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戦闘員だって考える、だって人間だもの  作者: 流離流留
第5歩「同僚だって友人です、なかよしこよしが一番です」
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『おい! どこだ東雲! 返事しやがれ!』


「それで、受けちゃったんだよな、その任務。――――俺の分も勝手に」


 新聞から顔を挙げて冷たい目で東雲を睨みつける。

 俺の凶悪な視線に居心地が悪そうに、もぞもぞと座り直す東雲。



「いや、悪かったとは思っているよ。けど、やっぱさ俺っちも人間なわけじゃん。1人じゃ心細いのよ」


「現代っ子かお前は」


「俺っちは今をときめく、我慢を知らない、自分だけ、が嫌いなシティーボーイ!」


「胸張ることでもないからなそれ」


 輝かんばかりの笑みを浮かべる東雲を呆れて見つめる俺。

 俺の視線から逃れるように伸びをする東雲。


「まあ、せっかくの初任務だし成功するように頑張りましょ・・・」




 突然、本当に突然。東雲の動きが止まる。


 目線は俺の背後に釘付け。あっという間にガタガタ震えだし、冷や汗が吹き出した。

俺が後ろを振り返った瞬間。

 



 一陣の風が吹き、何かが頬をかすめた。



 

 何が何だか分からないまま、呆然としていると、後ろからの爆音。振り返ると、さっきまで東雲が座っていたソファが東雲の姿ごと消えていた。焼け跡が高そうな床にべったりと残っている。飛び散った破片や先ほどの音から察するにソファが爆散したようだ。


 突然のバイオレンスシーンに足が震えだす。なんだ、これは? カチコミか? 正義の味方の襲来か警察の強制捜査か自衛隊の突撃か?


 もうもうと立ち込める粉塵。どす黒い煙の中、カツカツと足音が響く。その足音の主は黄色く輝くひもを振り回しながら一直線にこちらへと向かってくる。そこから溢れだすのは、爆発しそうなほどの殺気。――――――俺は、この殺気を知っている!?


 ガタリと音がして、自分の後ろで東雲が立ちあがったことに気付く。本当にこの戦闘服の性能は現在の科学レベルを凌駕している。さっき爆風直撃だったぜ・・・。


 足音の主は東雲が立ちあがったことに気がつくと不機嫌そうに舌打ちした。



「い、いきなり何しやがんだ! これスーツ着てなきゃ完全に死んでたぞ!」


「スーツを着てたから攻撃したのよ。それくらい察しなさいクズ。――――なに、まだ生きてるの? 本当に悪運だけは強いわよね。まるでゴキブリみたい」


「同僚を捕まえてゴキブリ扱いするなぁぁぁ!」



 この圧倒的なオーラの持ち主は、今朝の朝礼で出会った移呂井惑伊だった。相変わらずのドSっぷり。東雲に反論の隙を与えない。


 再び口を開こうとする東雲に、追撃の一撃が炸裂する。

 

 部屋中に響き渡る爆音と閃光。立ち込める煙に咳き込みながら、涙目のまま必死で東雲を探す。




「おい! どこだ東雲! 返事しやがれ!」


「――――――――――大丈夫だ、問題ない。」


「そこか! 待ってろ、今行く!」



 東雲の返事の場所から察するにさっきと場所はあまり変わっていないようだ。必死で近づこうとする俺を東雲が激しく言葉で制する。



「ばか、近づくんじゃねえ! お前はまだ戦闘慣れしてないんだから引っ込んでろ!」


「そうよ、羽賀也君。私が用があるのは東雲のカスだけだから。 怪我したらいけないから下がってなさい」



 

 流石にそこまで言われたら仕方がない。お互いの動きから目を離さないようにしながらじりじりと後退する。ようやく煙が腫れてきて、対峙する二人の姿が鮮明に見えるようになってきた。

 

 先ほどからの移呂井からの攻撃、その正体がわかった。彼女の右手に握られているのはムチ。ただ、通常の鞭とは違い、そのデザインは悪の組織の戦闘員らしい未来的なデザインだ。イメージとしてはスターウォーズに出てくるビームサーベル。あのビームの部分がが伸縮自在で自由に動かせるようになったものか。黄色に輝くその鞭を振り回すことによって的確に俺たち――――正確には東雲をだが、狙っていたわけだ。

 

 一方の東雲は、その殺傷能力抜群の鞭をいつの間にやら取り出した身の丈ほどもある巨大な十字架で絡め取っていた。その十字架にはいたるところに持ち手が付いており、自由な場所から掴んで持てるように設計されていた。

 

 鞭と十字架という、奇抜な武器のせめぎ合い、つばぜり合いが続く。




「大体何で俺だけなんだよ! 何もしてないぜ!」


「何もしてないのがいけないのよ! 貴様、また報告書を出し忘れたな!」


「確かに出し忘れたけど、それでなんでこんな目にあってんだよ!」


「その報告書を修正して出しなおしたのが私なんだよ! おかげでずっと前から楽しみにしてた舞台に観にいけなくなったじゃない!」


「しらねーよ!」



 激しい金属音が響き、お互いに距離を取る。



「ほんとに、東雲のその武器は趣味悪いわねぇ・・・。髪の色と言い、発想が中学生なのよ!」


「はっ、お前だって鞭じゃねえか。ドSアピールに必死なんですねぇ?」


「アピール言うな! 私にはこれが一番使いやすいんだよ! 貴様の十字架だってどっかで見たことある武器なんだよ!」


「傷物語が好きでわるいかぁぁぁぁぁあ!」



 大声で叫びながら東雲が移呂井に突っ込む。鞭を絡め取った十字架を後ろに強く振りまわすことで、移呂井の体勢を崩す。移呂井が思わずよろけた時にはすでに、十字架を彼女の頭上に振りかぶっていた。スーツの生み出す強制的なパンプアップがあってこそできる芸当だ。しかし、移呂井は焦ることなく、鞭をあっさりと手放して体勢を立て直すと十字架を振りかぶることでがら空きになった東雲のボディに鋭い直蹴りを叩き込んだ。



「ぐううう!」


 腹を抑えながら、そのままの体勢で後ろへと吹き飛ばされる東雲。



「フフフ、武器に頼ってるからそうなるのよ。あんな至近距離で振りかぶるなんて、愚の骨頂だわ」


「や、やかましいわ・・・」



 蹴りの衝撃で十字架から解放された鞭までひとっ飛びしする移呂井に東雲が十字架を構えて再び特攻。しかし、タッチの差で、東雲が十字架を地面に突き立てた時にはすでに鞭を手にした移呂井は十分な距離を取っていた。


 東雲の十字架、打撃武器としての性能は悪くないようだが、いかんせん重い。おまけにリーチもないので、ここまでの距離はもはや絶望的だ。


 そのことをわかっているのか、移呂井の鞭での連打は容赦がない。東雲はその連打を十字架を小さく動かして防ぐことで手一杯だ。




「ほらほらほらほら、どうしたどうしたどうしたあああああ?」


「ぐううううううううっ!」

 




 ――――何だか二人だけで少年漫画の世界に入ってしまった。なんという主人公の置き去りっぷり。流石にここで何もしゃべらないでいると自分の存在理由がなくなるので、近くで一緒に隠れて様子を見ていた一般兵を小突く。


「なあ、あの二人の武器、。ありゃ一体何なんだ?」


「あれ、35号。まだ【固有武器】の支給してもらってないのか?」


 ふいに出てきた単語に首をひねる。


「【固有武器】? 俺そんなの聞いてないぞ」


「いやいや、戦闘員は改造手術を受けるときにどんな武器がいいか個人個人で申請するんだぜ? それで、その武器を扱うのに適した体に改造しているんだ。お前は聞かれなかったのか?」


「聞かれたも何も・・・、俺の場合は気づいたら改造が完了してたからなぁ・・・」


「それだったらあれだな、誰かが適当に何か申請したか何も登録されてないかだな」



 そう言うと名も知らぬ一般兵は俺のことを哀しそうに見つめた。



「要するに、お前は皆がかっこいい武器を使ってる中で素手で戦わなきゃいけないわけだ」




 ちょっと待ってくれよ。主人公が・・・、徒手空拳だと?


 あり得ない! あのツンツン頭の熱血さんだって素手だけど不思議な能力持ってるじゃない。そんな中で本当の素手!? 完全に浜面さんじゃないですか!


 目の前では、東雲の振り回す十字架と、移呂井の操る鞭が激しい火花を散らしている。こんなバトルが行われる戦場に手ぶらで突入するのは自殺志願者と何も変わらない。



「まあ、そのなんだ。俺たち一般兵じゃ戦闘員の連中には勝てねぇから、お前。早く止めてこい。この部屋が壊れる」


「無理無理無理無理無理無理!」


「無理じゃねえったってお前、あれだけの無差別爆撃があったのに無傷じゃないか? 割って入るのなんか簡単だろ?」



 一般兵の言葉に思考が制止する。


 自分の掌から、全身をくまなく調べる。不思議なことに、戦闘服に多少の汚れこそ付いていたが、体本体には何の損傷も疲労も残っていなかったのだ。








久し振りの更新です、お待たせしてすみません。


今回は東雲VS移呂井のバトルです。

緊迫感が出し切れるよう頑張ります。



というよりも、小説内初の戦闘が内輪もめって・・・・・・。





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