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祓い屋  作者: 近野梨華
第1章 夢魔
3/3

夢魔 2

 朝、こっぴどく祖父に叱られ、暁人と2人で気分が沈みながら学校に登校した。2人で登校というのも沈んでいる原因の1つだが。


「あんたのせいでおじい様に怒られたじゃないの」


「知らねえよ。万白がケーキを隠してるのが悪いんだろ」


「だから隠してないって言ってるでしょ! 気軽に名前で呼ばないで!」


 ぶつくさ言い合いながら歩いていると、


「あら、今日は遅いじゃないの」


 目の前に急に月菜が現れた。驚いて辺りを見ると、そこはもう月菜の家の前だった。


 暁人が家に来てからも月菜とは一緒に学校に行くようにしている。何しろ暁人は、転校初日に人だかりを作ってしまうようなイケメン。この学校に来てまだ1週間しか経っていないはずなのにファンクラブが設立されてしまうくらいだ。どこの少女マンガの世界かと思うが、実際に体験してみるとあまり笑えない。暁人もかなりうんざりしているのが分かる。

 まだ同じ家に住んでいることはばれていないが、毎日二人で登校はあまりに不自然なので月菜に付き合ってもらっているのだ。


 閑話休題


「ところで、何で暁人君は万白の家に居候しているの?」


 質問に私と暁人が一瞬立ち止まる。2人一緒に立ち止まったら逆に不自然だが、この光景も見慣れたものだ。この1週間、すきがあれば月菜はこの質問をしてくる。いい加減慣れてもいいものだが、質問をしてくるタイミングが絶妙で、毎回同じ反応をしてしまうのだ。

 まあ、何かにつけ私を小馬鹿にしてくる暁人が月菜に惑わされているのは見ててすっきりするので一向に構わないのだが。


「ねえ、やっぱ何か隠し事しているでしょ」


 月菜がいかにも不満そうな顔でこちらを見てくる。これもかなり聞いている言葉だ。最初に比べるとだいぶ呆れが入ってはいるが。


「あのな、何回言ったら分かるんだ。俺と真白の親が知り合いで、俺の親が海外に行くからその間居候するって。そろそろ納得しろよな」


 この返しも。


「そのわりにはすごくわざとらしいんだけど」


 この返――省略。


「そんなことはないぞ」


「表情が動かないところは万白より暁人君のほうが上ね」


 お、これは新しい。


「俺を真白みたいな鈍感と一緒にするな」


「新しい返しだと思って聞いてれば結局私の悪口になるのね!」


 暁人と月菜、意外と気が合うのではないだろうか。

 二人とも人目を引く容姿をしてるんだし、と自虐的に考えた心に走った痛みの原因は結局分からなかった。



   ***



 今は数学の授業中。

 昼ご飯の後の至福のひと時。クラスで何人もの人が机に沈んでいく中、私も吸い込まれるように机に突っ伏した。


「ここは……」


 気が付くと知らない場所にいた。

 夢特有のフワフワした居心地。いつもの夢なら気持ち良いのに今はとても気分が悪い。


「これ、夢だよね……」


 夢にしては周りがおとなしすぎる気がする。大抵の場合は人や動物など、とりあえず生き物が出てきて何かをするのだが、霧しかないというのはどうも寂しい。

 自分で夢と分かる夢――明晰夢を見ることは良くあるのだが、大体にして授業中にこんなにはっきり夢を見るほど寝ることがあるのだろうか。


「これはもしかして……」


 ――夢魔(ゆま)の仕業かもしれない。


 夢魔(ゆま)とは怪異の一種。

 怪異とは妖怪や悪魔などの総称である。


 それら、人に害をなす存在を祓うのが『祓い屋』、私たちの仕事だ。


 祓い屋とは、それぞれの地域にある神社を中心に霊感の強い人がボランティアとして参加している団体のことだ。難しそうに聞こえるが、仕事内容は漫画でみる陰陽師そのもの。

 しかし、霊感は遺伝が大きく関係しているらしく、実際のところ祓い屋は神社の関係者が多い。昔から神社を経営している一家の一員である私もその一人だ。


 祓い屋には専用のホームページが存在する。一般の人から怪異の情報をもらい、一番近くにいる祓い屋が対応する形をとっている。が、最近は怪異の存在自体がメジャーなものではなくなっているので、ホームページがただの悩み相談所と化してしまっている。それは裏方が選別をして、怪異が原因の可能性が高い案件だけを現場の人間に渡してくる仕組みになっている。


 暁人が私の家にいるのも祓い屋の関係だ。基本的に祓い屋の仕事は二人一組のペアでする決まりになっている。私にはペアがいなかったので、お互いにペアが決まっていない同じ年の暁人が選ばれたというわけだ。


「今は武器、何も持ってないんだけどな……」


 しかし、いかに怪異のエキスパートである祓い屋と言えども武器がなければ普通の人と同じ。下手をすると霊感があり敏感な分、たちが悪いかもしれない。

 祓い屋は一人一人自分に合った武器を持っていて、刀だったり弓矢だったり、個性が表れるポイントだ。ちなみに私は真言が書かれている扇子を使っている。扇子と言っても鉄で出来ている所謂鉄扇だが。


 しばらく動かずにその場で立っていると急激に視界が広がった。何が待っているのかと身構えると、そこにいたのは知らない公園で知らない女子高生と話しているクラスメイトだった。


「――――――っ」


 知った顔に思わず名前を呼びたくなる衝動に駆られるが、必死に自分を止める。クラスメイトと一緒にいる女子が元凶の夢魔だろう状況で、本名を明かすことは非常に良くない。

 名前には強い力がある。安易に知られてはいけないのだ。

 どうにかして夢魔からクラスメイトを引きはがそうと後ろから静かに近づ


 パキッ


 ――ベタなアニメじゃないんだから木の枝踏むのやめようよ!


 私は意図せず夢魔が作り出した空間から追い出される結果になった。



   ***



「悠美!」


 意識が現実に戻されたと感じた瞬間、授業中だということも忘れて反射的に叫んだ。


 クラスのメンバーが私を振り向くより先に、夢の中にいたクラスメイト――男鹿悠美が椅子からくずれ落ちた。

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