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レゾナンス   作者: AQUINAS
プロローグ
1/145

第一話 異変

初投稿です。

 男は久々に乗る電車の中から、流れる風景を吊革に掴まりながらぼんやりと眺めていた。


 周りを見渡せば、子連れの母親や修学旅行っぽい関西弁の中学生らしき集団、ノートパソコンになにやら必死に打ち込んでいる会社員に高校生らしき4人組などありふれた光景が見られる。


「こんな風景を見るのも久しぶりだな」


 ついつい言葉に出してしまうこの男は、身長173センチ、体重57キロの細身の体型に完璧なまでにフィットしたスーツを着用している。見るものが見れば20代は後半に差し掛かろうという男が着るには似つかわしくない一品であることに気付くだろう。男自身が望んで身に着けているわけではないのだが。


「なんでこうなったんだろうな。」


 またしても声に出してしまった瞬間


「うわぁ!」

「あぶないっ」


 都心を周回する環状線を走行中の電車が急ブレーキを掛けたのだ。男も吊革に掴まってはいたものの、急なブレーキによって引き起こされた慣性には耐えきれず、思わず隣に立っていた女性の足を踏んでしまった。さらに、吊革に掴まっていなかった少年が転げるようにぶつかってきた。子連れの女性の内数人は膝をついてしまっていたし、小さい子供の多くは床に転がって泣き始めている。


「すいません、大丈夫ですか?」


「君も大丈夫?」


 いち早く体勢を整えた男が足を踏んでしまった女性に詫びの言葉を掛け、転がって来た少年に声を掛けたのを皮切りにあちこちで声が上がる。急ブレーキに悪態を吐く者、泣き出した子供の無事を確かめる者、ぶつかってきた相手を睨む者、様々な動きを見せる中、ようやく車内アナウンスが流れた。


「乗客の皆様にお知らせ致します。前方の踏切の警報機器より異常を感知致しましたため、緊急停止いたしました。お忙しい中大変申し訳ありませんが、安全が確認されるまで今しばらくお待ちください。」


 何人もの乗客が転倒するような急ブレーキを掛けた割にはあまりにも配慮のないアナウンスに少々苛立ちながら周りの状況を確認する。


 夕方のラッシュにはまだ早い時間帯であることが幸いしてか乗客の人数がそれほど多くなかったため、座席に座れずに立っていて転倒した人数はあまり多くない。ざっと見渡した感じだと、子供数人が肘や膝に軽く痣を作った程度のようだ。ほっと一安心したところで、


「ふざけるなよ、おい!」


 男からほんの数メートル離れたドア付近から声が上がった。


「おいおい。人にぶつかっておいて舐めた態度とりやがって。」


「そうだぞ、ガキどもが!礼儀がなってねえんだよ!」


 どうやら、先ほどの急ブレーキで高校生らしき4人組の中の誰かが30代半ばの顔立ちの似た男二人組にぶつかってトラブルになっているらしい。


(うわぁ、なんか面倒なことになりそう・・・)


 周りを見渡すと、すでに他の乗客は野次馬になるのではなく、全力で視線を逸らしている。そして、周囲から急速に人が散っていく。


(まあ、そうだよな。どう見てもあの2人組、堅気っぽくないもん。)

 

 男が呑気にそんなことを考えてる間にも、2人組の男達は高校生に食って掛かっている。すでに2人の女子高生は涙目だ。2人の男子高校生は若干足は震えているようだが、勇敢にも女性を庇うように男と対峙している。


(おぉ~!男の子がんばれ~!)


 完全に観戦気分の男は生暖かい視線をトラブル真っ最中の集団に向ける。


 男としては、あの手の男達程度の恫喝では恐怖を感じることはない。世間の常識からすれば、それは完全に男の感覚がおかしいのだが、当の本人にその意識はない。


「あ、あの、すいませんでした。」


 ぺこん!という擬音が付きそうな勢いで頭を下げる黒髪セミロングの女の子。どうみても中学生くらいにしか見えない華奢な身体を思いきり90度、いやそれ以上に傾けて頭を下げている。


七海(ななみ)・・・」


 頭を下げたままの少女へ振り返る少年たち。


「わ、悪かったわ。」


 その声にかぶせるように少し頭を下げたのはショートカットの髪を茶色に染めたやや身長の高い少女。華奢な少女に比べるとその謝罪の言葉はかなりぶっきらぼうに聞こえる。強面(こわもて)の男2人組に凄まれている中で精一杯の虚勢を張っているのが見て取れる。


「おい、それが目上の者に対する謝罪の仕方かよ?」


「それに!さっきから言ってるだろ!謝ってそれでおしまいってわけか? え?」


 どうやら男達は謝罪の言葉だけで引くつもりはないようだ。


「七海も志帆(しほ)もちゃんと謝ったろ!」


「電車の急ブレーキが原因なんだから、謝っただけで十分だろ!」


 爽やかなイケメン風の少年と大柄な少年が男達に言い返す。足は若干震えているように見えるが。


 そして、時間が経つに連れて段々とヒートアップする強面の男達に比べ、少年2人は段々と声が小さくなり、助けを求めるように周りに視線を投げかけている。当然、周囲から人が離れて行った後のため、最も近い位置にポツンと立っているその男へと援軍要請というか、救助要請の視線が固定される。


(仕方ないよな。ああいう連中に絡まれたら普通は委縮するよなぁ~)


(まあ、オレの場合は必要に迫られて中学生の頃には対応できるようになっちゃったけど・・・)


 生暖かい目で言い争いを見ていた男の目が、さてどうしようか、と仲裁の方法を考え始めたその瞬間




 ドオーン!



 突如耳を劈く(つんざ)ような爆発音が響き渡り、真っ白な光に視界が遮られる。


 男が爆発音と光に思考を打ち切り、何が起きたか確認しようとしたとき、身体がふっと軽くなるのを感じた。


(爆発?いや、違うな。爆発なら視界が真白に染まることはない。閃光弾?それも違うか。)


 普通ならパニックになるような轟音と目を焼くような光に包まれているにも関わらず男はその場を動かずにいる。いや、動くべきだ!と本能が訴えかけているのだが身体が思うように動かないのだ。


(なにが起こってる?久々に単独で外出したオレを狙うにしてもこれはおかしい。)


 幼い頃から何度も誘拐目的に狙われている男だったが、治安のよい日本国内で、電車内で爆発物を使用するのはリスクが大きすぎるし、いつまで経っても真っ白な光が消えないのもおかしい。きわめつけは、身体が宙に浮いたまま(・・・・・・)だ、ということだ。


 最初は爆発で吹き飛ばされたか、立っている感触がないことから神経系がやられたのかとも考えたが、どうも身体に異常は感じられない。真っ白な光によっていまだに視力は戻らないが、手足の指は男の指令に従ってしっかりと動かせる。


(どういうことだ・・・)


 さらにおかしいのは、最初の爆発音以外一切物音がしないのだ。これだけのことが起これば、悲鳴やら逃げる足音が聞こえるはずなのに、だ。


 考えても考えても答えが見つからない中、どれだけの時間が経っただろうか。


 物音が聞こえないのも、身体が動かないのも、視界が真っ白なのも変わらない。


 そして電車内にいたはずなのにも係わらず、急速に落下する感覚を覚える。そう、まるでバンジージャンプやスカイダイビングで飛び降りた時のように。

 

 そして、意識が薄れていくのを感じ、そのまま意識を手放した。


 

 

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