私は頭が良くありません
私は頭が良くありません。
結構これでも、勉強はちゃんと頑張っているんですよ?
ですが、結果を伴わないんですよね。
と言うのも、試験を受けるといつも点数はかなり低く、順位は最下位になることが多いんですよね。
せめて、どこが間違っているのか分かれば間違えて覚えていた所が分かって再度そこだけ覚えなおすことも出来るのですが、学校側は、
「間違えた所だけ覚えなおすのは勉強じゃない。全部正しく理解し直しなさい」
と言うだけで、何がいけないのかもわからないんですよね。
普段質問に行っても、
「何でも質問するのはやめなさい。自分で考えて覚えてこそ意味がある。そういう考えだから試験の成績が悪いんだ」
そう言われてしまうだけなんです。
私以外の方の質問には答えてくれているようなのですが、質問する資格すらないほど成績が悪いと見なされてしまっているのでしょうね。
仕方ないので授業の予習復習のみならず、図書館の蔵書もしっかり読んで理論をしっかり把握し魔法の実技も繰り返し行います。
実技の中で理論がわかることもあると言いますので、間違った理論を覚えているということであるならば異なった効果が発動する筈です。
そうであるにも拘らず、理論通りの発動しかしないのが不思議で仕方ないんです。
もしかすると、文字を間違えて覚えている可能性も視野に入れて全力で間違いがないように点検しているのですが……どこを間違えているのかまったくと言っていいほどわからないんですよね。
やはり、私の頭が悪いことが原因でしょうか?
「流石は、ミドリーヌ様。今回も満点なうえに、独自の解釈をされるレポートは素晴らしいです。レモンド初代侯爵の再来と言われるだけはありますな」
優等生であるレモンド侯爵令嬢ミドリーヌ様が誉めたたえられています。
彼女はあまりにも理論の成績が優秀なため、実技の授業が免除されていますが、羨ましいと言うより雲の上の人でしょうか。
私も実技ならばかなり自信があるのですが、成績は理論の試験のみが対象ですから、劣等生でありつづけてしまいます。
何がいけないんでしょううか?
そんなある日、宮廷魔術師団の方達が、教育の状況を確認するということで視察に来られました。
優等生であるミドリーヌ様と、劣等生である私と話すことで、どのような教育を行うのが一番なのかと確認されるのだそうです。
まずは実技を見せてほしいと言われました。
いくら劣等生の私とはいえ、全力を見せる必要はあるかと思います。
たとえこれから改善されたとしても、何もできなかったと思われてしまっては卒業後の進路に影響が出かねませんし。
基本的な魔法を構成をすべて展開し、少し自分流にアレンジを加え安定さを増し、それでいて効果や時間はほぼ普通の魔法とは変わらないということを実際に見せてみます。
普段実技を免除されているミドリーヌ様と比較したら、幼児のお遊びにしか見えないかもしれませんが、少しでもマシに見せたいですよね。
「……」
魔術師団の方々は、皆様無言になられています。
顔面蒼白になられている方もいますが、もしかするとここまで低いレベルとは夢にも思っていなかったということでしょうか?
私の成績を知っている筈の学校の先生方も驚愕の表情を浮かべ、完全に無言になっています。
ここまで実技もダメだとは思っていなかったということでしょうか。
これは、次の学年に行けないかもしれませんね。
「彼女がレモンド侯爵令嬢かね? それにしても……」
「いえ、彼女は、ソクランジェ騎士爵の娘、スノウです」
「なんじゃと? 劣等生でもこれだけのことが出来るとは、この学園は儂が見ていない間に遥かに高みまでのぼってしまったのじゃろうか?」
宮廷魔術師団の方が言われているのを聞くと、劣等生でもそれなりのレベルになっているということのようですね。
でも、試験ではいつもほとんど全部間違っているとされていることを考えますと、ちょっと不思議にも思えますが。
「何がすごかったんでしょうか? 魔術師長の言われることはよくわかりません」
「貴殿、確か彼女の担任だった筈だが……貴殿がそこまで言うとは、儂らがいつの間にか時代遅れになっていたのか」
ああ、先生からすれば当たり前のレベルでしかなかったのですか。
まあ、私が劣等生であることを考えれば当然ですね。
「でもこうなると、優等生であるレモンド侯爵令嬢の実技が楽しみだ。劣等生ですらこれだけの高等魔法技術を危なげもなく披露してくれるのだ。優等生となればいかほどのことか」
「はい? 高等魔法? スノウは基本魔法を使っていただけですよね?」
「お主まさか」
「……団長様、申しわけございませぬ」
「教師でありながら、あの魔法のすごさを理解できてなかっただけなのか? いくらなんでもそれはなかろう。見た目こそ基本魔法ではあるが、行われていたことは宮廷魔術師団に今すぐにでも入団してもらいたいほどの高等技術を複数使っていたと言うのに。中には、儂ですら見たことがない技術もあったぞ」
「へ?」
何か話がおかしな方向に傾いています。
「すみません、今使ったものって、高等技術なんですか?」
「……貴殿が使ったものは、学校で習うようなレベルではないと思っていたのだが。まさか、自覚なかったのか?」
「いえ、普通に覚えて普通に答えを書いても間違いだとされることを続けて来ました。どこが間違いなのかを教えて下さいと言っても、間違った所だけを覚えるのは勉強とは言わないと言われたのですが、どこを間違えているのか分からずに、いろいろ調べたりして来たんです。でも、成績はいつまで経っても上がらずに。授業の中身はわかるつもりなのに、試験で間違えると言うからには、もっと詳しく掘り下げるしかないのだと考えて、いろいろ試してきました。その過程で辿りついたものにしかすぎません。正解になるにはもっと詳しくならなければいけないのですか?」
これ以上を求められるのは、正直厳しいですが、少しでも頑張っているのだとアピールをして、責めて次の学年には行けるようにしたいと思ったのですが……
「貴殿が間違いだらけだと? 今の魔法だけでも高等魔法理論に精通していると思われるのに、なぜ? 校長先生、彼女の今までの答案を彼女に見せていただけないか? これは、回答欄を間違えて書いている等のことでもない限り、考えにくいぞ」
「は、ただいま」
そして、初めて今までの採点された回答用紙を見ることになりました。
……これ、私が書いた記憶がありません。
「すみません、これ書いたの誰ですか?」
「君の回答だろう……何故に回答用紙にある名前が、レモンド侯爵令嬢の名前になっているのだ?」
名前の欄を見ると確かに、名前は私ではなくミドリーヌ様の名前が書かれています。
「これはどういうことだ!」
校長先生が叫ばれます。
ミドリーヌ様が優等生という割には、×となっているものが多く、かなりの間違いになっておりますので、私ではなくミドリーヌ様の答案用紙だとしてもおかしなことになります。
「……まさかとは思う。レモンド侯爵令嬢の回答用紙も持ってきて下さらぬか?」
魔術師団長の一言と共にミドリーヌ様の回答用紙がもってこられました。
その用紙にこそ、私の名前が書いてありました。
そこにはほぼすべてに○がしてあり、ものによっては、◎までしてある状態です。
どういうことなのでしょう?
「やはりか……校長、この件について合理的な説明をしてくれぬかね?」
「……試験結果の統計では、回答用紙に書かれた名前ではなく、用紙に封印された魔導キーにより管理されております。魔導キーは当然本人のものが使われるのですが……レモンド侯爵令嬢と彼女のものが何らかの理由で入れ替わったとしか考えられませんな」
「その何らかの理由とは?」
「これから調査いたしましょう」
急展開に呆然とするしかありません。
その後の調査により、レモンド侯爵令嬢の成績を心配した侯爵家の家人が、令嬢の成績と学年トップの成績を入れ替えることを試験担当者に依頼。
侯爵家と敵対したくなかった試験担当者達は高額の報酬のこともあり、応じて今に至るとのこと。
……ということは、私、毎回学年トップだったんですか?
それはそれで信じがたいですけど、今まで間違ったことを勉強していたわけじゃないということが分かったのは、それはそれで安堵です。
これで、留年や退学処分を受けずに済みますからね。
それどころか
「今までのことのお詫びに、学費を免除する」
と言っていただき助かっています。
うちの実家はそこまで豊かなわけではありませんので、私の学費が免除になることで妹達が学校に通えると思えば助かりますし。
「免除も何も、その成績なら特待生にしても良いのではないか? あ、そうそう。貴殿のレポートは読ませていただいた。成績の低いもののレポートは読む価値なしとして、貴殿の担任は全く読まずに低評価を下していたようだが、貴殿の理論は魔術発展に役立つものだ。貴殿を宮廷魔術師団の一員として迎え入れるよう国王陛下に奏上した」
良いことは続くものです。
私の就職先も就職活動をする前に決まったようです。
勿論、宮廷魔術師団の一員となるからには、今まで以上に研さんを行いますけどね。
「レモンド侯爵家についてではあるが、私利私欲のために娘の成績を偽らせたこと、優秀な魔術師を挫折に追い込みかねなかったことを鑑みて、令嬢の退学と修道院入りとなる。侯爵家自体も、伯爵への降爵を願い出て来ている。」
話を聞いている限りは、ミドリーヌ様自身は関与してなさそうなんですが、ミドリーヌ様が処罰されてしまうわけですか。
もっとも、修道院入りというのは、実際の成績が最低であると公表されたに等しく、それでなくても、不正が行われた試験はすべて無効となる以上、世間から身を隠させるためにという面もあるようです。
侯爵家が自ら、処罰を願い出たこともあり、実際の処罰は侯爵家にはくだらないようですし。
うちとしても、侯爵家が処罰されようものなら風当たりが強くなることは間違いありませんから、穏便な方向に進んでいただき助かっているのですが。
いろいろありましたが、私の今回の事件が原因で、答案用紙は毎回返却されることになり、どこを間違えていたかを知ることが許されるようになりました。
一部の先生は、私のように熱心に研究することも起こりうるのだから、と主張されたようですが、不正の犠牲者にのみ努力を強いるのか! と一喝され一気にその話は消えたようです。
みんなが幸せになれたんですから、それで良しとしましょう。
読んでいただき、ありがとうございました。