魔法のつばさと砂漠のばら
― 魔法のつばさと砂漠のばら ―
ある湖の国に、ひとりの王女がいました。
王女の住んでいる湖の国はとても美しく、すごしやすく、世界中の人があこがれる国でした。
そして王女は世界中の宝物を持っていました。
そんなに豊かなくらしをしているのに、王女はいつも何かがたりないと思っていました。
そしていつもふきげんでした。
王様は、王女を満足させるような、めずらしい物を持って来た者に、
たくさんのほうびを出そうとおふれを出しました。
4人の商人がやってきました。
一人目は、北の国の商人です。
寒い北の国でいちばん大切なトナカイの毛皮を持ってきたのです。
なめらかな美しい毛皮にも、王女はまるで興味がないようです。
二人目は、南の島の商人です。
南の島で取れるヤシの実の中で、いちばん大きくて立派なものを持ってきたのです。
しかし、王女にはきたない木の実としか思えません。
三人目は、かわいた暑い国からやってきた商人です。
何もない砂漠ばかりの国からやってきた商人は、『砂漠のばら』とよばれる石を持ってきました。
それは花も育たない砂漠に、まるでばらの花が咲いたように見える石でした。
しかし、王女にはただの石ころにしか見えません。
ばかにされたとおこった王女は、その石をなげすててしまいました。
四人目は、世界中を旅しているという商人でした。
商人は、七色の大きなつばさをさし出して言いました。
「これは千羽の鳥の羽で作った魔法のつばさです。
これを背中につければ、願った場所に飛んでいくことができるのですよ」
美しいつばさと商人の話に、王女ははじめて興味を持ちました。
しかしそのとき、王様のつかいがあわててやってきて、言いました。
「その者は商人ではありません。あやしい魔法つかいです」
正体を知られて、魔法つかいはあわてて逃げていきました。
王女は、魔法つかいの残していったつばさが気に入って、大切に持っていました。
王女がうれしそうにしているのを見て、王様はそのつばさをとりあげることはできませんでした。
王女がつばさを背中に当てると、
まるで王女の背中にはじめから生えていたように、ぴったりとくっつきました。
王女は願いました。
「どこまでも広くて、見たこともない美しい場所につれていって」
すると、つばさが大きくはばたいて、王女の体がふわっとうかびました。
王女はまどからとび出して、空高くまい上がり、どこへともなく飛んでいきました。
やがて、たどりついたのは、一面真っ白な、広い広い雪原でした。
空には七色のオーロラがかがやいて、とてもきれいです。
しかし王女は、すぐにこごえて動けなくなってしまいました。
通りかかった北の国の民が、トナカイの毛皮をなんまいもかけて、王女の身体をあたためてくれました。
気がついた王女は、あわてて願いました。
「今度はあたたかい場所につれて行って」
つばさがはばたいて、王女はまた空高くとび上がりました。
そしており立ったのは、南の島でした。
広い青い海に囲まれて、大きなヤシの木がたくさんしげっています。
王女はあたたかくて美しいその島が気に入りました。
しかし、だんだんと空が暗くなり、とつぜん大雨がふり出しました。
強い風が吹き荒れ、大波がおそってきました。
波にのまれておぼれそうになった王女に、サルたちが木の上から大きなヤシの実をなげてくれました。
王女はヤシの実につかまって、波の中をただよいました。
そして、必死に願いました。
「水のない場所へ!」
つばさがはばたいて、王女をまったく水のない砂漠につれていきました。
あまりの暑さに、王女が帰りたいと思ったとき、どこからかあの魔法つかいがあらわれたのです。
魔法つかいは王女の背中のつばさをとりあげてしまいました。
そして不気味な笑い声を残して消えてしまいました。
砂漠にとり残された王女はそのまま気をうしなってしまいました。
気づくと王女は、せまいテントの中にねていました。
テントの中も暑いのですが、砂漠の中の暑さとはまったくちがいます。
だれかが王女の体をささえて水を飲ませてくれました。
王女はこんなにおいしい水を飲んだことはないと思いました。
王女をたすけてくれたのは、まえにお城に『砂漠のばら』を持ってきたわかい商人でした。
王女が元気になると、商人はあらためて王女に『砂漠のばら』をおくりました。
花も木もない砂ばかりの国では、その石はとても美しい花に見えました。
やがて王女は商人と結婚し、世界を旅してまわりました。
王女はもう、きれいなドレスも宝石も持っていません。
りっぱな宮殿でくらすことも、ぜいたくなごちそうを食べることもありません。
けれど王女は、いままでよりずっとずっと幸せにくらしました。
(おわり)