外の世界の男の子
二作目の投稿です。
霊夢を出来るだけ可愛く書こうとしたのですが……そこは男の限界ですね、妙にサバサバした性格になってしまいました…
まぁ、それでも宜しければ読んで下さると泣いて喜びます。
乙女な霊夢が書きたいな(ボソッ)
「……ふあぁぁあ〜…ぁ、あ。」
今朝も、普段と変わらぬ気怠い感覚と共に目が覚めた。
身体を起こしたら、伸びをするより何より先に、乱れてしまった寝間着と髪を直す。言うなれば朝の習慣……まぁ、どうせすぐに着替えるのだから大した意味は無いが、それでも気になるものは気になるのだから仕方が無い。
そしてある程度頭がすっきりしたら、例の如く無駄に露出の多い巫女服を着込む。
そして体を動かして目を覚ます仕事も兼ねた、神社の前の箒かけ。
これが、私の朝のスケジュール。
どうせいつもの様にお賽銭箱には何も入っていないのだろうし、わざわざチェックするまでも無いだろう。しかし…妖怪魍魎の類どころか神様までもがその辺をウロウロしているこの幻想郷で、ここまでの収穫ナシとは。
奇妙な清々しさと苦味が、互いに混ざり合いながら脳内を廻っていく。
…と、益体のない思考を巡らせつつ、私はふと空を見上げた。そろそろあいつがやって来る時間帯だから。
と、丁度その時。
「……うおーい、霊夢ぅーーー!」
と、女の子にあるまじき大声で叫びながら飛んで来る、箒に跨った金髪の少女。名は、霧雨魔理沙と云う。
私の親友であり、頼れる相棒…とでも言うべきなのか。少々我が強いのは欠点だが、逆にそれが彼女の魅力でもあるのだろう、相当顰蹙を買う様な事もしているが、それなりに周りと上手くやれているらしい。
彼女は私の前で、器用にも空中でギギッ!とブレーキの擦過音を響かせながら停止した。
「…なーんか毎回毎回、そのわざとらしいブレーキ音…演出だとわかっててもイラつくのよね。何とかできないの?」
「無理だろ、設定なんだから。それに演出だってわかってるのなら口出ししないでくれよ。本気で悩んじまうだろ。」
勝手に悩んでなさい、と言ってやろうと思ったが、無駄に挑発するのも最近飽きてきたのでやめておく。
怒らせて楽しいタイプじゃ無いし、この子。
「あ、そうそう。さっき紫の式神……えーっと、藍だっけ?に会ったんだけどさ。あいつから霊夢に言伝だとよ。」
……へぇ、珍しい。
「『神社のちょうど真上の辺り、少し結界が弱まっております。一部が異界と繋がってしまっている可能性も考慮されますので、至急強化をお願い致します。
P.S.面倒なことになる前にさっさと塞いじゃいなさい。by紫』
……だそうだぜ。」
「わざわざ伝言の後ろに追申として自分の台詞付ける辺りが、あのスキマ妖怪らしいわね……」
そして魔理沙が絶妙な舌遣いで藍、紫の声を真似ているのも素晴らしくウザい。
「しゃーない、さっさと塞いで今日はこたつでのんべんだらりと過ごそうっと。魔理沙ー、ちゃちゃっと済ませてくるからお茶淹れておいてー。」
「はぁ!?私かよ!全く、人を小間使いみたいに……」
ぶつくさと言いながらも、結局用意の為に神社の中へ入って行く。……なんだかんだでいいヤツなのだ、ああ見えても。だからこそ、決して人付き合いが上手いとは言えない私の側にずっといてくれているのだろう。
「……全くもう、大きなお世話だわ。」
素直じゃない自分は、少し嫌い。
「さーて、じゃあちゃちゃっと塞いじゃいましょうか!…………………ん?」
空の向こう、丁度私の斜め前辺りに、何やら小さな黒い点が見えた気がした。それはよく見るとぐんぐんと近づいてきているらしく。
ーー『一部が異界と繋がってしまっている可能性も』ーー
藍の声(を真似た魔理沙の声)が脳裏に蘇る。ま、まさか……異界の妖怪が!?
「ま、魔理沙ぁーーー!」
思わず大声で親友を呼ぶ。
…そうこうしている間に黒い点はどんどん大きくなってきて、何やらわけのわからない叫び声の様なものまでもが耳に届く様になる。……くそっ、本当にあれが妖怪だったら、ここで私と魔理沙が応戦したところで勝てるかもわからない。ここは魔理沙に増援を呼んできて、もら…っ、て……………………
「は?」
「ぅゎぁぁぁぁああ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」
ここからではまだ良く見えないが…何と、黒い点の正体は『男の子』。こうやって落ちてきている様子を見ると空も飛べない様だし、多分、ただの人間という認識で間違いないだろう。
つまり。
ただの人間は空を飛べない。
よって、このまま行ったら墜落死。
……………………えっ、死!?
「ちょっと…ちょっと待ちなさいよ!?」
何とかして受け止めてあげないと!
「おーい、聞こえるーー!?」
全力で、男の子に向かって叫ぶ。その子は風に煽られながらもしっかりとこっちを見た。
「今から私がそっちまで受け止めに行ってあげるから、ちょっとだけ待ってなさーーーい!?」
ーーありがとうーー
私は、目の縁に涙を一杯まで溜めた男の子の口が、そう動くのを確かに見た。……そして彼に向かって飛んで行く為、思いっきり地面を蹴る。
一度地面を離れれば、後はイメージの問題。自分が飛んでいる姿に違和感を覚えなければ、基本的にどこまでも行けるのだ。
その力を利用し、私は彼を減速させるべく飛んで行く。
……まずい、男の子の落下速度が予想以上に早い。これじゃ、運良く受け止められたところで、私も一緒に落ちてしまうかも……いや、そんな事を考えてる場合じゃない!とりあえずは何としてでもあの子を無事に着陸させる事を第一に…!
身体中に力を込め、ぐんと加速する。そして当初の『受け止める』という発想を放棄した私は、横からその男の子を掻っ攫った。その際身体を強くぶつけた彼が「ぐぇっ」と小さく呻いたが、まぁ地面にぶつかるよりはマシだろう。
「……ったく、あんた何やってんのよ…まぁ良いや、地面に降りたら話聞くから。何らかの妖怪の仕業だったらお仕置きも考えないとだしね。」
この男の子が妖怪という事は無さそうだけど、どれにしろこの子をあんな高さまで運んで行って落とそうとした何者かはいる筈な訳で。…今回は流石に人命がかかっていたのだから、未遂で済んだとは言えそれなりにシメてやらないと。
「え……?え?」
「戸惑っちゃって言葉も出ないって訳?……まぁ良いわ。もうそろそろ下に着くわよ、バランス崩さない様にね。」
「は、はい……」
とりあえず男の子が助かったことに安堵しながら、地面に足を着け……
「よっ……と、うわ、わわ!?」
抱えたまま着地したら、腕の中の子が予想以上に重かったのもあり、前につんのめってしまった。
そして、その結果。
「ご、ごめん……頭打った?」
「いえ、打ってはいませんが…でも、その、これは……」
「そうよね……でもちょっと待って、手が痺れて起き上がれない。」
私は、その男の子を押し倒す形で地面へ前のめりに倒れ込んでしまったのだ。ついでに言うなら、彼は彼で私の腰にきっちり手を回している。…まぁ、さっきまで私に抱えられて空中にいたのだから、当然と言えば当然か。
「ごめん、手の感覚が戻るまで待ってて…」
「は、はい…」
……よく見るとこの男の子、結構綺麗な顔立ちをしている。まるで女の子の様な白い肌に、さらっとした髪の毛。そして顔のパーツの中で唯一と言っていい男らしさを見せる、まだあどけなさは残るものの年相応の精悍さを秘めた目。……だが折角の顔も、垂れ下がり気味の眉に押されて少し情けない雰囲気になってしまっていて少し残念。それにいくら質がいいと言っても、少し髪を伸ばしすぎじゃないかしら。もう少し整えれば女の子が放っておかないだろうに。
……………って。
「初対面で何考えてるんだ私…」
「…どうかしましたか?」
「いやいや、何でもないわよ。」
まさか、正直なことを言うわけにもいかないじゃない?
……とそこで、最悪のタイミングで親友がやって来る。彼女はばたばたと足音を立てながら、
「霊夢ーー!?何があっ、た……?あー……うん…………」
「え?いや魔理沙、これはその…」
「いや、いいんだよ霊夢。私もお前の事はそれなりに理解してるつもりだ。……お邪魔したな、お二人さん。」
わざとらしく帽子の端を抑え、視線を隠して後ろを向く魔理沙。
「いや、だから違うんだって!待っ、ちょ、まーーりーーさーーー!」
どうやら結界の穴が運んで来たのは災いや異変などでは無く、私の日常の崩壊だった様だ。