「覚悟・・・覚悟って何さ・・・」
「やることはかんたんだ」
武士先輩は、腰から下げた日本刀の鞘を指先でなでながら語り始めた。
「今回の襲撃任務、自分たちに割り振られたのは搖動です。とにかく暴れてくれたら、それでいいですよ」
改めて聞くと本格的にきな臭くなってきた。
いや、まぁ、戦闘員という職業に就いたからには覚悟しておかなければならない事案だろう。
・・・待て待て、そもそも戦闘員という職業に就くこと自体、覚悟なんてしていなかったことではないか。
そもそも戦闘員になる覚悟ってなんなんだよ。
「覚悟・・・覚悟って何さ・・・」
「振り向かないことですね」
「あきらめねぇことじゃねぇか?」
お互いびりびりと険悪な視線を飛ばしあう武士と東雲。
この人たちは今から一緒に仕事をするつもりがあるのだろうか。
ていうか東雲、お前、殴り合いになったら絶対負けるだろう。
「ワンチャンある・・・。武器的に俺のほうが主人公だ・・・」
「東雲。十字架なんて武器を振り回しているのは明らかにサブキャラ中のサブキャラだ」
「そもそも刀を持ってるほうが明らかに主人公じゃないですか」
「お前ら容赦ねぇな!!」
徒手空拳の俺はそもそも論外である。
いや、巻き込まれ体質、というのは十分主人公になりうる要素なのでは・・・?
「いや、羽賀屋。お前がいまいち主人公が出ない理由を教えてやる。・・・八割がた名前だ」
「畜生ーーーーーー!!」
「まぁ、こうやって知り合いじゃなかったら間違いなくからかってますよね。DQNネームだって」
「無双とかつけられてる人間がなんか言ってるーーーーーー!?」
横で他人事のように笑ってる東雲、お前の名前だって相当だからな。
「じゃあ、まぁ、武士らしく、自分が先陣をきりますよ」
にっこりとほほ笑むと、武士は、まるで体重を感じさせないような動きで3メートル近くある塀の上、どころか、さらにその上に張られた有刺柵の上に、曲芸師のように飛び乗った。
下界を睥睨する神様か何かのように、無双は標的である屋敷の庭を見下ろす。
彼の姿をとらえたのか、にわかに塀の向こう側が騒がしくなる。
「大量の番犬。奥には重火器を仕込んだ用心棒連中。ふふふ、暴れ甲斐がありますね」
すらりと、音が聞こえるような動きで、無双は腰の刀を抜き、地面に平行になるよう、真横に構える。
彼だけまるで、別の世界にいるかのようだった。
「それでは参ります―――ここからは俺のステージだ!」