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くじらも空をのぼる。

作者: シウタ

  くじらも空をのぼる。



 雲――雲のようにゆっくり泳ぐ、巨大なくじら。君は一人。


 風船が一つ彼のもとへとやってきた。くじらは大そう喜んだ。

 大事に大事に、風にとばされぬよう、雷に打たれぬよう。

 長いあいだ晴れが続いた、風船はだんだん小さくなって最後にはしぼんで落ちた。

 くじらは泣いた、また一人ぼっち、たくさん泣いた。それでも空は晴れている。

 涙は地上におちて乾ききった台地を潤した。

 枯れかけた植物は息吹を取り戻す。

 人はその涙を広漠なる神の意思と取り違えた。

 彼らは思いを込め風船を空へ飛ばした。

 たくさんの風船に囲まれてくじらは泳いでいった。




 空はまだ晴れている、風船が今日も一つ落ちていった。沢山あった風船も残りはわずか。

 くじらは大きな口をあけてまた泣いた。

 最後の一つが落ちたとき、くじらの巨体は咆哮をあげる。

 大地は大水、ぜんぶのみ込んで流して走りつづける。

 人はその涙を深淵なる悪魔の所業と思い込んだ。

 彼らは家を失い家族を失い希望を失った。

 空は晴れているけれどくじらはまだ泣いている。

 暗い暗い夜、くじらの横っ腹に大きな人の槍が飛んできて破裂した。

 唐突な昼の光とみまがうその爆発に驚いてくじらはすべてを吐き出した。

 さみしさもうれしさもあんなに泣いたのだから一粒の涙すら残っていない。




 小さくなったくじらにもう人のこえは聞こえない。君は一人。

 地上に小さき人が倒れている、カンカン照りの中そんなところで寝ては危ない。

 くじらは自分の体で小さき人へ影を作る。

 昼と夜が何回もいったりきたり、いつまでも晴れている。

 くじらは日々しぼんでいき影も小さくなる。

 ある日風船を持った女の子が一人、小さき人を拾い上げた。

 「あっ」

 人形を拾い上げる拍子に風船を放す女の子。

 のぼっていく風船。

 やさしい空気のにおいを忘れないためにくじらは大きく息を吸った。

 そしてすっかり小さくなってしまった口を一生懸命広げて風船をくわえる。

 くじらは風船に連れられて空たかくのぼっていった。

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