『うるさい馬鹿! だったらお前が代われよ!』
「じゃあ、準備はできた?」
「出来てないです、嫌です、帰りたいっす」
「じゃあ、東雲。合図お願い」
「あいよー」
「俺の話を聞いてくれ!」
移呂井に半ば引きずられるように連れて行かれたのは、博士の常駐している研究室――――の奥の実験室。
博士曰く、固有武器などの試験場でもあるらしいのだ。博士と東雲の二人は二階席からこちらを見降ろしている。飲み物まで持ち込んで、まるでスポーツ観戦気分。
こっちは泣きそうだ。目の前には激しい光を放つ鞭をヒュンヒュンと、自分を中心に繭を作るかのように回転させ続ける移呂井。それはある意味、死角のない鉄壁の防御。
そもそも、あの長さの鞭を人間があんなふうに回せるものなのか?
試しに俺が一歩踏み出した、その瞬間。閃光のように鞭が飛来し、慌てて引っ込めた足があった場所の床を綺麗にえぐり取った。
「ちょ、移呂井さん。容赦なしっすか!」
「戦闘服着ているんだから死にはしないわよ」
「死にはしないだろうけどひたすらに怖いっすよ!」
「おーい、羽賀也~、早く始めろよぉ~。観客退屈させんなよ~」
「うるさい馬鹿! だったらお前が代われよ!」
「無理無理。俺の【交差天】よりも惑伊ちゃんのリーチの方が長いんだもん。勝てっこないよ」
そういえば、固有武器には「固有」と冠するだけあって、それぞれに名前が付けられている。東雲が使っていた十字架形の鈍器。あの武器の名前が【交差天】。移呂井の使っている鞭が【離鞭花冠】。
「言っておくけど、私の趣味で付けたわけじゃないから」
「俺のネーミングでもないぜ。気に入ってるけどな」
「効果・名称は全てわしの一存で決まっているのじゃ!」
「お前の仕業か!」
博士がにやにや笑いながらコーヒーをすする。
「さーて、わしの開発した【離鞭花冠】に、徒手空拳でどこまで立ち向かえるかのぅ?」
「お前が俺に何の武器がいいか聞き忘れたからこうなったんだろ!?」
「さあて、そんな事実は忘れたわい」
「都合のいい脳みそだなぁ、おい!」
俺の反論にやれやれと首をすくめる博士。駄目だ、こいつ。俺は移呂井との模擬戦闘が終わったら、あの爺を思いっきり殴り飛ばすことに決めた。
さて――――、それじゃあ戦いが終わったらやることも決めたし。このまんまダラダラしているのも性に合わないし、何より初めての、模擬とは言え戦闘の機会をみすみす逃すのももったいない。
なによりも、俺がどこまでやれるのか――――試してみたい!