好意と、怒り
やば……自分でも予想以上な位にに短いですね。長い間休んでおいてこれは無いですね…
でもまぁ、細々と続けて行くつもりですので、辛抱強く待って頂けると幸いです。
ほんの少しばかりの希望を、私が抱いていなかったと言えば嘘になる。哀れっぽい感じに泣きつけば、唯衣はこっちに留まると言ってくれるのではないか、と。
正直な話、唯衣に抱きついて泣いた時はそんな打算は無かったけど…それでもやはり、唯衣が私の前からいなくなってしまったら、どうしていいのかなんてわからない。ましてや、私の手で彼を元の世界に戻すなんて……
あれだけ威勢良く唯衣に言っておいてそれは無いだろう、とは自分でも思うが…こればかりはどうしようもない。
昂ぶった感情が消えてしまえば、後に残るのは鬱々とした陰のみである。
あの後、紫は唯衣を神社の裏へ引っ張って行き、何やら話し込んでいた様だった。暫くしてから『えぇ!?』という唯衣の悲鳴が聞こえてきた気もしたが、よく覚えていない。
そして困った事に、恐らくその密談の結果、唯衣の意思はより強固になってしまったらしい。魔理沙も呼んだ食事会に至っては、笑顔で私のことを励ます位の元気は戻っていた。喜ばしい事ではあるのだろうが……
因みに私は私で、何を間違えたかその夜唯衣に向かって『一緒に…寝よう?』と、かなりスレスレな発言をしてしまい。…まぁ、「どうしようこいつ遂に……」みたいな引きつった笑顔で汗を垂らす彼は、面白かったと言えば面白かったのだけど。
そして結局、その夜眠れなかったのは私だけだった様だという事実に、わけもなく腹が立ったり。
と、別れの前日にしては明るく過ごせた自覚はあるが…それはあくまで、来るべき時に対する心の準備を後回しにしていただけだった。
と言うか、私って意外と落ち込んだ時はじめじめするタイプだったんだな…今回の出来事で、残念ながら知らなくても良かった自分の一面を知ってしまった様だ。
……しかし、今日で唯衣ともお別れなのだ、凛とした姿を見せねば。
そう。今日は、唯衣を元の世界へと送り返す日である。
唯衣は朝から、どことなくそわそわしている様だった。…それも当然、この何日かで彼もそれなりに幻想郷に馴染んでいる。自らが望んだこととは言え、皆と二度と会えなくなるというのは相応のダメージを持って彼の心にのしかかっている筈だ。
それに、私は見てしまった。私よりも早く寝だ筈の唯衣の枕が、朝起きた時には目の位置に大きな染みを作っていたのを。
それを見て、私は改めて疑問を感じずにはいられなかった。
(……何故?何故、こんなにも唯衣は戻りたがるの?)
「………何で…?」
思っていた事が、つい口から零れる。幸いにも周りに人はいなかった様だが、誰か(特に紫とか)に聞かれぇもしたら面倒だ。気をつけなければなるまい。
「何でって、何が?」
「うわぁ!?」
突然、後ろから声がかかった。驚いた私はその場で小さく飛び上がる。
恐る恐る振り向くと、そこには予想通りと言うべきか、唯衣の見慣れた姿が。
お約束にも程があるでしょう……
「……別に?何でも無いわよ。少なくともあんたが気にする様な事じゃ無いから、ほら掃除なさい掃除。」
「そう?なら良いけど……」
慌てて取り繕ってはみたものの、恐らくマトモな表情は出来ていなかったのだろう、それを見た彼の顔にも暗い影が落ちるのを見た。
「……何よ?」
「いや……霊夢、僕が帰るって言ってから何か辛そうだから。」
「…………」
それは否定しないし、できない。そもそもするつもりも無いが。
「だから何だって言うのよ?」
「いや……僕、帰っちゃって良いのかなって思って。」
「はぁ?」
……今になって何を言っているのか、この馬鹿は?
「今更何よ、つまらない冗談はよして頂戴。」
「いや、冗談でも何でも無くてさ。
僕は今まで、向こうで待ってる人達の事しか考えて無かった。」
「……それが正解だと思うわよ?」
「違うんだよ、僕が言いたいのはそういう事じゃ無いの。…ここにいる人達、僕がこの五日間で仲良くなった人達もまた、大切に、思いやるべき人達なんだって思ったから…」
「…………」
唖然とする。
唯衣の言っていることは、確かに正しい。…いや、正しいかどうかはともかく、私からしてみれば嬉しい限りである。それはつまり、唯衣の大切な人達と同じくらい、幻想郷の住人たちを気にかけてくれているという事なのだから。
でも、何故だろう。こんなにも腹が立つのは。
何だろう。喜ぶべき事を言われている筈なのに、頭が真っ白になりそうな程の怒りと共に目から湧いてくる、この液体は。
「………ぇ…霊、夢?」
唯衣が呆然と呟く。
気付けば、私は目から涙を流して彼を睨んでいた。