『次に俺の眼が映したものは汚らしい爺だった』
次に俺の眼が映したものは汚らしい爺だった。
「気がついたかね、葉剛羽賀也君。気分はどうだい?」
俺が再び目を覚ますと、見たこともない爺さんが俺の顔を見降ろしながらニヤニヤと臭い息を吹きかけてきた。
ボロボロの白髪に、同じようにボロボロの歯が並ぶ。
ホラー映画なんかによく出てくる、マッドサイエンテイストそのものだ。
イメージとしたらあれか、栄養失調のドクみたいな。
その似非ドクの背後、いや、俺から見たらの話だから、実際は天井か?
とにかくそこからの強い光に目が眩み、思わず目を閉じる。
「ほっほっほ。すまんすまん。ワシとしたことが、すっかり忘れておった。」
そういうと爺さんは、手元の何だかわからない機会を適当にいじる。
耳をつんざくようなブザーが鳴り響き、その途端俺の横になっていたベッド(ていうか手術台だろ、これ・・・)が跳ね上がった。
要するに今まで平らだった物が急にL字型になった感じだ。
したたかに後頭部を打ちつけた俺は頭を抑える。
「うむ、これでワシのことは見えるか。」
「・・・・・・あぁ。なんだよ、ここは?」
ちょっと喋るたびに頭が割れるように痛い。
それが手術紛いのものをされたせいなのか、ついさっき頭を打ち付けたせいなのかはわからないが、とにかく苦痛に耐えながら部屋を見回す。
そこは病院の手術室のような空間で、見たこともないような計器がいくつも並んでいて、床には割れた薬瓶の破片や汚れた包帯の切れっぱしが所狭しと散らばっている。
どうやらこの爺は掃除というものを知らないらしい。
そして何より見たくないものは、枕元のトレーにおかれた、光を浴びて赤黒くヌラヌラと鈍く輝く血のこびり付いた手術用具。
裸の胸元に痛々しく残る手術痕を見るに、明らかに俺の血だ。
せめて片づけておいて欲しかった・・・・・・。
俺が顔をしかめるのを面白そうに笑うと、爺が俺に向けて口を開く。
その首からは名刺ほどのプラスチックカードがぶら下がっている。
どうやら社員証のようなものらしい。
俺は割と冷静な頭でこんなことを考えていた。