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捨てられた王子たちと冷たい夏  作者: ふたぎ おっと
第1章 遥かな銀河の彼方から
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7.仲直らない

7.仲直らない



 うん……?


 前に移動しようとしたら固い何かに当たった。

 後ろに下がろうとしたら、これまた固いものに当たった。

 そもそも上から身体を押さえつけるのが二本あって、思うように身動きも出来ない。


 一体何なんだとまどろみの中で思いながら目を開けた。

 そして目に飛び込んできたものに私は、



「きゃああああああああああああああああ!!!!」



 ――悲鳴を上げた。





「おいっ待て! 落ち着け!」

「ほら梅乃ちゃん、冷静に話し合おうよ。ね?」

「これが落ち着いていられるか!!」


 私はベッドと対極にある壁に張り付いて、次から次へとベッドに向かって物を投げつけた。しかし勢いよく投げつけた物たちは、途中で勢いをなくしふわっと床に着地させられる。

 それはもちろん、今ベッドにいる二人の魔神、カリムとアサドの仕業だ。


「だ……っ大体あんた達何でここにいるのよ。しかも一緒にべ……っベッドに入ってたなんて……!!」

「落ち着け! 安心しろ、一緒に寝ていただけだ」

「うん、今日も可愛い寝顔だったよ」

「なんっ……!!」


 問題ありまくりだろ!!

 起きたら前後をこいつらに挟まれているとか!!

 しかも二人とも上裸とか! いや、普段から裸のような格好だけどさ!!


「はぁ、こうでもしないとお前、まともに話してくれないだろう?」

「……え?」


 そう言うカリムの声が聞こえてきて、私は物を投げる手を下ろした。

 見ればカリムはどこか情けなさそうな表情をしている。

 するとその隣でアサドが肩をすくめた。


「もう、心配したよー。夕べクリスから、梅乃ちゃんが帰らないって聞いてさ。しかも元気ない様子だったとか。そこまでボクたち嫌われたのかなって」


 いつもニヤニヤ愉快顔のアサドが、どことなく弱々しい口調だ。カリムの困ったような表情も合わせて、ここ最近の私の態度を二人がどれだけ気にしていたのかが伺える。それどころか、私に嫌われていると思わせてしまっていたのか。

 それもこれも、私が過剰に意識しすぎてしまっていたことが原因なのに、なんだか申し訳なくなってくる。


 だけどそんな罪悪感も、次のアサドの一言に掻き消されてしまう。


「ボクたち、梅乃ちゃんに嫌われちゃったら、行くアテなくなっちゃうんだよね。こんな美貌の外人8人が家無き子なんて笑えないじゃない?」

「……は?」

「確かにご主人様に捨てられるなんてことがあったら、俺らもお役ご免になっちまうしな」

「その原因はカリムなんだけどね」


 まるで世間話をするかのように言い合う魔神二人。

 えーと? つまり、こっちで生活するための家、というか空間が必要だから、私とより良い関係でいたいということ?


 なんとなく釈然としないでいると、更にカリムが続けてきた。



「だからさ梅乃、先週のことはなかったことにしよう」



「……え?」

「先週のこと、本当に悪かったと思っている。お前は正常じゃなかった。全部俺が悪いんだ」

「え……いや、私も――」

「だが、いつまでもあんなこと引きずってみんなと気まずい状態でいるのはよくない。だからお前はなかったことにすればいい。そうすれば気が楽だろう?」


 カリムが琥珀色の瞳を悩ましげに細めたのは一瞬、すぐにいつもの表情に戻して言ってきた。本当に何でもないような表情で。



「……うん、そうだね。忘れよ忘れよ!」



 思わず下がりそうになったトーンをなるべく高めてそう言えば、ベッドの方からあからさまな安堵の声が聞こえてきた。


「はぁーそれにしてもねーみぃ。俺、もう一眠りしてくるわ」


 カリムは大きなあくびをしながらそう言うと、用は済んだとばかりに手を振りながら私の部屋から出ていった。非常にあっさりとした様子で。


 なに、そういうこと。

 なんだか急に頭が冷めてきた。

 確かに私も先週のことを意識せずに済むならその方がいい。

 だけどそれはカリムにとっては“あんなこと”で、なかったことになるの?



 あんなに気にしていたのは私だけ?



「あんなのもう忘れちゃいなよ」

「――っ!!」


 呆然と黙り込んでいたら、いつの間に移動したのか、突然背後からアサドが囁いてきた。

 この状況やばいと思ったときには既に肩にアサドの頭があって、一瞬のうちに首筋をぺろりと舐められた。


「ちょっとアサド! からかわないでってば!!」


 ビクリと震える身体を叱咤しつつそのでかい図体を押しやってアサドを睨み付ければ、アサドはびっくりするくらい無表情な顔をしていた。



 だけどそれもほんの一瞬で、アサドはいつものニヤニヤ愉快顔を見せてきた。


「そろそろ用意した方がいいんじゃないかな?」


 アサドはにこやかにそう言うと、颯爽と部屋を出ていった。

 お前が言うかと心の内で思ったけれど、確かに時計は既に7時を過ぎている。早く用意しないとやばい。


 私はバスルームに駆け込む前に、もう一度部屋の入り口の方を見た。


 なんか無理矢理解決させられたような気がして釈然としない。

 その上、なんだか考えるのもアホらしくなってきた。


 なんとなくムカムカする気持ちを抑えて、私はバスルームに入った。







 シャワー浴びてお化粧して学校行く用意を済ませたら、いつの間にかもう8時。


 そういえば夕べあのまま学校で寝てしまった後、どうやって家に帰ったのか分からない。恭介が送ってくれたのか、もしくは魔神共が迎えに来たのか。

 前者だとすると恭介にこの部屋を見られたのかと内心ヒヤリとするけれど、今朝一緒に寝ていたくらいだしおそらく後者の方が妥当だと思える。


 どちらにしても恭介には悪いことしたなと思いながら廊下に出れば、ちょうどフリードが松葉杖をついて玄関から出ていくのが見えた。


 そうだ。フリードのことも何とかしないと。


 夕べの恭介の話じゃ、フリードは私に怒っていないはずだ。

 なんせ、男心で私に八つ当たりしているらしいし。

 話せばきっと分かってくれるよね?


 そう思って私はフリードの後を追うことにした。



「フリード! 待って、私も一緒に学校行く!」


 追いついたときには既にフリードはマンションから50メートル先のところにいた。

 声をかければ、案外すんなりと立ち止まってくれた。


「……何で?」


 フリードは振り向きざまにそう言う。

 やっぱりどこか怒り気味だ。

 エメラルド色の瞳が私を睨み付けている。


「何でって、私、フリードと話がしたいから……」


 少し気圧され気味にそう言えば、フリードはふんっと鼻を鳴らして、再び先を進む。


「ねぇちょっとフリード?」

「僕は話すことなんかない。話がしたいなら他を当たりなよ」

「いや、そういうことじゃなくって!」


 まるでとりつく島もない感じだ。

 話も聞いてくれないなんて。

 やっぱり八つ当たりなんかじゃなくて、私に怒っているんじゃないの?


 するとフリードが前を歩きながら更にぼそっと呟いた。


「どうせ朝からアサドやカリムたちといちゃついてたんでしょ? 僕に構わないでそっちと楽しめば?」


 そう言った瞬間、フリードの肩が一瞬揺れたのが分かった。

 私も「ん?」と思った。


「何でここであの二人が出てくるの?」

「うるさい! とにかく僕は先に行く!」


 またもやフリードはつんとした様子で先に歩いていってしまう。

 一刻も早く私から逃れたいのか、松葉杖をつく幅が大きくなっている。

 すかさず私は追いかける。


「ねぇフリード。私どうしたらいい?」

「……どうしたらって?」

「どうしたら許してくれるの?」


 すると、フリードは急に立ち止まってこちらを振り向いた。

 相変わらず眉間にしわが寄っている。


「フリードが私に怒るのも分かってるの。お節介だし向こう見ずな行動しまくりだし。だけどそれは私の気質だから治すにしても反省とか今後気をつけるくらいしか出来ないじゃない? 他に私はどうしたらいい?」


 もしかするとフリードに許してもらいたいなんて思っていること自体間違いなのかもしれないし、本当は私の顔も見たくないのかもしれない。

 だけど私はこのままでいたくない。


 前みたいに仲良くしたいよ。

 そんな思いを込めてまっすぐにフリードを見つめる。


 フリードは私から視線を外し苦しげに顔を歪め、そして口を開いた。



「別に僕は――……っ!?」



 すると突然視界からフリードが消えた。

 というよりは、いきなりフリードが倒れ込んだ!?


 見ればフリードの身体に覆い被さる謎の物体があった。

 それはコテコテの緑色のドレスにアプリコット色の髪……ってこれ、人!?

 ドレスから伸びた白い腕が、フリードの首に巻き付いている。


 一体どういうことなの!?


「いったた。何なの一体……って君は……!!」


 苦しげにフリードが上体を起こせば、抱きついているその人を見てフリードが目を見開いた。

 その人ももぞりとフリードから身体を離す。


 そしてフリードを見上げて言った。



「やぁっと見つけましたわ――フリードリヒ・ヘッセン・フォン・ヴィルト殿下」



 え、え?

 どういうこと?

 見つけたって、ヴィルト殿下って……。


「ふ、フリード……その人、誰?」


 呆然とそう尋ねれば、フリードはそのままの状態ではぁとため息を吐いて視線を逸らしてきた。

 答えないフリードの代わりに、その人がフリードに抱きついたまま私に顔を向けてきた。



「ご挨拶が遅れましたわ。わたくしはシャルロッテ・ドローテア・フォン・フィーマン。フリードリヒ様の婚約者ですの」



 見た感じ高校生くらいに見えるその人は、肩口まであるアプリコット色の髪を優雅に揺らし、フリードと同じエメラルド色の瞳をまっすぐにこちらに向けて言い放った。


 「今はもう違うけどね」なんてフリードが小声で呟いたけれど、え、え、え、一体どういうこと――!?





次回は明後日になるかもです

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