夜の会話
結局唯衣は、紫の調査・計算が終わるまで博麗神社で過ごす事となった。
「年頃の男女が二つ屋根の下でというのは……」と異を唱えたのは意外にも魔理沙だったが、こんなひょろっちい男の子に襲われるとか思われてたのでは、博麗の巫女たる私の沽券に関わる訳で。
だから、霖之助さんのところに厄介にしてもらったらどうだ?という魔理沙の申し出は私の方から丁重に断らせて頂いた。私にだって、流石にプライドってものはある訳だし。
それに、一人メンバーが増えた程度で私の生活が揺らぐことも無い。いつも通り神社の石畳を掃き掃除して、その後は炬燵でのんびりと蜜柑でも貪っていようかしら、と。
まぁ、そんなものだろう。誰かが外から来た程度の事でころころ生活スタイルが変わっていたら、こっちがもたない。
…………と、思っていた。
実質、生活スタイルそのものは変化しなかった。…だが、生憎と人間には心というものが存在するのである。
唯衣の存在は私の中で、自分でも予想しなかった程に大きくなっていった。
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この神社は、一部屋一部屋があまり広くないので、寝る時は必然的に布団を並べて眠る事になる。
これは、そんなある夜の会話。
「ねぇ、霊夢。」
「何よ?」
「何で僕をこの神社に住まわせようとしたの?魔理沙はあんなに霊夢の事を心配してたのに。」
「……あんたみたいなもやしっ子に襲われる程柔じゃない、って事。一応こっちは異変解決の第一人者だし、それなりのプライドくらい持ってるわ。」
「………ふーん。じゃあ僕が今ここで君に襲い掛かったとしたら、僕は退治されちゃうの?」
「退治で済むのは妖怪くらいのものよ。あんただったら、その気の迷いごと私が消し炭にしてあげるわ。」
「まさか現世から退治されるとは…」
「相応の報いって奴よ。」
「手厳しいなぁ。……というか、魔理沙が心配していたのは多分それだけじゃ無いと思うんだけど……」
「は?どういう事よ。まさか私が唯衣、あんたを襲うとでも思ってるの?」
「端的に言えばそうなるかな。………あ、誤解しないでよ?そんな顔しないで。別に自惚れてる訳じゃ無いし、そもそも霊夢が男ってものに興味を持ってるのかすらわからないけど、でも霊夢。君、今まで男の子とちゃんと接した事が無いでしょう?」
「…………あぁ、そういう意味ね。全く…魔理沙だって私と同じだろうに、余計な心配をしてくれるわ。」
「ははっ、そう言ってあげないでよ。霊夢の為を思って言ってるっていうのは、他ならぬ霊夢自身がわかってるでしょ?」
「…………まぁね。というか、さっきからやたらと魔理沙と肩を持つじゃないの。」
「ん?いや、あんないい友達を持ってる霊夢は幸せだな、って思ったから。」
「………そうかしら、鬱陶しいだけだと思うけど。」
「それを当然だと受け止められるっていうのは、とても幸せな事だと思うよ。」
「ふーん……まぁ、今の私には関係無い話だわ。」
「そうかもしれないね。……じゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみー。………襲って来ないでよ、私だってあんたを殺したく無いから。」
「じゃあ退治で済ませてよ……」
「それは嫌。舐めてかかって来たからにはその油断を百倍にして返すのが私の主義よ。」
「性格悪っ……」
「黙らっしゃい。……よっこらしょ。」
「え!?ちょ、霊夢なんで僕の布団に入って来るの!?」
「……どうせあんた手出しして来ないでしょ?なら二人で寝ましょう。寒いのよ、私扉側だから。」
「うーん……僕が眠れるかどうかは勘定に入れてくれてないんだね。」
「当たり前じゃない。私が眠れるかどうかだけよ、重要なのは。」
「なんて自己中心的なっ……」
「ごちゃごちゃうっさいわよ。ほらもうちょっとこっち来なさい、寒い上に狭いじゃないの。」
「えっ、ちょっとそれは……って何故に抱きついてくる!?」
「寒いって何度言えば理解すんのよ、女の子は体の冷えが命取りなんだから。……ほらあんたも手、回して。」
「う、うん……」
「うっ……ちょっと、少し力弱めてくれない?痛いって訳じゃ無いけど居心地悪いわ。」
「わかった。……こんな感じ?」
「そうそう。」
「なんか胸とか色々当たってるけど、気にする元気すら失せてきました……」
「それが正解ね。私のお腹の感触によっては、あんたは明日の朝日を拝めなくなるから気をつけなさい。」
「えっ……そういう事言われると改めて意識しちゃうんですけどどうすれば……そして足絡めるのはやめて下さいお願いします、僕の朝が本当に無くなる。」
「早めに寝るのが一番よ。私だってそうしたいわ。」
「そうかもね。……って言うか、何でさっきから一度も目、合わせてくれないの?」
「………別に、特にどうって事無いわよ。偶然でしょ。」
「まぁ、そうか。って今度は顔真っ赤だけど、霊夢……」
「う、うるさいわね!見てんじゃ無いわよ!!」
「痛い痛い、叩かないでよ!………もしかして、霊夢も恥ずかしいの?」
「…………………ッ!!」
「ぐは、っ!?ちょ、霊夢、鳩尾にモロは流石に……」
「あ、ごめん!大丈夫!?」
「大丈夫ではあるけどさ……げほっ、げほっ。」
「なら良かったわ。……さ、寝ましょ?いい加減明日に響くわ、これ以上遅くなると。」
「そうだね、じゃあ……おやすみなさい。」
「おやすみー。」
「すぅ、すぅ………」
「…………自分が真っ先に寝てんじゃ無いわよ、馬鹿………」
結局、眠れたのはそれから一時間くらい後だった。我ながら情けない話である。