第百五話 防御機構
「マーヤちゃん。準備はいいかい?」
「うんっ。パパに会えるんだよね?」
「そうだよ。だけど、他に人がいる時はパパって呼んじゃダメだからね。」
「はいっ。マーヤは約束を守りますっ!」
大輝たちは『鬼ごっこ』を終えると司令班の誘導に従って領主であるヘッセン侯爵の館からほど近い屋敷に入っていた。当初の計画では裏ギルドが抑えている倉庫街の一画に人質たちと共に一時隠れる予定だったのだが、大輝が先月からギーセンの街に入っていた国王直下の騎士たちと接触したことでより安全であり、今夜乗り込む予定のパーティー会場が近いこの場所が借りられたのだ。
(ここが借りられただけで取引に応じた甲斐があったな。)
この場所はグラート王子にとってのバイエル兄妹と同じく、王太子であった頃からキール王の側近の1人であるガイン卿がギーセンの街へ滞在するために借り切っている大きな屋敷であり、貴族の私兵である警備隊が踏み込むことは不可能である。つまりフュルト家配下の者たちとその家族の安全は保証されているのだ。そして侯爵の館まで近いことで移動の際に発見されるリスクも小さい。さらにすべてが解決した後に対面する予定のミッテル子爵が治療を受けている治療院は目と鼻の先であり、夜まで時間の空いた大輝はマーヤだけを連れてミッテル子爵の元へ忍び込むことにしたのだ。
忍び込むといっても不法侵入するわけではない。ガイン卿の伝手で高位の治療魔法士とその弟子を向かわせるという名目で大輝とマーヤをミッテル子爵に面会させるのだ。大輝が治療魔法を使えるというのは事実であるし、その大輝に魔力の扱いを学んでいるマーヤがある意味弟子であることも嘘ではない。
「準備はよろしいでしょうか?」
ガイン卿と共に隠れ家たる洞窟に訪れた2人の内の1人が大輝に尋ねる。キール王の側近であるガイン卿の部下であり、国王直下の魔法士を束ねる立場にある人物である。
「はい。ブランさん、案内よろしくお願いします。」
「お願いしますっ!」
こうして大輝とマーヤはハンザ王国でも有数の魔法士ブランに案内されて迎賓館の敷地内にある治療院へと向かって行った。
「こちらになります。」
国王の側近であるガイン卿の紹介ということですんなりと迎賓館の敷地への立ち入りが認められた大輝とマーヤは案内役の女性にミッテル子爵のいる部屋へと通された。
執務停止処分を受けているとはいえハンザ王国にある貴族家の1つであるフュルト家の当主ミッテル子爵は相応の扱いを受けているようで、20畳近い個室が宛がわれていた。
部屋の中にはミッテル子爵の寝かされている寝台の他にイスやテーブルが配置されており、見舞客が寛げるスペースも用意されている。もっとも、ホーグ・ベルナー名誉子爵によって軟禁に近い状態であるため、これまでに見舞いを許された者などいないのだが。
「失礼します。」
「します・・・」
大輝とマーヤに加えてブランの3人だけが病室に入る。案内役の女性は外で待機するようだ。
「ガイン卿の紹介で来られた治療魔法士の方ですね。」
ブランの着る魔法陣を模したデザインシャツを見て寝台の脇で脈を取っていた男性が声を掛けてきた。どうやらミッテル子爵の治療を担当している治療魔法士のようだ。
「ガイン卿配下の魔法士ブランです。早速ですがミッテル子爵の症状についてご説明願いたい。」
治療魔法士の男性が名乗る前に容態についての説明を求めるブラン。余計な会話をして大輝とマーヤの正体がバレないようにとの配慮である。しかし・・・
「お嬢様にお聞かせするのは・・・」
治療魔法士の男性はマーヤを見ながら反論する。マーヤは子爵家令嬢であり、高位治療魔法士である男性はマーヤの事を知っていたのだ。それに気付いた大輝とブランは困惑するが男性は言葉を続けた。
「私は治療魔法士です。ミッテル子爵が回復されるのでしたらそれ以外の事には関知しません。」
男性の言葉は追われているはずのマーヤの存在を公言しないことを示していた。少なくとも今夜まではマーヤの所在を知られたくない大輝とブランはそれでも戸惑いを隠せない。その反応をみた男性はさらに言葉を足す。
「私は子爵の奥様の治療も担当していました。2年程前になります。しかし、私の力不足もあってお助けすることが出来ませんでした。そして今回もこのままでは・・・」
男性の表情が歪む。それを見てようやく大輝とブランが治療魔法士の男性の気持ちに気付いた。治療魔法士として患者の回復こそが最上の願いであるという彼の気持ちは本物であり、ミッテル子爵夫妻を助けたかった、助けたいという思いが強いのだということに。そして、ミッテル子爵の容態が思わしくないということにも気づく。だから幼いマーヤに聞かせたくないということに。
「申し訳ありません。」「申し訳ない。」
大輝とブランが頭を下げる。彼の気遣いに気付かず、さらに治療魔法士としての彼の信条を疑うかのような態度を取ったことを謝罪したのだ。その間、マーヤはじっと寝台の上で苦しそうに息をしながら眠っている父を見つめていた。
「ですが、マーヤちゃんにもこの場に居て貰います。病状の説明をお願いできますか?」
大輝はマーヤの同席を認めるべきだと思っている。癌の告知や余命告知について色々な議論があることは承知しているが、大輝としては余程の事情がなければ告知するべきだと思っている。患者本人が極端に精神的に弱いとか、家族が受け止めきれないと言った事情があれば別である。だが、マーヤは幼いながらに気丈であるし、仮に大輝の治療魔法が効果を発揮しない場合でも真実を知るべきだと思っているのだ。
その大輝の判断を尊重して治療魔法士の男性は病状を語る。
「最初に往診に呼ばれた際は風邪による発熱と聞いていました。おそらく寒い冬に牢に入っていたことと食事事情が悪く衛生状態も良くなかったことが原因でしょう。治療魔法を行使したところ数日で回復されました。」
どうやら一旦は回復したらしいことが語られる。
「しかしその後再び体調を崩されたと聞いて駆けつけたところ、高熱を発し、全身の倦怠感を訴えておられました。警備隊や名誉子爵は渋っておられましたが命に係わると判断してこちらの施設へと移送しました。」
一度回復したところで待遇はかわらなかったために再度病に侵されたのだろうことを示唆する男性。
「治療院に移って頂いてから治療を続けていますが日に日に体力が失われている状態です。具体的な症状でいいますと、高熱、咳、膿性の痰、呼吸の乱れが見られます。また全身の倦怠感や胸部の痛みを訴える日もあります。症状自体は私の治療魔法で一時的に抑えることが出来ていますが、体力の消耗が激しく、日に日に治療魔法が効きにくくなっています。このままでは・・・」
男性は目に涙を浮かべているマーヤを気遣って言葉を止める。マーヤにも言葉の続きが想像できたのだろう。今にも涙が零れそうになっていた。
(治れ治れと祈りに近い魔法では効果は薄いはず・・・おそらくだけど、この世界の人たちが行使する治療魔法の効果は新陳代謝の促進なのだろう。だから点滴があるわけじゃないから満足に栄養を取れない病人の身体ではどんどん効果が薄れる。)
大輝はこれまでに見た治療魔法の効果と実際にフォルカー湿原で治療に参加したことで予測していたことを確認する。そしてミッテル子爵の置かれている状況を考える。
(ミッテル子爵はおそらく肺炎だ。確か日本では癌、心筋梗塞、脳卒中に次いで死亡原因の第4位が肺炎だったはず・・・あれ、3位になったんだったか。それは横に置いて、肺炎の中で最も多いのが細菌性肺炎で・・・胸痛を訴えているということは胸膜への炎症もあるし、呼吸困難の前兆があるってことは重症化寸前か・・・)
大輝は医学を専門に学んだことはない。それでも記憶力を活かしてミッテル子爵の症状に合致する病気を割り出していく。
(オレが自己管理を怠った時になった肺炎は抗菌薬の投与ですぐに回復したけど、この世界にペニシリン系の抗菌薬なんかないし、オレも受けた胸部エックス線なんて診断方法はない上に例えあってもオレには判断出来ない・・・)
必死になって治療方法を考えるが現代日本の治療方法をこの世界で実施するのは不可能だということを実感するだけだった。真剣な面持ちで頭をフル回転させる大輝を不安気な表情で見つめるマーヤ。治療院の担当者が打つ手がないことを肌で感じているマーヤにはもはや大輝に縋るしかないのだ。そんなマーヤの視線を受けて大輝はさらに思考を加速させる。
(現代日本の治療法を考えてもダメだ。こういう時は基本に立ち返る・・・そうだ、まずは肺炎のメカニズムを思い出せ・・・確か、肺炎は肺胞に生じる炎症ということだったはず。そして肺胞は気管支が枝分かれした末端で酸素と二酸化炭素の入れ替えを行う器官だよな・・・)
自身が短期間とはいえ肺炎で入院した際に調べた内容を思い出す大輝。
(細菌性肺炎はその肺胞に微生物が侵入することで起こる。あ・・・エックス線検査で思い出したぞ。その侵入した微生物を身体の防御機構が撃退しようとした結果である炎症性細胞だとか滲出液が肺胞の中に溜まっているのを確かめる検査だ。)
なんとか治療の糸口を掴もうとする大輝が微かな糸に触れた瞬間だった。
(ん!?防御機構・・・そうか、その手があるか!・・・待てよ・・・確かオレたち人間の身体を守る防御機構は2段階式だったはず。一般的防御機構と特異的防御機構だ。ミッテル子爵の症状を考えるととっくに一般的防御機構は突破されて特定の異物に反応する特異的防御機構が働いているはず。でもそれでも追い付かないから炎症が拡大化してるんだ。それなら・・・)
大輝の考察は推論に過ぎない。国家資格である医師免許を持っている者ならこんな稚拙な推論を元に結論を出すことはないということは大輝も十分に承知しているが、ここは現代日本ではなく魔力という特殊な媒介が存在する世界である。上手く利用すれば現代医学さえ凌駕する結果を出せる可能性があるのだ。
「マーヤちゃん。」
脳内でのイメージが纏まった大輝はマーヤに声を掛ける。
「お兄ちゃん・・・」
苦しげな呼吸を繰り返しつつ眠る父ミッテルと大輝を交互に見ていたマーヤが小さな声で応える。
「治療魔法を掛ける前にお父さんに起きてもらいたいから声を掛けてもらえるかな?」
大輝はマーヤにミッテル子爵を起こしてもらうように頼む。治療魔法を掛けるにあたって効果を確認するために意識を取り戻してもらった方が都合が良いということもあるが、まずは挨拶をしておくべきだと思ったのだ。
「うん。わかったよ。」
マーヤとしても数か月ぶりの父との会話である。やや緊張しながら寝台で眠る父の枕元に手を掛ける。
「パパ。パパッ!起きて。マーヤだよ。」
最初は小声で、そして段々と声量を上げつつ父ミッテルの肩を揺するマーヤ。
「ん、んん。」
「パパ!」
ゆっくりと目を開ける父を見て思わず声が大きくなるマーヤ。その声で完全に意識が覚醒したのかミッテル子爵の目が大きく開かれ、青白い顔に笑みが差す。
「マーヤ。」
すぐに愛娘が枕元にいるのに気付いて名前を呼ぶが、その声は掠れており病に侵されていることを示していた。それでもマーヤにとっては数か月ぶりに父から名前を呼ばれたことで嬉しさと喜びに溢れた笑顔を見せる。
「うん、マーヤだよっ。パパの病気を治しに来たの。治すのは大輝お兄ちゃんだけどっ!」
マーヤにとっては大輝が治療魔法を掛けると言ったことで例え担当の治療魔法士が匙を投げても治る見込みがあると信じている。そんな愛娘の声にミッテル子爵がようやく周囲を見渡して知らない顔が1人と顔だけは見たことのある人物が1人いることに気付く。大輝とブランだ。だが、この場ではブランは一歩下がって見守ることに徹する。今はまだ国王直下の魔法士である自分は前に出るべきではないことを知っているからだ。代わりに大輝が前に出て挨拶をする。
「冒険者の大輝といいます。マーヤちゃんの護衛を請け負っています。そして同意頂ければ子爵の治療も担当します。」
大輝は簡潔に話す。ミッテル子爵の症状は重く、長時間話をするのは負担になるからだ。
「お兄ちゃんはね、すっごく強いんだよっ!マーヤたちが危ないときに助けてくれたし、剣だけじゃなく魔法も凄いんだからっ!」
マーヤがしばらくの間大輝の宣伝を続ける。フォレストディアを瞬殺したところから始まって、一緒に料理して満点の星空の下での露天風呂に入ったこと、洞窟を住居にして住んでいたこと、そして今朝城門前で警備隊を蹴散らしたことまでを機関銃のようにしゃべった。それをミッテル子爵も大輝も黙って聞いている。2人とも微笑みを浮かべつつ。ミッテル子爵は病に侵されつつも愛娘の近況を聞けて安堵していたし、大輝も久方ぶりの再会ということに興奮したマーヤが年相応の姿を見せていることを微笑ましく思っているのだ。だが、大輝は補足をしなければならない。警備隊を蹴散らしたことをマーヤがしゃべってしまったからだ。
「フュルト家が置かれている状況は今夜を境に変わります。すでに多くの人が動いてくれていますし、警備隊を蹴散らしたといっても大きな怪我は負わせていません。」
病人を心配させるわけにはいかないのだ。そのことに気付いたマーヤが反省の表情を浮かべるが、大輝が優しくその頭に手を置いて気にするなという意志を伝える。それを感じ取ったマーヤがにっこりと笑みを返す。2人の信頼関係を物語る姿を見たミッテル子爵は呼吸が苦しいにもかかわらず言葉を発する。
「どうやら娘が世話になってるようだね。ありがとう。」
ミッテル子爵は愛娘の話を聞いただけで大輝に礼を言ったわけではない。迂闊にもホーグ・ベルナー名誉子爵に嵌められたミッテル子爵だが、貴族としての洞察力が無いわけではないのだ。愛娘が兄と呼ぶほど信頼していることは2人の様子を見れば一目瞭然だし、なによりも一歩下がってはいるものの敬愛する国王陛下直下の魔法士隊の長であるブランが同席しているのだ。少なくとも悪意がある人物ではないという保証である。身元の保証さえあれば幼い愛娘が信頼している人物に信を置くことに戸惑いはなかった。
「それで私が同意すれば治療も担当してくれるというのかね?」
今夜で状況が変わると言われたフュルト子爵家の事に触れないのは任せるという意志の表れであった。
「はい。私の魔法は少々他の魔法士たちとは変わってますが。」
大輝もすでに始動している計画について語るような真似はしない。ここには部外者もいるし、ミッテル子爵には病に勝つことだけに専念して欲しいのだ。
「お兄ちゃんの魔法はすっごいんだよっ!『奇術士』って呼ばれるくらいなんだからっ」
一瞬ツッコミたい衝動に駆られる大輝。奇術士というのは凄い魔法士に付けられる称号ではない。単にこの世界で一般的ではない魔法の使い方を揶揄して付けられたというのが正解だからだ。その辺の自覚があるから自分でも少々変わってますと言ったばかりではあるのだが。
「私の体力が落ちていることは承知している。このままでは時間の問題だということも・・・だからと言っては失礼かもしれないが、大輝殿に全てお任せしよう。」
ミッテル子爵は死を覚悟していた。それでも病と戦って来たのは無実の訴えをヘッセン侯爵へ行わなければならないという使命感だ。代々続く子爵家であるフュルト家の名誉の為であり、まだ幼い愛娘の将来の為である。今夜を境に状況がどう変わるのかはわからないが、自分が死ねば愛娘が苦労を背負い込む事は確かであり、回復の可能性があるならばそれに賭けるつもりである。
「では早速治療魔法を掛けさせて頂きます。身体に変化を感じた際は出来るだけそれを声に出してください。」
ミッテル子爵の同意を得た大輝はマーヤに父の手を握るように伝えてすぐに先ほどイメージした治療魔法を脳内に描く。
「パパ。お兄ちゃんが治してくれるから安心していいからねっ!マーヤが手を握っててあげるから大丈夫だからねっ!」
まるで注射を怖がる子供を安心させようとする母親のような口調で語り掛けるマーヤとそれを嬉しそうに聞いているミッテル子爵。そこにイメージの構築を終えた大輝が魔力を込めて治療魔法を発動させる。より効果を高める為と自分の意志を込める為にキー詠唱を発声する大輝。
「防御機構!」
大輝から微量の魔力が発せられ、ゆっくりとミッテル子爵へと取り込まれていく。大輝はいきなり全開の魔法を発動させたわけではなかった。まるでミッテル子爵の体内を気配察知で探っていくかのような行使であった。そんな状態が数十秒続いた後に大輝の魔力が急激に吸い取られるかのような反応があった。そしてほぼ同時にミッテル子爵から異変を知らせる声が上がる。
「ん!?胸の辺りが暖かくなったような・・・」
声を上げたミッテル子爵の様子を窺っていた大輝は苦痛を感じたわけではないと判断した。大輝は吸い込まれる勢いに合わせるように送り込む魔力量を少しずつ増やしていく。
(おそらくだけど、ミッテル子爵の体内にある生体防御機構が活発化したからだ。つまり異物である細菌との戦いが始まったってことだ。子爵の身体に負担が掛からない程度まで後押しすることで免疫力が上がるはず・・・)
大輝が行っているのは抗菌薬の代わりに人間の持つ防御機構を活発化させて菌を死滅させる作業だ。ただ単に新陳代謝を促すよりは肺炎の元となっている特定の菌を攻撃する機能を強化させる方が効果的であると考えたからだ。そのために記憶層から脳内に知る限りの知識を引き出して細菌死滅までのプロセスを描いている。
(っぐ!また一段と消費魔力量が増えた・・・そうか胸膜の炎症も始まってるんだった。)
重症化寸前だったミッテル子爵の肺炎を治療するのはこの世界では不可能に近い。豊かではない医学知識を元にした拙い推測でそれを成そうとすれば相応の魔力が消費されて当然であった。だが、大輝は魔力が吸い出される感覚を得たことで手応えを感じていた。
(魔力が求められるということはミッテル子爵の身体が戦うことを求めている証拠だ。少なくとも異物たる微生物が存在していることが確認されたってことだからな。)
大輝が活発化させた特異的防御機構は皮膚や粘膜による異物侵入防御が破られた後に発動するものであり、それが活動エネルギーを求めているという事実は体内に重大な被害を及ぼす微生物が侵入していることを指す。それを排除出来れば完治というわけだ。
(とはいえ、1日では無理だな。魔力的にも厳しいけど、なによりもミッテル子爵の身体が保たないだろう。)
防御機構の活動は大輝の魔力が源になっているとはいえ、ミッテル子爵の体内では戦いが行われているのだ。戦場であるミッテル子爵の身体に負担が掛かって当然であった。そこでひとまず治療を打ち切る事に決めた大輝。ゆっくりと魔力を絞って治療魔法を終了させる。
「ミッテル子爵。今日のところはここまでにします。身体の方は異常ありませんか?」
「あ、ああ。胸の辺りが暖かくなっただけだと思ったが、どうやら全身に汗を掻いたようだ。」
見れば額に小さな汗の粒がびっしりと浮かんでおり、肌蹴た胸元にも同様に汗が光っていた。
「それに、少し身体が軽くなったような気がする。それに呼吸が楽に・・・」
自らの調子を確かめるミッテル子爵は徐々に驚きの表情へと変わっていった。この数週間取れなかった倦怠感が減少しており、苦しかった呼吸もだいぶ楽になっていることに気付いたからだ。
「どうやら効果があるようですね。ただ、この治療は子爵の体力と私の魔力の問題があるので数日間は続ける必要があると思います。」
大輝の素人医学の見立てでは、1週間もあれば完治とはいかないまでもベットからは卒業できる程度に回復すると思われた。それを聞いたマーヤがいつもの攻撃を加えに大輝へと飛び掛かった。
「お兄ちゃん大好き!」
幼女の大好き攻撃は破壊力抜群であった。




