日常の崩壊、そして告白
あ、話ごとに前書き書けるんですね。今気付きました…
なんかやっぱり自分で読み返してみると「展開早過ぎないかなぁ…?」とか、「ここもうちょいマシな言い回しにできないかなぁ…」とか考えたりしてしまいます。そして同じところを直してはまたもう一回読んではい訂正ー。と……
やはりまだまだ未熟者です……
あと他の方の小説を読んでいると、偶に「よくこんな表現思いつくな!」とか思うことが度々あります。精進せねば……!
ここまで読み進めて下さった方に感謝と、こんな駄作を読み続けていられるその精神力に敬意を表しつつ、短めで終わらせる予定ですがまだまだ続けさせて頂きます!これからもよろしく!
そして、次の朝。
「おーい、霊夢ー?どうした、お前が寝坊とは珍、し………」
扉が開かれ、そして誰かがずかずかと入って来る音がした。
……あぁ、魔理沙か。どうやら私の起きるのが遅いので見に来た様だ。全く、相変わらずのお節介と言うか何と言うか。
「……んー、魔理沙?今着替えて行くから待っててー……」
そう言ったにも関わらず、彼女はそこに立ったまま動こうとしない。……私は生憎、着替えを見せる趣味も見られる趣味も持っていないのだが…
「………おいおい、そんな事言ってる状況か、これ?言い訳くらいは聞いてやるから、まず起きろ。」
「……はぁ?何のことよ。」
と言った瞬間、私はふと何かに包まれているのを感じた。……布団、じゃあ無いわね。もっと大きくて、暖かい……
「……………あっ。」
昨日の夜の記憶が甦る。正直眠かったし、途中から自分でも何を言っているのかわからなくなっていたので定かでは無いが……それでも、相当恥ずかしい事をしたのは確かだ。
そしてその記憶が正しければ、私が今、顔を埋めているのは……
「うぅ、霊夢……痛いって………」
目の前でよくわからない寝言を漏らしている、この少年の胸板に他ならない。
更に言うなら、私の頭は今唯衣に抱きかかえられており(昨日言った通りに優しい手つきのままなのが妙に腹立たしい)、つまり私のお腹に当たっているコレは……………
「えっ、嘘っ……えぇ!?」
慌てて離れようとする……が、動きの芯である背中と頭をホールドされているので上手く力が入らない。しかも、寝ぼけている唯衣が更に私を抱き締めて来るものだから、たまったものではない。
再び私の顔が、彼の胸へと抱き寄せられる。柄にもなく顔に熱が集まるのを感じた。
「ちょ……ん…もう……」
あったかいし気持ちいいし、もうこのまま二度寝しても良いか……そう考えて瞼を閉じようとしたその瞬間、勢い良く布団が引き剥がされた。
「うわっ何!?寒っ、いきなり寒いわよ!?」
「何じゃ無えよ!朝っぱらからイチャイチャしてんなこの色ボケ巫女ー!!」
わざわざ屈んで、耳元でソプラノを響かせてくる魔理沙。頭、が……
「ほら唯衣も起きろ、もうとっくに朝だぜ!あとこの状況に対する弁明なり何なりしてもらおうじゃ無えか!!」
「うぅ、ん……あれ、魔理沙…?」
もう、一体何をそんなに騒いでるのよ。唯衣まで起きちゃったじゃないの……ん?待てよ、この子はさっきからずっとここに居た筈だ。
となると、この子の視点から今の私達はどの様に見えているのだろうか?…私が唯衣の胸に顔を埋めて寝ていて、そして唯衣も呑気に寝言などを漏らしながら私の身体を抱き締めている。
………答えは、一つだ。
「待って魔理沙!これは誤解ーー」
「言い訳は聞きたく無いぜ霊夢!私が言ってるのは何でお前がこの事を私に黙ってたのかって事だ!」
弁明しろって言ったのあんたじゃ無かったかしら!?
「良いか霊夢!お前がちゃんとこの事を言ってくれさえすれば、私はちゃんとお前らの仲を応援してたさ!でも何かこれじゃあ一人心配してた私が馬鹿みたいじゃないか!!」
「わかった!わかったからまず私の話を聞きなさい馬鹿魔理沙!」
布団を剥がされた状態で寝転がっている訳にもいかず、寝間着のまま魔理沙と怒鳴り合う私。そして横でまだぼーっとしているお寝坊さんの唯衣。
絵面だけ見たら馬鹿なのは私の方ね、この状況。
「………何だよ。」
「まず一つ、この事態は確かに迂闊な発言・行動をした私に否があるわ。でも…多分あんたの想像してるような桃色空間じゃ無いわよ、ここ。」
「は?じゃあ私はさっき、朝っぱらから綺麗なピンク色の幻覚を見てたってのか?」
「違うわよ、確かにさっきのはそう見えても仕方ないけど。……そもそも、私が唯衣と一緒に寝てたのは単に寒いから、ってだけの理由でなのよ。」
私がそう言った瞬間、魔理沙は大きく息をついて言った。
「はぁ、全くお前って奴は…貞操観念って言葉、知ってるか?用心でも可。」
「そりゃあ知ってるわよ、失礼ね。」
まぁ、魔理沙が私を心配してくれていることくらいはわかる。実際、どうとでも疑える私の今の言葉を信用してくれたのは、ひとえに自分の希望的観測に縋りたかったからというのもあっただろう。
というか、本当に真実なのだが…
「わかった、今のところはお前の弁を信じてやるよ。……でもな霊夢。下手に情が移ったりしたら、どうなるかはわかるよな?」
「………………………ええ。」
そう、唯衣が私の側にいてくれるのは多分、長くてもあと一週間。早ければ明日にでも紫が私の元へと現れるだろう。……つまりそれは、唯衣と私の別れへのタイムリミットが、明確に設定されているということと同義で。
「………わかってるわよ、畜生…」
両の手の平に指を突き刺さん勢いで、空っぽの手を握り締める。
それを見た魔理沙は、これは駄目だとばかりに肩を竦めて、
「どうやら手遅れだったみたいだな。だが、一応忠告はしたぜ?この後どうするかはお前次第だ。……なんか今日は遊ぶ気分でもなくなったから私は帰るぜ。じゃあなー!」
と言うが早いか、素早く箒に跨って星屑を散らしながら空へと駆けて行ってしまった。
……そして、それを見ながら、私はどうしようもない気持ちに襲われていた。
「畜生、何でこんな………」
何でこんな時に、気付いちゃうのよ。
俯いた私を心配そうに覗き込んで来る唯衣に、さっさと掃除するわよと覇気のない声で命令を出し、自分も動こうとする。が、結局その日は唯衣の顔をマトモに見られなかった。
貴重な一日を、無駄にしてしまった。
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
多分、一目惚れだったのだろう。
いや、最初に見た時は顔の判別が付く状態では無かったから…正確には三目惚れくらいになるのか。その頃から、私は唯衣に…霖之助さん以外に始めて仲良くなった男の子に想いを寄せていたのだ。
初めの辺りは単に戸惑っているだけかと思った。よく本で出てくるように顔が真っ赤になったり息苦しくなったりする事は全く無かったので(あれ?あった様な……まぁ良いか)、自分に「これは違う」と言い聞かせて来た。
でも、今自分で考えてみて良くわかった…というか考えるまでも無かった事なのだろうけど。
Q.好きでも無い男の子の布団に入ろうと思うか?
A.否。
である。
私の愚かな思い込みと自己暗示は、自問自答の末に得た一文字程度で容易く打破される程度のものだったのだ。
自分としても、その想いを受け入れていつも通り唯衣に接する事が出来ればどれほど楽な事か。……だが、どうしてもそれが出来ない。よって、凝縮された唯衣への恋慕の情は私の胸の中でぐるぐる回り、熟成されて腐ってゆくだけである。
つまらない女だ、と自分でも思う。
そして更にまた無駄な一日を過ごしてしまった、次の日。
私は唯衣とのスキマを少しでも埋めるべく(友人にスキマ妖怪がいるというこの縁起の悪さを今ほど呪った時は無い)、一つアプローチをかけてみる事にした。
「ねぇねぇ、唯衣?」
勇気を振り絞って、唯衣に言葉をかけてみる。
「何?霊夢。……あ、そう言えば、そっちから話しかけて来てくれたのは久しぶりだね!」
「うっ……!」
何の屈託も無い笑顔に目が眩んだ。
というか実際に後光の幻覚すら見えてきた気がする…が、そんな幻覚に屈して堪るものか、私は懸命に普通の顔を装って目の前の少年に言った。
「……唯衣、ちょっと顔貸しなさい。」
「えっ……?」
「あ……言い方が悪かったかしら、訂正するわ。頭貸しなさい。」
ーー私がその髪、揃えてあげるわーー
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「………くしゅん!」
「おや紫様、大丈夫ですか?今ティッシュを……」
「いいわよ、別に鼻水出てる訳じゃないし。全く、誰が私の噂してるのかしらね?」
「良い、噂だといいですね……」
「ちょっと藍、何で目を逸らすのかしら?」
「何でも無いです……」
「目、逸らし過ぎて首が変な方向に曲がってるわよ。」
「大丈夫です、大丈夫です。」
「……まぁ良いわ。今は大事な計算をしてる所だから、邪魔をしないで頂戴ね?…でもどうしようかしら、これ……」
「どうかなさったのですか?」
「無理だわ。」
「え?」
「唯衣君……だっけ?あの子が元いた座標軸はもう特定出来たの。後は霊夢の器用さだけだけれど…でも時間軸の方は、どうしても戻せない。そこに繋がるスキマが無いのよ。最低でも前には30年、後には40年程の誤差が出る……」
「紫様、それは……」
「えぇ、まずいわね…………あ、そうだ藍、いい事思いついたわ。多分霊夢もあの子にいい感じに心酔してる頃だろうから一石二鳥ね。
ちょっと使うから、適当な小箱を一つ、持ってきてくれない?」
「畏まりました……って、何に使うのですか?そんなもの。」
「それは開けてのお楽しみよ。」
「はぁ……」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
30分後。
「………おぉー、ありがとう霊夢。意外と得意だったんだね、こういうの。」
「意外とって何よ、意外とって!」
「あはは、痛い痛い……」
散髪の間の何気ない会話によって、程良く私の心は解れてくれた。今や普通に唯衣の目を見て笑顔を零せるレベルである。
因みに、唯衣のぐでっとしたイメージを増長させている垂れ下がり気味の眉毛も、少し減らしてやった。
「しかしまぁ、こうやって髪の毛と眉毛整えてみるとあんたもかなり見れるわね……」
流石は私が惚れただけあるわ、とは流石に口にしなかったけれど。
でも、最近の私の態度から多分唯衣は気付いていたのだろう、彼は唐突に私の身体に体重を預けて来て、いい所だよね、ここは…と、耳元で小さく声を漏らした。そしてそのままの体勢で、
「もう何だか、元の世界に戻りたくない気分だ、っ………」
その声は、聞いているだけの筈の私の心まで切り裂くような痛みに満ちていて。
「駄目よ。それをもう一度言ったら、あんたはもう戻って来られなくなる……」
背伸びをしてやっと、私よりも大きな唯衣の背中に腕を回した。
先程よりもずっと近くなった互いの瞳を見つめながら、私は、小さく呟く様に想いを伝える。今しか無い、これを逃したら機はないという本能に従って。
「どうしよう……私、あんたの事、好きになっちゃった……」
もう15cmも離れていない彼の瞳が一度、大きく揺れて驚きを表す。だが、その逡巡も一瞬だけ。
「僕も、幻想郷の気にあてられちゃったのかな……」
好きだよ、と。
吐息混じりに耳元で囁かれて、思わず身体が跳ねた。そんな私を、唯衣は優しく抱き締める。
否が応にも別れを連想させる強い抱擁の後、一度交差したシルエットが、再び少しだけ距離を取った。そして、互いに想いを告げたばかりの唇が重なる事を求めて近付いて行き……その瞬間。
「……あらあら、神聖な社で随分とイチャイチャしてくれてるわね。」
「「………ッ!?」」
誰か?それは勿論言うまでも無い。
元の世界には戻れないということをどうやって唯衣に伝えようかと、悩みに悩みながらここまで来た八雲紫その人である。
「全く、少し異性が近くにいるともう盛っちゃって…ここにだけ青い春告精が現れても良い勢いね。」
「えっと……紫?」
「何よ?」
「なんか……機嫌悪い?」
「気のせいじゃないかしら?」
ゴゴゴゴゴ「ひいっ!?」
……そう、何を隠そうこのスキマ妖怪、激怒した霊夢(唯衣は無言で凹むだろう。それも堪える)にどんな口汚い言葉で罵られるだろうかと意気消沈しながらここまで来て、そして最初に見たのがキスシーンの一歩手前である。しかもこのまま行ったら絶対唇だけではすまないであろうレベルの。
そりゃあ機嫌の一つや二つ、悪くなって当然だろう。
だがそこは天下の八雲紫、すぐに表情を元のポーカーフェイスに戻し、
「………計算が終わったわ。」
立ち尽くす二人に、冷酷に現実を告げた。