「あれは公式が病気だろう」
さてと、と、武士が首を回す。準備運動、なのだろうか。みれば、袂から取り出したマスクをいつの間にか被っている。マスクの色は着流しと同じ藍色だ。罷屋のジジイのこういうささやかな気配りが無性に腹が立つ。
俺の隣の東雲もいつの間にやらマスクをかぶっており、退屈そうに携帯をいじっていた。移呂井と談話室で揉めたときに振り回していた十字架を杖がわりにしている。
「え、いつの間にそれ準備したの!? そもそもそれってどういうギミックなんだよ!?」
「何いってんだよ。3ヶ月以上もあったら大抵の準備はつくだろうが」
「あっれー!? 俺ってここに15分も居ないような気がするんだけど!? 武士先輩となんか出会ってからアイドル談義くらいしかまともに喋ってないんだけど!?」
「はっはっは。まったく、葉賀也は面白いことを言うなぁ。・・・あれ? 羽賀也だっけ?」
「ごめん! 俺にとっては届いている判断材料が音だけだからものすごく突っ込みづらい!」
誰宛てだよ。分かりづらいんだよ。
あと俺は羽賀也だよ。
何となくだけど後者で合ってるよ。
「あとこの十字架はな、言葉じゃ説明しにくいんだけど、要するに○ナンのサッカーボールみたいなもんだ。ほら、ベルトから射出するあれな」
「びっくりするくらい具体例!?」
「あのボールって、最大でアドバルーン位まで膨らむんだってさ。てことはだ、普段のサッカーボールサイズだと生地が余りまくってダッルンダッルンになってるんじゃないか?」
「似たようなことを図書館に張ってある掲示物で読んだことがあるぞ」
「あれって面白いよな。ウルフマンが新幹線を押したことに関しての考察とかかなり面白かったぜ」
「ゆでたまご理論は真剣に考えたら負けのような気がするけどな」
100万パワー+100万パワーで200万パワー!!いつもの2倍のジャンプがくわわって200万×2の400万パワーっ!!そしていつもの3倍の回転をくわえれば400万×3の…バッファ○ーマン、おまえをうわまわる1200万パワーだーっ!!
・・・いつものって基準なんだよ。
あとあんま知られてないけど、この後のバッファロー○ンのパワーの理論もおかしいからな。
「ところで羽賀也。お前ってき○肉マンレディーって知ってるか?」
「あれは公式が病気だろう」
「公式が吹っ切れると消費者は安心するよな」
「gdg○妖精sみたいなのか?」
「うーん・・・・・・なんか違ぇな」
「あははは、違うか!」
「ものいいか、お前は」
俺、あいつら結構好きだったんだけどなぁ。
赤絨毯はショートネタブームという形で、多くの微妙な芸人を、微妙なまま世に出しちゃったよな。
「関係ないけど、突っ込みづらい、って、なんかすごく卑猥に聞こえないか」
「東雲さんエンジン全開ですね!」
思わずさん付けである。
フルスロットルでスタートされたのだから仕方がない。
「ほら、なんかこう・・・隙間から? こう、いれるみたいな」
「ねぇ、この人何言ってるの?」
「パンツの隙間から入れちゃうよ、ボク こーいうのが大好きなんだ♡ 的な」
「おい、大丈夫なのか。どのスタンスで大丈夫なのか」
「・・・おっぴゅっぴゅっぴゅっぴゅ」
「お前マジで爆弾で吹っ飛ばされてくれない?」
突然のデスゲームである。
ていうかBT○○○M である。
そこで携帯から顔を上げた東雲は、真顔になって俺の方に向き直った。
「・・・じゃ、準備できたか?」
「うん。ようやく覚悟ができたよ」