第百三十話 異世界人
すでに事実を知っているキール王、ガイン卿、ベント卿の3人を除く全員が大輝を凝視する。彼らが大輝の言う「この世界の人間ではない」という言葉から連想できるのことは2つ。1つはアメイジア大陸の外、外海を渡ってやってきた者であるということ。そしてもう1つが召喚魔術によって異なる世界から召喚された異世界人であるということ。
この世界において外海を渡るという行為は自殺行為に近い。確かに500年程前に『救国の魔女』が外敵を防いだという逸話があるため、技術と運があれば海を渡る事も可能なのだろうが、アメイジア大陸に存する諸国にそれだけの航海技術はない。精々がアメイジア大陸の沿岸部で輸送手段に使われているだけだ。それだけにアメイジア大陸外の人間であるという可能性は低いと思っている。
一方、異世界人という存在は良く知られている。人間に比べて長命であるエルフたちでさえ実際に会ったことのある者はいないはずであるが、アメイジア大陸のそこかしこに逸話が残っているからだ。そしてこの国の主産業である魔道具製作技術は異世界人である『魔職の匠』がもたらしたものである。
その結果、彼らがどのように解釈したかは言うまでも無い。
「「 まさか・・・ 」」
「異世界からの来訪者!?」
「匠や魔女と同じ!?」
大輝はハルガダ帝国の宮殿を出てからこの事実を出来る限り隠してきた。ハルガダ帝国内の宿場町マサラで共に過ごしたエリスたち、獣人の隠れ村出身のココたち、そして一番長い時間を過ごしたマーヤたちにすら打ち明けていない事実をここで開示した主な理由は3つ。
1つ目はすでにキール王が知っていたこと。2つ目はこの会議室内での会話は外に漏らすことを禁じられていること。最後は先日知ったこの国の異世界人に対する姿勢だ。
大輝が異世界人であると知っているのはキール王だけではない。ガイン卿とベント卿、親方衆3人にカイゼル店長とハンザ王国で7人、間者も入れれば2桁は優に超える。さらに、ハルガダ帝国では宮殿内で広く知られているし、ロゼッタ公国の間者の存在も確信している。いつ噂が広まってもおかしくない。
(それなら効果的に使うべきだ。)
帝国、王国、公国の思惑で異世界人の存在を公表され、自国につかないならば貶めてやれとばかりに印象操作でもされれば旅に支障が出るどころか命の危険に繋がる。だから自分に好意的なキール王が臨席し、ハンザ王国の重要人物が揃ったこの場を選んだ。
(そしてこの場、つまり神聖な会議室というの重要だ。)
国の重大な事柄を決める場であり、会議室内の出来事は他言無用がルールだ。それを破れば大貴族であっても厳罰に処される。少なくとも当主交代は確実であり、意図的に漏洩した場合は反逆罪として一族郎党が処刑となる規定だ。
(王国法上最大の刑罰対象らしいからな。)
また、キール王に確認したわけではないが、この神聖な会議室を会場に選んだ理由の一端は異世界人であることを話す大輝に気を使っての事だと思っている。悪役を引き受けた大輝へせめてもの配慮というわけだ。
そしてこの国のスタンスについては出席者たちに念を押すためにキール王自身が語ってくれることになっている。
「特別顧問殿の本名はタイキ・クロサキ。およそ1年前にハルガダ帝国によって行われた召喚魔術の被害者の1人だ。だが、すでに帝国とは縁が切れている。そのことは私が保証する。」
キール王が保証人を買って出る。
「ち、父上は知っておられたのですかっ?」
ルード王子がキール王に確認を取る。
「『双剣の奇術士』殿が異世界人であると知っていた訳ではない。私が知ったのは大輝殿が王都に来られた後のことだ。もっとも、ハルガダ帝国が召喚魔術を成功させたことは知っておったがな。」
キール王は情報統制していたことを認める。そしてまずは現在の話を終わらせるべきだと話を戻す。
「ここにいる皆はハンザ王国の歴史については知っておるだろう。ハンザ王国建国期における異世界人の果たした役割を。そして彼らが最終的にこの国に残らなかったことも知っておろう。」
キール王は確認の意味を込めてその内容を語る。
「彼らの武力がなければ建国してすぐに魔獣なり隣国なりに滅ぼされていたという。彼らの知識がなければ社会基盤を整備できなかったという。認証プレートや印章こそ大陸全土に広まったが、我が国は魔道具技術をはじめいくつもの恩恵を受けている。現在にまで国家制度の多くにその名残があるほど世話になった。」
参勤交代に似た制度に始まり、王国法の基礎に至るまで異世界人の知識が活用されているのだ。大輝はこの世界の文明レベルに合わせて当時の異世界人たちが提案したものだろうと予想している。
「我々の祖先たちは彼らに貴族となるように懇願したというが、彼らは自らの意志でそれを断ったという。断った理由までは知られてはいないが、彼らには彼らの考えがあったのだろう。そして祖先たちは世話になった恩人たちの意志を尊重した。」
大輝にも当時の異世界人たちの考えまではわからない。責任ある立場を嫌っただけかもしれないし、この世界の住人でない以上は手助けに留めるべきだと思ったのかもしれない。『魔職の匠』こと三隈拓義の手紙から推測すれば後者だとは考えているが。
「それ以降、異世界人は何人か現れたというが、我々の方針は一貫している。」
大輝が異世界人をカミングアウトした理由が明かされる。
「王国に害をなさない限りは彼らの意志を最大限尊重するということですね・・・・・・」
ルード王子が諦めの色を滲ませながら答える。
「そういうことだ。大輝殿が宰相の職を受け入れるならともかく、そうではない以上強制するわけにはいかない。それがハンザ王国国王としての判断だ。」
王国法に記載されているわけではない。ただの慣例的方針である。だが、最も異世界人の恩恵を受けていると言ってもいいハンザ王国ではこれに異を唱えることは難しい。しかも、王の判断とまで言い切っている以上はルード王子にこれを覆すことはかなわない。
「そうなると・・・・・・」
ルード王子も大輝宰相案は断念せざるを得ないが、ハンザ王国の行く末が心配なのである。
「ルード・・・・・・私よりお前が王太子になるべきだ。」
黙って話を聞いていたグラート王子が苦手なはずの異母弟に話し掛ける。
「今の私たちでは近い将来訪れる難局を乗り切れまい。父上が言っていたであろう。大輝殿はハルガダ帝国の召喚魔術の被害者の1人だと。つまり、ハルガダ帝国には他にも異世界人が召喚されているということ。大輝殿のようにハルガダ帝国を離れているのであればよいが、もし帝国側に与しているのであれば大問題だ。その場合、私ではどう対処していいのかわからない。お前なら何らかの手を打てるだろう?」
冷静になったグラート王子は状況が見えてきたようだった。
「グラートの言う通り、他に6人の異世界人が召喚されている。そして彼らは全員が帝国軍に所属している。大輝殿のもたらしてくれた情報と合わせると・・・・・・早ければ3年、遅くとも5年で我が国に目を向けることになるだろう。」
キール王が具体的にグラート王子の懸念を肯定する。
「ならばこそだ。確かに私には成したいことがあるが、それはハンザ王国という器があってこそ。それが危ういということであればルードの方が適任というものだろう。」
「お待ちください兄上。危機の時ほど民心が大切です。民と一丸となって事に当たらねばならないはずの事態に私が先頭に立つわけにはいきません。」
ルード王子の真意は別として、王太子の座を争っていたはずの2人が互いを推挙するという異例の事態となっていく。
仮に5年後にハルガダ帝国と戦になった場合、キール王は齢60となる。この世界において60という年齢は十分高齢に当たる。肉体的な最盛期が長いとはいえ衰えが顕著になる年齢であり、医学の発達が遅れているために病に侵されれば治療魔法しか頼る術がない。そして老齢であればあるほど備わっている免疫力が低いために魔法を使っても回復の可能性は下がる。5年後にキール王が指揮をとれるとは限らないのだ。
「国力で劣る我が国は1つの過ちで厳しい局面に陥るだろう。そうならないためにも状況判断に優れたルードが指揮をとるべきだ。」
「兄上こそ求心力を活かして騎士、魔法士、民の士気を上げるべきです。また、同盟関係にあるマデイラ王国を動かすにも兄上の方が適任です。」
双方ともに長所と短所がある。グラート王子派は血筋の良さもあって挙国一致体制の象徴となれるし、隣国マデイラ王国から最大限の支援を受けられる可能性があるが、難局においてはその指導力であったり采配に不安が残る。それに対してルード王子はその真逆だ。
(いい感じになってきたな・・・・・・側近も貴族も互いの長所短所が明確になってきたし、今がタイミングだな。)
大輝は平行線を辿る両王子からキール王に視線を送る。すると、キール王も同じことを考えていたようで大きく頷き返した。
「よろしいでしょうか?」
大輝が間に割って入るが、すぐさま両王子から大輝に声が掛かる。
「特別顧問殿からも言ってくれ。時と場合で求められる王の資質は変わるのだろう? 私は今こそルードが求められていると思うのだが。」
「私が王として起ってはならない理由は話したであろう? 貴公もそれには納得したはずだ。」
互いに独力では説得出来ないと思ったのか、割って入った大輝に援護を求めたのだ。
「私の話には続きがあるのですが、お聞き下さいませんか?」
大輝はどちらに加勢するとは明言せずに代案があることを示唆する。グラート王子はここまでの流れで大輝の話は聞くべきだと感じてすぐさま頷く。一方、ルード王子はやや不服そうではあったが、代案があるのなら聞くべきだと理性的に判断して大輝を促した。
「双方が相手の長所こそが来るべき時に役立つというお話をされていますが、それは本心であると考えてよろしいですね?」
「もちろんだ。」
「当然だ。」
提案の前にそれぞれの意思確認をする大輝。
「ロストック公爵、ヘッセン侯爵、リューベック公爵。それぞれを代表して両王子の発言をどのように思われますか?」
「正直言って困惑しているが・・・」
「うむ、ルード殿下のお心は理解しているつもりだが・・・」
「お2人の意見はそれぞれ正しいと思う・・・・・・」
「だが、一方だけでは・・・・・・」
「そこだ。求心力と判断力のどちらかだけでも素晴らしい才能であるが・・・・・・」
「あわよくば良いとこどりしたいというか・・・・・・」
「だからこそ大輝殿を宰相にという案はありなのかもしれん。」
「もちろん我らも強要するつもりはないのだが。」
「「「 ・・・・・・。 」」」
3人とも両王子のことを認める発言とともに大輝を恨みがましく見る。
「大丈夫ですよ。私なんかより適任者をご紹介しますから。」
大輝は苦笑いを浮かべながら答える。とはいえ、適任者を紹介するということはグラート王子が王太子となり、王となったあかつきには宰相を任命するということを意味する。一時的な感情かもしれないが、グラート王子は王太子を辞退するつもりになっているし、ルード王子は自身のお眼鏡に適った大輝だからこそ宰相案を出したのだ。双方とも大輝の提案をそのまま受け入れるわけにはいかないために立ち上がって拒否しようとする。
「最後まで聞かんか!」
キール王が一喝して2人を席に着かせる。
「お前たちは変なところで似おって・・・・・・」
正反対に見える2人の王子が同じ行動を取ろうとしたことにキール王は誰に似たのやらと溜息をつく。
「両殿下、ご安心ください。その適任者の身元も能力も保証付きです。」
大輝の言葉を素直に信じきれない一同。この世界に召喚されて僅か1年の異世界人が身元も能力も保証する相手の想像がつかないのだ。共に召喚されたという6人の異世界人はハルガダ帝国に属しているというし、ノルトの街では獣人の連れがいたらしいが極僅かな期間であるし身元保証に難がある。そうなるとギーセンの街で行動を共にしたフュルト家関連になるが、4歳の子爵家令嬢はありえない。一番ありえそうなのが政治経験のあるミッテル子爵だが、大輝との接点が薄く保証すると言われても承諾しかねるのだ。
(ここまで来て気付かない!? それだけ当事者にとってありえない選択肢なわけか・・・・・・。キール王は最初からそれを望んでいたというのに。自分の息子たちにすら真意を悟らせない仮面を被っていたわけか。公平過ぎますよ、陛下。)
大輝は周囲を見渡したのち、キール王に向かって非難の視線を浴びせながら立ちあがって移動を開始した。そしてソファーに座っている目的の人物の肩に手を置いて紹介する。
「ご紹介します。グラート殿下の右腕として私が推薦するのは、こちらにおられるルード・ミュンスター殿下です。」
大輝の紹介にこの落としどころを知っていたキール王、ガイン卿、ベント卿を除いて誰一人反応を示さない。
「・・・・・・え~っと、まず身元ですが、ハンザ王国の王家であるミュンスター家の次男であることから問題ないと思います。次に能力ですが、すでに王領での実績もありますし、先ほど皆さんがお認めになったように判断力に優れた人物ですので問題ないと思いますがいかがでしょうか?」
「「「 そんなことわかっとるわ! 」」」
両陣営だけではなく中立派からもツッコミが入るがそれは息が合ってきた証拠と前向きに捉える大輝。
「これほどの適任者はいないと思いますが、なにかご不満でも?」
大輝は挑発的な態度を取る。つい先ほど両王子の長所を認めたばかりであり、良いとこどりをするには最適な人選だということは間違いない。問題があるとすれば、ハルガダ帝国が覇権主義に相応しく皇帝の一族を要職につけて競わせる慣習があるのに対して、ハンザ王国は王の直系以外は国政に携わる事が少ないことだ。つまり次代の王が決まればその兄弟たちは要職につかず、王領の一部を経営する地方領主になることで野心がないことを示し、内乱の目を消すことを良しとする慣習があるのだ。
「不満などない。だが・・・・・・」
「慣習に反するのだ。大輝殿は知らぬかもしれぬが。」
やはり大貴族の多くは長年続く王族の身の処し方についての慣習が気になるようだ。だが、それを言い訳にするのはいただけない。なぜなら・・・・・・
「もしルード王子が王となればそんな慣習に囚われるような治世にならないと思いますが?」
ルード王子が王領で成果を挙げた改革は慣習であったり既得権益といったものを壊して成したものだ。王となれば王国全土で起こることになる。もっとも、大輝としてもお家騒動を防止する方法としては悪くないと思っているため、彼らの枷を軽くすることにする。
「今回が特別だということです。宰相というのは君主が任命するものであり一代限りの役職です。その解任も王の一存で可能ですから、問題があると思えばいつでも解任可能です。まあ、互いの重要性は先ほど確認しましたので多少意見がぶつかった位で解任なんてことはないでしょうが。」
大輝は簡単にルード王子を解任するようでは王の器とは言えないと釘を刺す。
「また、ルード王子には王となるつもりはありませんから、宰相任命の際に王位継承権を返上してもよろしいかと思います。おそらくルード王子は拒否しないでしょう。」
大輝の視線を受けて元々命すら差し出す覚悟を持つルード王子は当然のように頷く。まだ自分が宰相として国政に関わる事に納得はしていない顔ではあったが。
「最後に、今はハルガダ帝国が他国への侵攻を目的とした異世界人召喚を行ったという異常事態です。これまでと状況が異なることを認識してください。そして慣習を守りたいのであればその旨をしっかりと後世に伝えるような措置をとって下さい。そうすれば問題ないはずです。」
一同は助けを求めるようにキール王に視線を向けるが、キール王はそしらぬ顔で視線を受け流す。全て大輝に言わせるつもりなのだ。そして悪役であっても引き受けると言った手前、大輝は最後までその任を全うする。
「私の考える体制はこうです。グラート王子が次代の王、そしてルード王子が宰相。ただし、2人で1人のつもりになって頂きます。表向きはグラート王子の意向をルード王子が実務に落とし込むという形を取りますが、実際には全て互いの意志を確認してもらいます。グラート王子が成したい施策があればルード王子にその手法を相談してください。ルード王子が改革した案件があればその内容をグラート王子に相談して許可を取ってください。」
二人三脚で物事に取り組めという話である。
「もっとも、これまでの経緯を考えればすぐには機能しないでしょう。ですからキール王には後継問題を長引かせた責任を取って出来るだけ長く在位していただき、その間に意志疎通を計ってもらいます。」
キール王が健在であるからこそまだ時間がある。
「具体的にはグラート王子とルード王子の行動が重なるように配慮して頂きます。そして互いの意見を交換する時間を出来るだけとってください。また、側近の皆さんについてはシャッフルします。互いの主と似たタイプが揃っているようですので、入れ替えを提案します。」
グラート王子とルード王子が交わるのと同じように側近同士、そして側近と主の交流を持たせることで意識改革を促すのだ。全てが良い方に転ぶとは限らないが、少なくともこのままではバイエル兄妹の方は更迭どころか厳罰が与えられる可能性が高い。大輝はそれも辞さないつもりで今日に臨んでいたが、全てを吐き出したアリスが憑き物が落ちたような顔つきをしていたことから様子見を提案しているのだ。もっとも、大輝には罰する権限はないし、この会議室の中では活発な意見交換を行うための下地として不敬罪など一部の王国法を適用しないことになっている。だからこれは最初から用意していた案の1つだ。
(もっとも、すぐに処罰されないといっても失態は失態として記憶に残る。今後劇的に改善しない限りは解任されるだろうし、少しでもミスを犯せば投獄以上の結果が待っているだろうな。)
大輝の想像は正しい。ハンザ王国の歴史を紐解けばこの会議室内での失態が原因で大貴族の当主が引退に追い込まれたこともあるし、不慮の死を遂げた者もいる。
(とはいえ、今回はオレがわざとキツイ言い回しをして焚きつけたことをキール王は知っている。それに乗せられた責任は重いとしても、乗って来るまで焚きつけることになっていたからな。)
大輝とキール王は最初からこの落としどころを目指して話を進めていたのだ。言ってしまえば結論ありきの茶番だ。だが、国の象徴としてのグラート王子、実務能力に優れたルード王子、これから訪れるだろう難局には両輪となって当たらねば乗り切れない。だから両派の関係を一度ぶち壊す計画を立てたのだ。新たな関係を築けるか、また、不足している能力を鍛えられるかどうかは当人たち次第であるが、大輝とキール王はそのお膳立てまでしかできない。そのお膳立てが両王子をセットで動かす時間を増やしたり、側近の入れ替えであった。
「最初の3カ月、そっくりそのまま両王子の側近を入れ替えます。その後はキール王に任せしますが、互いを尊重した交流を図って頂きます。もちろん、改善がなければ解任されると思って臨んでもらいます。」
いわゆる試用期間という扱いである。時間的猶予があるからこそ出来ることであった。そしてこの提案にグラート王子を除くグラート派の大貴族は肯定的であった。続けざまに失態を演じてしまったこともあるし、ハルガダ帝国の脅威が具体的になったことで危機感を持ったからだ。一方、グラート王子本人はこの提案を受けてもいいのか躊躇しており、また、ルード王子も踏ん切りがつかないでいた。それを表情で察した大輝は決断力で上回ると思われるルード王子へ向かって言う。
「ルード王子。あなたはご自身のことを私にこう言いましたよね? 『むしろ存在しない方がよいのかもしれん』と。そしてこうも言いました。『刺し違えてでも排除する』と。」
皆の前で密談内容を語ることに後ろめたさを感じながらも言わなければならない。
「さて、ここにいる皆さん全員があなたの手腕に期待しているわけですが、それでも受けませんか? そして刺し違えるならハンザ王国の敵を相手にするべきじゃありませんか? それとも『王家に生まれた人間としてハンザ王国の行く末が心配なのだ。』というあの言葉は嘘ですか?」
大輝は挑発を込めて言った。ルード王子の背中を押すために。
「・・・・・・私は貴公を高く評価していたつもりだったが、それでもまだ甘い評価だったようだ。」
父であるキール王としばらく無言の会話を交わし、そして肩を竦めて大輝に言った。全ては仕組まれたことであると気付き、そして受けざるを得ないという結論に達したのだ。そうなればルード王子が次にすべきことは1つだった。ルード王子はスーッと背筋を伸ばし、そして正面に座るグラート王子へ向かって頭を下げる。
「兄上・・・・・・王太子となる兄上を私にも支えさせていただきたい。」
劣等感を感じていた相手である異母弟が初めて自分に頭を下げる姿を見てグラート王子も覚悟を決めた表情へと変わり、そして頭を下げ返す。
「ルード・・・・・・私が願い出るべきことだ。だから頭を下げるの私の方だ。」
前途は多難であるが、兄弟が互いへ向かって最初の一歩を踏み出した瞬間だった。
55話消失の件についてご報告とお願いがあります。
残念ながら8日に行った55話サルベージ作戦は失敗に終わりました。
バックアップを取っていなかった責任を痛感しております。
申し訳ありませんm( )m
再度書き直すことになるのですが、もし55話を保存してらっしゃる方、もしくは履歴に残っている方がいらっしゃいましたらご連絡いただけると非常に助かります。
最後に今後の予定です。
予定の倍以上のボリュームになってしまいましたが、3章は明日で最後になります。その後3話一郎・二朗のヤクザ側の話を入れて4章へと入ります。現在、4章の12話目、通し番号で言うと第百四十三話まで書きあがっております。
今後ともよろしくお願いいたします。




