『――――――この子を僕にください』
「で、無駄話をしてる間に目的についたわけだ」
「俺っちの迷案内のおかげだな」
「迷ってるじゃん」
凄い、ひたすら無駄話をしているうちについてしまった。ここまで生産性のないくだりも珍しい。東雲と俺の波長が合いすぎる。コイツとならずっと話していられそうだ。
東雲を先頭にふたりで辿り着いた部屋に入る。入口の上部には、先日の〈首領室〉と同じように〈事務所〉と書かれたプレートが下がっている。
自動ドアをくぐり中に入る(ここにはスモークを噴き出すシステムは無いようだ)。すると視界に広がるのは別段突っ込みどころのないような、例えるならハローワークのような空間だった。いや、これはもうハローワークだ。大勢の一般兵がせわしなく動きながら窓口で手続きを行ったり、掲示板を確認したりしている。よく壁を観ると窓が一枚もない。この基地は地下にでもあるのだろうか。
1人で勝手に色々と想像している間も、先輩として東雲があれやこれやと説明をしてくれる。
「イメージとしてはモンハンのクエストだな。そこの掲示板で今日の仕事を選んで、その旨をあそこの受付で伝える。朝礼終了後から2時間の受け付けだから、その間に申請すれば自分の好きな仕事ができるわけだ。――――当たり前だが、申請しなかったからってその日が休みになるわけじゃないぞ。その時はランダムで仕事が割り振られるんだ」
「仕事って例えばどんなのがあるんだ?」
「そりゃ色々だよ」
そういうと俺を引きずり掲示板の前にと進む。はいはいごめんよと、掲示板前の人だかりを器用にかき分けながら進む。気づくと俺と東雲の二人は掲示板の最前列に立っていた。
掲示板は俺の想像していた紙をピンでとめているようなものではなく電光掲示板だった。
「えーっとな、――――基地内の清掃とか武器・機材の点検は基本的に毎日出来る奴だし別に今日やらなくてもいいか・・・。意外と退屈なんだよな、ああいう単純作業って。――――薔薇の花づくり? 総統、また新しい内職始めたのかな? この間のはがきの住所書きの奴だってまだ終わってないのによお・・・」
「で、できたら悪の組織っぽいのがいいな」
このままでは日雇いのバイトのようなことしかできなさそうだと感じた俺は思わず口を挟む。
「そうか? ――――でもなぁ、戦闘員用の仕事って全体的にきついんだよなぁ・・・。リターンも少ないし・・・」
「そういうことを言ってるから、東雲君はヘタレって言われるんだよぉ~?」
「うむ、文月の言う通りだ。折角新人を案内しているのだから、盛大にかっこつけてもいいんじゃないか?」
いきなり頭上から2人に声をかけられたので驚いて振り返ると、とても人間とは思えないような巨体が俺と東雲の二人を見下ろしていた。電話ボックスより大きいのではないだろうか? だが、すぐに自分の間違いに気付く。どうやら大男とその大男の両肩に足を掛けて誰かが仁王立ちしているようだ。
東雲とは知り合いだったのだろう。親しげに東雲が声をかける。
「おぉ、やっぱお前らもちゃんと確認に来たんだ?」
「う~ん、ボクはめんどくさいから総統が適当に決めてくれた仕事でいいって言ったんだけどね、仮説さんが「こういうのはきちんと行っておけ、いずれ本物の社会人になったときに大切だって」言うからさ~。そんなに言うならって、運んでくれることを条件に来たんだよ?」
「文月のような年齢でサボリ癖がついたら大変だろう。人間は自分に甘く他者に厳しくなってはおしまいだ。――――それに、この程度の重さなら俺にとっては別に負担にもならないからな」
「ああ~! 仮説さん! レディーの前で体重の話はご法度だよ! ほら、ボクにちゃんと謝ってよ!」
仮説、と呼ばれた大男の頭に足で器用にからみつくとポカポカと叩き始めたまだ幼さの残るショートカットの少年。――――いや、今のセリフから察するにこの文月という子、どうやら女の子らしい。
「ほらほら、いい加減おりなさい。仮説も困ってるだろ?」
「うー、うー」
東雲に強引に引きはがされる文月。幼さが残るというか本当に幼い。下手したら中学生以下の可能性もある。
逆に仮説は同じ人間とは思えないほど体が大きい。やろうと思ったら文月どころか俺や東雲ですら片手で捻り潰せそうなレベルだ。短めに刈った髪の毛やがっしりとした体つきからは、男らしさというものがあふれ出てくる。
その大男、仮説が俺に向けて苦笑する。
「いやいや、すまないね。君とはまだ一言もしゃべっていないのに、こちらで会話を進めてしまった。俺の名前は仮説実行。どうだ、変わった名前だから覚えやすいだろう? 因みにこっちのちっこいのが文月夜道だ。こう見ても女の子だ。仲よくしてやってくれ」
「宜しくね、おに―さん!」
両手を挙げながらぴょんぴょんとび跳ねる文月。なんてこった思わず抱きしめて自分の部屋に連れて帰ってしまうくらいかわいいぞ! けれど・・・、あんまりこの子について話をすると俺がロリコンに間違われそうだ。
「俺は葉剛羽賀也です。仮説さん、文月さん。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ、ああ。敬語はいいよ。別にそんな上下関係がはっきりした組織でもないし、そういうの、面倒くさいだろ? 大体、文月に関してはお前よりも年下だろう」
「ねー? ねー? 仮説さん? このおにーさんってボクより後輩なの?」
「うん、まあそうなるな。ちゃんと先輩らしく色々教えてあげるんだぞ?」
「せ、先輩?」
先輩という響きが気に入ったのか、うっすらと頬を染めて目を輝かせる文月。それを愛おしそうな目で見つめる仮説と東雲。この文月という子、ずいぶんかわいがられているらしい。
歓びを抑えながら、精一杯大人ぶった文月が僕に声をかけてきた。
「うふふ、おにーさんも分からないことがあったら何でも聞いてね? 先輩のボクが色々教えてあげてもいいんだからねっ!」
「ありがとう、文月くん」
なでなで。
「ハフゥ」
目を細めて気持ちよさそうにする文月。
真剣な目で俺は仮説を見つめる。
「仮説さん、この子を僕にください」
「――――お前は何を言ってるんだ?」
「おい、やめろ。落ち着け」
「話せ東雲! 男には何が何でも手に入れなければならないものがあるんだ!」
「失ってるものが多すぎるぞ!」
「等価交換が裸足で逃げ出すな」
なんかもう、ロリコンでもいいや。
悪の組織に入って、俺は新しい性癖に目覚めることになりました。