為の自警団のようなものだったが、長い年月を経て組織が拡大し、現在は各国と対等に交渉できる立場に立っている。各国は冒険者ギルドに対して魔獣討伐を依頼しているという形を取り、国内の魔獣被害の軽減、食糧や毛皮に魔道具の材料等の確保、街道警備等の騎士団の負担軽減を図り、対価として金銭を支払っている。冒険者ギルドが魔獣の討伐証明を持ち帰ってくる冒険者に支払っている討伐褒賞金の原資がこれだ。他にも冒険者ギルドは魔獣討伐だけではなく人材派遣業も行っている。これも国との取り決めの1つだ。商隊の護衛や盗賊退治などの荒事だけではなく、建物の解体作業、郵便の配達、街の掃除などだ。これらの仕事の依頼者は国であることもあれば、貴族や商人、平民と誰でも可能である。


 こうして国と冒険者ギルドは持ちつ持たれつの関係であるが、互いを尊重しなければならないという暗黙の了解がある。過去、財政に苦しみ討伐褒賞金の支払いを拒んだ国があり、当然ながらその国から冒険者は波が引くように去って行った。結果、その国は荒れ果てて5年と経たないうちに隣国の一部となったのだ。つまり国としては冒険者ギルドとの揉め事は亡国の危機を意味する。また、冒険者ギルドに取っても組織と所属者の権利さえ守られれば国との揉め事は避けるに越したことはない。なにせ最大のお得意様なのだから。


 大輝が旅をするに当たって最も重要だと思ったのが自由の確保だ。異世界人という特異性からただの旅人や行商人と言ったなんの後ろ盾もない状態では危険が伴うと思っていたのだ。そんな中で、冒険者ギルドと国の関係性は最も都合がよかった。相互不可侵の関係とギルド員の保護を謳っている冒険者ギルド。どれだけの効力があるかは未知数だったが、所属するメリットはあると判断したのだった。


「師匠との訓練で鍛えてあるし、魔獣との戦闘訓練も積んだ。討伐褒賞で旅の資金も稼げるし、冒険者なら国境通過もしやすい。冒険者にならない手はないよな。」


 新たな道へ進む不安からか、つい冒険者になるための理由を口に出してしまった大輝。もしこの時、大輝が自身の中に渦巻く不安の種に気付いていたら、この先に待っている動乱の中心に立つことはなかったのかもしれない。



 開け広げられた扉を抜け、冒険者ギルドに足を踏み入れた大輝の目には、左の壁に依頼書と思われる定型の紙が無数に張られ、右には20脚程のテーブルがありカフェのような空間が広がり、正面には10に区切られたカウンターが映る。各カウンターの間は簡単な衝立て仕切られており、時間帯によって受付内容が変わるのだろう、それぞれ「依頼申請」「依頼受理」「依頼完了」の札が各1か所、「休止」の札が7か所に掛かっている。ちょうど昼時なので訪れる人が少ないために受付の人数を減らしているのだろう。


「あ、昼休みかな。来るタイミング間違えたか。」


 つい間の悪さを口に出す大輝に「依頼申請」のカウンターにいた受付嬢から声が掛かった。


「よろしければご用件をお伺いします。」


 20歳前後の目のクリッとした黒髪の可愛らしい受付嬢が微笑みを浮かべながら手招きしている。


「こんにちは。冒険者登録をしたくて来たのですが。」


 声を掛けてくれた受付嬢の元へ行き用件を伝える大輝に対し素早く引き出しから紙を取り出す受付嬢。


「かしこまりました。こちらで登録手続きをさせていただきますね。」


 慣れているのだろう。受付嬢は大輝が登録用紙に書き込む速度に合わせて流れるように補足の言葉を挟みがら進めていく。名前、年齢、出身地、戦闘経験、戦闘スタイル、所有スキル等々項目は多岐に渡る。記入が終わると認証プレートを受付嬢に渡す大輝。勿論全てを正直に記入したわけではない。名前と年齢は認証プレートとの整合性が取れないので偽名詐称は不可だが、それ以外についてはギルドも強制はしていない。依頼斡旋のために協力要請という程度だ。大輝は今後必要があればスキルを開示します、と言ってその開示要請をやんわりと拒否していた。そして、最後に「魔職の匠」が作った認証プレート専用書き込み魔導具で認証プレートの所属欄に冒険者ギルドの文字が刻まれる。これで今日から大輝も冒険者ギルドのギルド員だ。


「これでギルド登録は完了です。こちらが冒険者ギルドの規約等を記した冊子になります。今後のご活躍を期待しております。」


「ありがとうございました。今日は受けませんが、どんな依頼があるのか少し見てから失礼します。」


 そう言って丁寧に頭を下げる受付嬢に挨拶を返してカウンターを離れる大輝。


 依頼書は受付に近い側から、「討伐」「護衛」「採取」「その他」に分けられていた。しばらく帝都内のみの活動とする予定の大輝は入口の扉に一番近い「その他」の依頼に目を向ける。


・南門から1キロまでの区間の街道補修作業。1日銀貨8枚。

・家屋の解体作業。1日銀貨7枚。

・店舗の店番。1日銀貨7枚。

・魔獣解体作業。経験者優遇。1日銀貨8枚。


 他にも沢山残っていたが、どれも1泊2食付の平均的な宿屋に泊まって昼食を取れば殆ど消えてしまう報酬額の依頼ばかりだった。


「まあ、こんなもんなのかな。」


 興味を惹く依頼がなかったため、さっさとギルドを後にする大輝だった。






 15分後、大輝は一軒の宿の前に来ていた。事前にネイサンから情報をもらって決めていた宿だ。名前を「銀の懐亭」という。名前の由来はこの宿屋の裏手に帝都守護を担当する騎士団の兵舎の1つがあるためだ。騎士団の鎧が銀色であることから、その懐に位置するこの宿は安全ですよ、という訳だ。そして、

大輝の目的もこの騎士団の兵舎だった。日中はともかく、夜は少しでも安全に寝ていたかったのだ。そこでネイサンの信頼できる仲間が隊長を務めているこの騎士団の兵舎近くの宿を教えてもらっていたのだ。早速大輝は中に入る。どうやら1階が受付と食堂、2階が宿泊用の部屋のようだ。


「こんにちは~。宿泊希望なんですが空いてますか?」


 受付のカウンターの中で帳簿でもつけているのだろうか、下を向いていて大輝い気付いていない女性に声を掛ける大輝。


「あ、すいません、気付かなくて。銀の懐亭へようこそ。お1人様ですか?」


「はい。できれば1週間ほど泊まりたいのですが。」


「大丈夫ですよ。1泊2食付で銀貨8枚なので大銀貨5枚に銀貨6枚になります。」


 30代半ばと思われる女性が丁寧に受け答えするが、どうやら連泊の割引はないようだ。大輝が金貨で支払を済ませ、釣りを受け取る。


「部屋はそこの階段を上がって一番奥でお願いします。こちらが鍵です。食事は朝が6時から8時、夜も6時から8時なので遅れないようにお願いしますね。昼は食堂としても営業してますが食事代は別になりますので注意してくださいね。」


 他にいくつかの注意点を教えてもらい部屋へと上がる大輝。8畳程の部屋にはシンプルなベットに丸テーブルとイスが各1脚。剥き出しだがパイプとハンガーがあるので上着を掛けることは出来るようだ。窓は通りに面しており万が一の時は窓を破って通りに着地しても大丈夫そうだった。逃走経路の確認を真っ先に行うあたり大輝の警戒心は高い。ある程度の、といっても狭い部屋なのですぐだったが、確認が終わると先ほど冒険者ギルドでもらった冊子に目を通し始めた。これまでに得ている知識と合わせて冒険者としての常識を頭で整理する。


(魔獣討伐が一番お金になるのは間違いないよな。)


 冒険者はギルドで依頼を受け、それを達成することで報酬を得る。また魔獣討伐証明を提出することで報酬を得ることができる。魔獣討伐証明とは魔石と呼ばれる魔獣の体内で魔力が結晶化したものを指し、冒険者ギルドのみが買い取っている。魔石は魔道具の動力として使われることになり、この魔石独占は冒険者ギルドの大きな収益源である。また魔獣の肉や内臓、角などの有用なものに関しては冒険者ギルドでも買い取りを行うが、こちらは個別に売買しても構わないことになっている。つまり、討伐依頼を受けて依頼を達成した場合、依頼達成の報酬、魔石提出の報酬、有用な魔獣の部位の売却報酬の3つがもらえることになるのだ。討伐依頼は困った事態にならない限り頻繁には出ないのだが。


(依頼を受けるときには条件に注意しないとな。)


 基本的に依頼に制限が掛かることはない。騎士団長クラスの戦闘力を持った人間が、街道補修の仕事を受けても構わないし、新人が龍討伐に参加してもいいのだ。あくまでも冒険者は自己責任で依頼を受ける。ただ、依頼によっては受けられないこともあるし、依頼失敗の違約金を請求されることがある。例えば、商隊護衛の場合、新人に護衛をさせたくない依頼者が依頼書にランク指定を行う、または期日指定ありで薬草の採取を依頼したが期日までに納品されない場合に備えて違約金を設定した依頼を行う、等だ。これらは依頼書に記載されているので、きちんと依頼内容には目を通さないといけない。


(今のオレは新人だからランクGか。これだと監視を撒くのにちょうどいい依頼が受けられないな。)


 冒険者にはランクが与えられる。スキルレベルと同じ10段階だ。依頼の達成数や成果、戦闘力等を総合して評価される。ランク昇格の条件はそれぞれ異なり、Dランクまでは厳格に数字で評価され、Cランク以上へはギルド支部の幹部たちによる合議で決まる。なお、Sランク以上は複数のギルド支部長の推薦が必要となる。


 Gランク・・・新人。誰もが通る道。魔獣に出会ったら逃げよう。

 Fランク・・・初心者。採取と雑役で経験値を増やそう。

 Eランク・・・初級。現在約25000名。魔獣に立ち向かう勇気ある者。

 Dランク・・・中級。現在約4000名。魔獣と戦える者。

 Cランク・・・上級。現在約1500名。対魔獣の主力となる者。

 Bランク・・・一流。現在約200名。対魔獣にて功績ある者。指名依頼を受けることが多くなる。

 Aランク・・・超一流。現在約30名。災害級の魔獣と戦える稀有な者。各国の貴族と対等の扱い。

 Sランク・・・達人。現在該当者7名。剣や魔法等極めた者のうち偉業を成した者のみ到達できる。

 SSランク・・・超越者。現在該当者なし。一騎当千と呼べる者たちで異世界人が3人到達している。

 SSSランク・・・神。過去誰もいない。このランクに意味があるのか不明。


(最低Eランクないとダメだな。コツコツやるか。Bランク以上は面倒事多くなりそうだからパス!)


 旧壁を出たことで一瞬開放感に浸っていたがどうやらまだ旅のスタートには準備が必要だったようだ。こうして夕食の時間まで大輝は帝都に滞在している間にやるべきことを整理していくのだが、つい漏らしてしまう。


「今度は旅の準備の最中に余計な横槍が入らないといいけど・・・」


 3か月前に異世界召喚という目に遭っているだけに実感が篭っていた。 





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