『さぁ、指導の時間よ』
「じゃあ、移呂井先輩――――行きます!」
「さぁ、指導の時間よ」
大きく息を吐き、地面をける。その瞬間、今までの俺どころか人間では考えられないほどの推進力が生まれた。まるで足の裏で爆発でも起こったようだ。
だが、相手は戦闘慣れしている。俺のスピードに眉こそひそめたものの、全く慌てることなく鞭での防御を続行。むしろ、俺の突っ込んできた方向に鞭を集めてみせてさえした。
「花鞭法『向日葵』!」
駆け寄る最中で握った拳を、移呂井に叩きこもうとするが、その拳は鞭で阻まれる。まるで鉄板でも殴ったかのような衝撃が走る、が、大丈夫だ。戦闘服により身体能力――――もちろん防御力もしかり――の強制パンプアップが働く俺には動きを止めるほどのダメージじゃない。
「はは、その程度の攻撃じゃ私の『向日葵』は崩せないよ!」
拳を引き戻そうとしたが、生き物のように一気に肩までからみついてきた鞭がそれを許さない。舌打ちをして移呂井を鞭の繭ごと蹴り飛ばす。
この鞭では、攻撃は防げても衝撃までは打ち消せない!
俺に蹴り飛ばされて、やむなく右腕を開放した移呂井。だが、近接戦闘どころか殴り合いしかできない俺にとっては、中途半端な距離ほど不利なものはない。再び強化された脚力で強引に距離を取る。
再び開始の時と同じ体勢を取り、激しいにらみ合いが続く。
だが敢えて言おう、俺、脚滅茶苦茶震えてます!
「へぇ、羽賀也の奴。思ったより動けるなぁ」
「当たり前じゃ。なんたってワシの改造手術を受け取るからな」
「それは俺や惑伊ちゃんもでしょう。俺たちは、入団するときに自分が武器にしたいものを博士に告げて、博士がその武器を最も使いこなせる体に改造してくれたんですよ」
「うむ、そうじゃな」
「でもなんで、固有武器もなしに、改造手術を受けただけの羽賀屋はあそこまで惑伊ちゃん相手に戦えるんですか?」
「じゃから、改造手術は施してあるんじゃよ」
ここで東雲が気がつく。
改造手術、それはいわばチューニング。自らの選んだ固有武器を最も有効に最適に最強に使いこなせる体になるように調整する作業のことだ。
それゆえ、東雲はあれだけ巨大で重量のある十字架で平然と肉弾戦をこなすことができ、移呂井は恐ろしいほどに長い鞭を自分の体の一部――いや、それ以上に扱うことができる。
それは、他の誰にも真似できない技能。なぜなら、生体レベルで体に刻みこまれたものであるから。
だとすると、固有武器を持たない羽賀屋は何に最適化されたのだろうか?