表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

やまゆりえほん館

魔法のつばさと砂漠のばら

作者: yamayuri

― 魔法のつばさと砂漠のばら ―



ある湖の国に、ひとりの王女がいました。


王女の住んでいる湖の国はとても美しく、すごしやすく、世界中の人があこがれる国でした。

そして王女は世界中の宝物を持っていました。

そんなに豊かなくらしをしているのに、王女はいつも何かがたりないと思っていました。

そしていつもふきげんでした。


王様は、王女を満足させるような、めずらしい物を持って来た者に、

たくさんのほうびを出そうとおふれを出しました。



挿絵(By みてみん)



4人の商人がやってきました。


一人目は、北の国の商人です。

寒い北の国でいちばん大切なトナカイの毛皮を持ってきたのです。

なめらかな美しい毛皮にも、王女はまるで興味がないようです。


二人目は、南の島の商人です。

南の島で取れるヤシの実の中で、いちばん大きくて立派なものを持ってきたのです。

しかし、王女にはきたない木の実としか思えません。


三人目は、かわいた暑い国からやってきた商人です。

何もない砂漠ばかりの国からやってきた商人は、『砂漠のばら』とよばれる石を持ってきました。

それは花も育たない砂漠に、まるでばらの花が咲いたように見える石でした。

しかし、王女にはただの石ころにしか見えません。

ばかにされたとおこった王女は、その石をなげすててしまいました。



挿絵(By みてみん)



四人目は、世界中を旅しているという商人でした。

商人は、七色の大きなつばさをさし出して言いました。


「これは千羽の鳥の羽で作った魔法のつばさです。

これを背中につければ、願った場所に飛んでいくことができるのですよ」


美しいつばさと商人の話に、王女ははじめて興味を持ちました。


しかしそのとき、王様のつかいがあわててやってきて、言いました。


「その者は商人ではありません。あやしい魔法つかいです」


正体を知られて、魔法つかいはあわてて逃げていきました。




王女は、魔法つかいの残していったつばさが気に入って、大切に持っていました。

王女がうれしそうにしているのを見て、王様はそのつばさをとりあげることはできませんでした。




王女がつばさを背中に当てると、

まるで王女の背中にはじめから生えていたように、ぴったりとくっつきました。

王女は願いました。


「どこまでも広くて、見たこともない美しい場所につれていって」


すると、つばさが大きくはばたいて、王女の体がふわっとうかびました。

王女はまどからとび出して、空高くまい上がり、どこへともなく飛んでいきました。



挿絵(By みてみん)



やがて、たどりついたのは、一面真っ白な、広い広い雪原でした。

空には七色のオーロラがかがやいて、とてもきれいです。

しかし王女は、すぐにこごえて動けなくなってしまいました。

通りかかった北の国の民が、トナカイの毛皮をなんまいもかけて、王女の身体をあたためてくれました。

気がついた王女は、あわてて願いました。


「今度はあたたかい場所につれて行って」


つばさがはばたいて、王女はまた空高くとび上がりました。

そしており立ったのは、南の島でした。

広い青い海に囲まれて、大きなヤシの木がたくさんしげっています。

王女はあたたかくて美しいその島が気に入りました。

しかし、だんだんと空が暗くなり、とつぜん大雨がふり出しました。

強い風が吹き荒れ、大波がおそってきました。

波にのまれておぼれそうになった王女に、サルたちが木の上から大きなヤシの実をなげてくれました。

王女はヤシの実につかまって、波の中をただよいました。

そして、必死に願いました。


「水のない場所へ!」


つばさがはばたいて、王女をまったく水のない砂漠につれていきました。

あまりの暑さに、王女が帰りたいと思ったとき、どこからかあの魔法つかいがあらわれたのです。

魔法つかいは王女の背中のつばさをとりあげてしまいました。

そして不気味な笑い声を残して消えてしまいました。


砂漠にとり残された王女はそのまま気をうしなってしまいました。



気づくと王女は、せまいテントの中にねていました。

テントの中も暑いのですが、砂漠の中の暑さとはまったくちがいます。

だれかが王女の体をささえて水を飲ませてくれました。

王女はこんなにおいしい水を飲んだことはないと思いました。


王女をたすけてくれたのは、まえにお城に『砂漠のばら』を持ってきたわかい商人でした。


王女が元気になると、商人はあらためて王女に『砂漠のばら』をおくりました。

花も木もない砂ばかりの国では、その石はとても美しい花に見えました。



挿絵(By みてみん)



やがて王女は商人と結婚し、世界を旅してまわりました。

王女はもう、きれいなドレスも宝石も持っていません。

りっぱな宮殿でくらすことも、ぜいたくなごちそうを食べることもありません。


けれど王女は、いままでよりずっとずっと幸せにくらしました。



                        (おわり)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 物語も挿絵も素敵でした。 yamayuri様の描かれるイラストが好きです。 [気になる点] ”願いをかなえる魔法の翼”を読むと、こちらの物語の背景がわかってとても満足度が高かったです。 こ…
[良い点] ・どこか『アラビアンナイト』を思わせる、美しい童話風のファンタジーですね! 物語の童話のような雰囲気を壊さないよう、文章中の言葉選びにも気を遣っておられて、すごく丁寧につくられたお話だな、…
[一言] 思わずうまい!と唸ってしまいました。 物の価値はそれを必要とする者にとってこそ価値があるということなのでしょうか。 それを短いお話の中でよどみなく展開させていく構成力が素晴らしいです。 挿絵…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ