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レゾナンス   作者: AQUINAS
第三章 ハンザ王国~政争~
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another point of view 5 ~一郎・二朗~

 俺たちはツイてなかった。


 そう、過去形だ。重要なことだからもう一回言う。ツイてなかったというのは過去の出来事だ。


 今の俺たちは楽園に辿り着いた幸運な者たちと言えるだろう。


 なぜかって? そりゃそうだろう。酒は飲み放題、女は抱き放題の上、俺たちはピラミッドの頂点とは言わないがそれなりに重要なポジションを占めているからな。


 1年と少し前に比べれば天と地ほども待遇が違う。これをツイてると言う以外になんて表現すればいいのか俺にはわからない。だからこれだけ言わせろ。


 異世界万歳!

 



 

「馬鹿野郎がっ、1人たりとも逃がすんじゃねぇ! 首の数で褒賞金額が変わるってことを忘れるな! 」


「右からコソコソ逃げ出す奴らがいるぞ。5人回り込め!」


「数人生かしておけ。騎士たちが情報を絞りたいらしく引き渡さなきゃならねえ。」


 一郎と二郎が率いるハルガダ帝国傭兵隊は傭兵200人を動員して帝都ハルディア近郊の森にある盗賊団の殲滅作戦を行っていた。


「一郎様、二郎様、アジトである洞窟の裏手に回った部隊から伝令が来ました。退路は断ったそうです。そろそろ内部に突入するべきかと。」


「おう。ご苦労さん。それじゃ今回は二郎の好きに暴れてこい。外で捕えた連中の中に息のある奴がいるから首領以外は煮るなり焼くなり好きしていいぞ。」


「よっしゃ。兄貴の許可を得たことだし久々にゲームでもやるかな? それともフルコースを味わおうかな?」


 フィル・ユーシアス宰相の付けた参謀役の言葉を受けて傭兵隊の長である一郎が副長の二朗に突入を命じた。命じたと言っても遊んで来いと言わんばかりの言葉を投げかけたに過ぎないが。それでも命の危険があるにもかかわらず嬉々としてその命を受諾する二朗。勝つ事を前提に命のやり取りをゲーム形式で進めようとしていた。圧倒的な戦力でアジトを制圧した後に、盗賊たちの生き残りを賭けた様々な遊びを実行するつもりなのだ。


 その多くはゲームやアニメを模したもので、例えば、1メートル程の距離を置いた位置にナイフを持った盗賊2人を立たせて足を土魔法で固定させ、そして至近距離での殺し合いを行わせるのだ。生き残った方も結局は騎士団に引き渡されて死罪となるのだが、それでも目の前の死を回避するために盗賊たちは仲間を犠牲にしようとする。そんな盗賊たちの姿を肴に酒を飲み、時には勝者を予想する賭けまで行うのだ。他にも『盗賊危機一髪』や『盗賊に向かって撃て』といった名前の付けられたゲームがあり、それらを全て行うことをフルコースと言っている。


「好きにしろ。ただし、今から3時間で全てを終わらせろよ。」


「制圧に1時間、ゲームに1時間、戦利品の押収に1時間ってことだな、兄貴。」


「お前もわかってきたじゃないか。その通りだ。」


「了解、じゃあ、行ってくるよ。包囲組以外は俺について来い! 蹂躙するぞっ!」


「「「 おぅ! 」」」


 召喚されてから1年余り。一郎と二郎は水を得た魚のように活き活きとした生活をしていた。同時に召喚された7人の中でも世界に対しての適合具合でいえば1位2位を占めることは間違いなかった。


 現在の一郎と二郎に与えられた役目は騎士団の総力を北方の2つの自治領などの外敵に集中させるための露払いである。それは今回のように近隣を荒らす盗賊団の討伐であったり、スラム街のように他国の間者が潜み扇動による暴動が起きやすい地域の力による支配などだ。魔獣に対しては侑斗たちが主力であるが時には金稼ぎも兼ねて高ランク魔獣に挑むこともある。そしてこれらがひと段落したら騎士団とともに侵略に加わる予定でもある。その時が本格的な侵攻になるだろう。


 いわゆるヤのつく職業の末端に属していた一郎と二郎。彼らは侑斗たち一般人に比べて暴力に対する忌避感が薄い。だからこそ異世界人としての高い能力を活かして命の値段が日本より低いこの世界で頭角を現していた。そして今の傭兵隊は絶好調であった。総勢1000人近い規模に膨れ上がった傭兵隊はすでに帝都ハルディア内のスラムを完全に掌握しており、帝都を中心とした半径100キロ圏内に拠点を持つ盗賊団は今日で全て駆逐される予定なのだ。 

  

 魔獣相手に名を挙げる侑斗たち4人を超える知名度を得ているといってもいい一郎と二郎。彼らは今日もまた1つの盗賊団を壊滅させたことで名をあげた。





「ふふふっ。あなたでも感慨に耽ることがあるのね、一郎。」


「・・・・・・ユリアか。邪魔してるぞ。」 

  

 度数の高い酒を片手に一郎は部屋に入ってきた女に答える。一郎がいるのは帝都ハルディアの高級娼館の中にある娼館の女主ユリアの私室であり、ユリア本人以外では一郎だけが自由な入室を許されている部屋であった。


「ここに出入りするようになって半年か・・・・・・」


 一郎は呟く。


「そうね。」


 ユリアは短く答えつつ一郎のいるバーカウンターのような場所へ近づき隣に腰を下す。扇情的な薄絹の羽織を肌蹴たような装いだったがその動作は気品すら感じさせるものだった。帝都随一の高級娼館の主だけあって相応の教養や気品を身に着けているのだ。そして高級娼婦としてもっとも重要な心の機敏を察する能力を備えている。男が身体を欲しているのか、安らぎを欲しているのか、愚痴を零したいのか、そういった心を読み取ってこそ一流なのだ。そして今の一郎の状態を瞬時に察し、己の役目を認識しそれを演じる。今求められているのは聞き役だ。


「ユリア、お前は知ってるんだったよな。俺が何者かを。」


「えぇ。これでも高級娼館の主ですからね。お得意様のフィル宰相から口外無用ということで聞いてるわよ。」


 ユリアは一郎が本格的に傭兵隊として成果を出し始めた時にフィル宰相から宛がわれた女である。フィル宰相が一郎を本格的に手駒として使える人材だと感じたことで宛がう女のグレードを一気に上げたのだ。それまでは娼館の女を一晩買う形を取り、日替わりで違う女をつけていた。しかし本格的に子飼いの部下とするために精神的ケアも出来る高級娼館の、それも最上級の女であるユリアを動かしたのだ。


「俺はな、もともとどうしようもない男だったという自覚がある。」


 一郎が訥々(とつとつ)と語り出すのを黙って聞くユリア。一郎が異世界から召喚された人間であることを知っているユリアは郷愁の思いが募っているかもしれないと一層注意深く一郎の様子をみながら聞く。


「俺のいた世界ではな。昨日のように数十人の盗賊を斬ったみたいなことをしたら犯罪者になるんだ。だが、この世界では褒められた上に金まで貰える。」


 例え犯罪者が相手であっても彼らを強襲して切り殺せば殺人犯だ。それも大量の殺人を犯した者として死刑になること間違いなしだ。だが、盗賊団を壊滅させた一郎はそれを命じたフィル宰相だけではなく街の人間、特に隊商を伴って移動をする商人たちからえらく感謝された。その残忍さから恐怖の色を浮かべて遠巻きに見る者もいるが、彼らでさえ盗賊団を壊滅させた一郎たちに一定の敬意を払っている。そんな世界の違いを語る一郎。


「戸惑うのはわかるわ。でも、あなたは間違いなく正しいのよ。なぜならあなたは今この国にいる。そしてこの国で行った行為はこの国の人間が判断することだわ。」


 ユリアは一郎が良心の呵責でも感じているのかと思って一郎を肯定する言葉を掛ける。


「あぁ、すまん。戸惑ってるわけじゃないんだ。いや、違う意味で戸惑ってはいるんだが・・・」


 一郎は盗賊を斬ったことは全く気にしていない。褒められることも悪くはないがそれほど重要なことではない。一郎にとって重要なことは自分自身だからだ。自分に害がない限り、他人がどうなろうがどう思おうがさして気にしない生活を送ってきたからだ。


「簡単に言うとな、こんな俺向きの世界に来れた幸運が怖いくらいなんだよ。」


 一郎の言葉にユリアは安堵する。この娼館の後ろ盾であるフィル宰相は一郎がこのまま傭兵隊を率いて行くことを望んでいる。一郎がこの生活を変えたい、もしくは不満に思っているということが一番困るのだ。だが、一郎はこの世界に来れたことを幸運だと評した。すなわち今の生活に満足しているのだ。それであればこの後はなんの心配もなく単純に彼が語りたい話を聞いてあげればいい。そしてその後はいつも通りベットの上で悦ばせればいいのだ。 



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