叫び
どうも、時間を無駄にかけた割には短くてすみません。長良です。
……どうしよう、シリアス書けねえ。
あ、そうそう。本当に今更ではありますが…これは一応二次創作とは言え、にわかが書き散らした駄文に過ぎませんので、キャラ崩壊はもとより設定崩壊している箇所等もあります。というか崩壊してる部分しかありませんけどね(開き直り)!
……まぁ、どうか温かい目で見てやって下さい。
「………計算が終わったわ。」
その紫の言葉は、自分でも意外な程にしっくりと頭の中へと入って来た。紫の計算が終了したという事は、それはつまり唯衣を元の世界に戻す事が出来る…戻さなくてはならないという事で。
「……そう。」
勿論、色々と思うところはある。なにせやっと唯衣に自分の想いを伝えることができたのだ、ここは帰らないでと泣きじゃくりながら唯衣に縋っても良い場面だろう。
それをわかっているのか、紫は少しだけ意外そうにこちらを見ている。
……が、二秒位経ったところで、我慢できないとでもいった風に吹き出した。
何で!?
「ちょ、何よ!今のシーン笑う様な場面!?」
私が慌ててそう問い詰めると、紫は気付いてないの?と馬鹿にした様に言って、
「霊夢。貴女、ちょっと頬に手を当ててみなさいな。全く…何て顔してるのよ。」
「?」
当ててみるも何も、さっきまで唯衣に抱きついていた所為で真っ赤になっているだけでは?……思い出してしまい、また顔が熱くなるのを感じた。
それを誤魔化そうと、そっと自分の頬に触れてみる。
「…………え、」
ぴちゃり、と。何か濡れたものに触った感触がした。
それは紛れもなく、今、私が流している涙…の筈だ。いやでも私は泣いて無……あれ?
「……自分が泣いてる事にも気づかないなんて。随分と幸せな子ね、貴女も。」
「う、うるさいわね…!」
「涙だーらだら流しながら顔だけは澄ましてるんだもの、笑っちゃうわー!」
「うわぁぁあぁあ!うるさいうるさいうるさいー!」
慌ててスキマの中に逃げ込もうとする紫に、せめて一発でも多くと拳骨を叩き込む。
…そして、そんな風に騒いでいる間も涙は止まらず。ぎゃーぎゃーとうるさい中、温かい雫が頬から顎に伝って胸を濡らして行く感覚だけがひどく遠いものに思えた。
……そっか、もうお別れなんだ。
目の前に立ちはだかる事実を直視してしまった、その瞬間。
「………うっ、」
「え?………あぁ。」
いきなり停止して下を向いた私を、一瞬訝しげに見る紫。だが、すぐに気が付いたのか、両手を使って私の身体を反転させた。
そしてその勢いのまま、私は後ろにいた唯衣の首根っこにかじり付き、叫ぶ。
「唯衣、唯衣ぃ……折角、好きって言えたのに!行っちゃやだ、私とずっと一緒に、ここにいてよお……!うわぁぁあぁああぁぁん!」
今の今まで泣くことを忘れていたと言うのに…こういう時に限って、本当に伝えたい気持ちがある時に限って、嗚咽が止まらない。
「やだ、やだよ……このままお別れなんて……もっと二人で、過ごしていたいのに…!」
恥も外聞も無しに、いつかの朝の様に唯衣の胸に顔を埋めて涙を流す。
……多分、今の私の顔は涙やら鼻水やらで大変な事になっているのだろうけど、そんなこと気にもならなかった。
と、その時。
「霊夢……」
耳元で、今にも泣き出しそうな声が聞こえた。顔を上げて見てみると、目尻に涙を一杯まで貯めた唯衣が私を見下ろしている。
そして、彼はゆっくりと口を開き…
「……でも、ごめん。僕は、元の世界に帰ろうと思う。…みんな、僕の事を待ってるだろうから。」
その言葉を理解すると同時に、私の目の前は真っ暗になった。
「え……どうして?どうしてそんな事言うの?」
引き止めては駄目だ、と心の中では辛うじて残った理性が叫んでいる。
…が、一度動き出した口はもう、止まってはくれなかった。
「霊夢…やめなさい。」
「さっき好きって言ってくれたじゃない……なのに、何で、っ……!私、このまま一人でなんて生きられな」
「やめろと言っているッッッッ!!!!」
ガッ!と紫に胸ぐらを掴まれた。無理に体を吊り上げられて、息が詰まる。喉からひゅう、と声にならない声が漏れた。
「成る程ここで霊夢、貴女がこの子を引き留めて無事幻想郷に住まわせたとしましょう、でもそれが何になる!?結局は貴女の自己満足でしか無いじゃないのッ!」
「……………っ。」
何も言い返せない。
「貴女はそれでも良いかもしれないけど、さっきのこの子の言葉を聞いていて!?『みんな僕の事を待ってるだろうから』って言ったのよ!……外の世界でこの子の事を待っている人達の心までも、貴女は蔑ろにするつもりなの!?」
紫は、今まで私が見たこともない様な顔をして激昂していた。
怒りに歪んだ、しかしそれでも尚美しいと思わされる紫の顔を見て、私の心を縛っていた何かが音を立てて弾け飛んだ。
「…………何よ。」
「それはこっちのセリフだわ。言いたいことがあるならはっきりとおっしゃい。」
馬鹿にした様なセリフが、また私を熱くする。今にも融けて焼け爛れた心が口から出てきてしまいそうだ。
「何よ!紫にはわからないわよ、所詮マヨヒガに篭もって寝てばっかりいる隠居妖怪なんかに私の事はッ!!良いわよね、妖怪は寿命が長くて!生憎と人間様は長くて100年程度しか生きられないのよ!」
「それでも!!!!!」
「……………ッッ!?」
全てを吐き出す様な叫びの後、先程までの激情を浮かべた顔とは打って変わり、一気に泣き出しそうな表情になる紫。
「………確かに、貴女の心はわからない。千年でも二千年でも待っていれば、いつかは出会える事を知っているから…だから、短い命しか無い人間の様に、別れを惜しむ気持ちは無いわ。
それでもね?霊夢。人と運命を分かつのは、悲しいでしょう?寂しいでしょう?」
「……………うん。」
「妖怪だって、それは人間と同じなの。永く生きていられるなんてつまらない意地を張ったところで、別れの瞬間は辛いものなのよ。それだけはわかるわ。」
紫はリボンから手を離し、その細い腕で私を抱きしめながら、小さく言った。
ーー私だって、女だものーー
いつしか、涙は止まっていた。その代わり、涙が占めていた体積を別の冷たい何かが埋めてしまった様な気がしてならない。
「ねえ、唯衣。」
私は、紫の胸の中で愛しい彼に呼びかけた。
「……何?」
「また、会えるわよね?」
「うん、そうだと良いね。」
むっ、と眉を顰める。
紫の背中を軽く二回叩いて、腕を解いてもらった。
「それじゃ駄目。」
「……え?」
「また絶対に会うわ。会いに行ってやるんだから!」
唯衣の目を見つめ、宣言する。そして永遠にも思えるほど永い二秒の後、彼は大きく噴き出した。
「っはははは!わかった、楽しみに待ってるよ。…まぁ、案外僕の方からまた迷い込んだりするかもしれないけどね。」
その口調は、どこか達観しきった様な、曖昧なもので。
「その時はもう帰さないわよ。ここに永住する覚悟を持ってからいらっしゃい。」
「……………」
冷や汗をだらだらと垂らしながら固まる唯衣。
「言っておくけど、冗談じゃあ無いわよ。今度ここに来たら、たとえあんたが死んだとしてもこの地に繋ぎとめてやるからね。」
「恐ろしいね……まぁ、退治されるよりはマシだと信じたいけど…」
「そう思っときなさい。」
どうやら自分でも知らぬ間に、口の端に笑みを浮かべていた様だ。
さっきまでずっと、脳の歯車に異物が混ざっていたような気持ちだったのに…唯衣と少し話しただけでこれである。
唯衣セラピー…つまらない冗句。
というか、紫。
「あんた、さっきから何でずっと顔背けてるのよ?」
「い、いや……何でも無いわ。」
そう……でもその尋常じゃない冷や汗だけは拭った方が良いのではないだろうか?
「……ま、良いけど。じゃあ、今日はそろそろこの辺でお開きにしましょう。日が傾いて来たわ。」
自分でも気づかない内に、予想以上に時間が経っていたらしい。もう少しで逢魔が刻である。
「そうね、じゃあ私もそろそろ帰って寝ようかしら。……あと霊夢、明日はその子を元の世界へ戻すための儀式を執り行うわ。あくまで形骸だけのものではあるけれど、それでも巫女たる貴女がきちんとしないと示しがつかないからね…気持ちは察するけど、頼んだわよ。」
「っ………わかってるわよ、大丈夫。」
紫が無言で頷き、スキマの向こうに消えた後。私は明後日の方向を向いて、もう一度自分に言い聞かせる様に大丈夫、と呟いた。
「………よし、最後の景気付けよ!唯衣!」
「は、はいっ!!」
「今日の夕飯は豪華に飾るわよ!私は魔理沙を呼んでくるから、あんたは食器と調理器具を揃えて洗っときなさい!」
「あいあいさー!」
声を張り上げ、勢いよく空へ飛び立つ。行き先は、霧雨魔法店。
頬を再び伝う哀しみをただひたすらに誤魔化しながら、私はぐんと速度を上げた。