『俺だったらもっと喜ぶけどなぁ~』
「・・・朝か」
眠い目をこすりながら体を起こす。普段使っていない寝具だったから、少し不安だったが特に問題はなかった。ぐっすり眠れた。いや、眠らざるを得なかったと言おう。
「・・・あ、羽賀也さん・・・、おはようございます・・・」
「お、おはようございます。・・・・・・まほろさん」
隣のベットで(断じて言おう、同じベッドではない)昨日の夜、モンハンをしていた時と同じパジャマを着たまほろさんが枕を抱えながらぼんやりと声をかける。寝乱れた服とほんのりと上気した顔がたまらなく色っぽい。必死で自分を抑えて目をそらす。ホントのところはずっと見ていたいのだが・・・。
「ん、じゃあ着替えてきますので・・・」
「あ、はい。いってらっしゃい」
壁に備え付けられたクローゼットから自分の戦闘服を取り出したまほろさんがパタパタと風呂場の方へと掛けていく。ちらりと見えた色鮮やかな布地は・・・、まさか・・・?
い、いかん。首を振って雑念を払う。もやもやした感じ・・・、余りにも体に毒だ。深呼吸をしながら昨日もらったばかりの戦闘服に袖を通す。それにしても、あの糞女(もちろん総統のこと)。何を考えてやがるんだ・・・。
あれからのこと。
まほろさんに案内された部屋にはいると、思ってたよりきれいな部屋に上機嫌。イメージとしてはそこそこのビジネスホテルのようなものか。今までが隙間風と常に闘う日々だっただけにものすごくうれしい。
俺の私物はひとまとまりにして奥のベットのそばにまとめて置いてあった。洋服に、本にゲーム機に・・・、といっても男の一人暮らしだ。そこまで多い荷物ではない。この分なら寝る前にささっと整理できそうだ。
少し汚いが、どっかりと床に腰を下ろすとごそごそと私物のダンボールを開ける。すると一番上には・・・、ばかな! これは天井のスペースに隠しておいたはずの一品! というかまとめた一束! ご丁寧に取り出した瞬間に他の冊子までつられて広がる小細工付き!
「きゃあぁぁあああ!」
突然後ろで鳴り響く聞きなれた悲鳴。
本来あるべきものではないものが見つかった衝撃に加え、不意を突かれたこの一声。慌てて振り返るとそこには自分の手で目隠しをし、後ろを向いてうずくまっているまほろさんの姿があった。
「あ、あれ? まほろさん。まだいらしたんですか? て、てっきりご自分の部屋に帰られたのかと・・・」
パニックを起こしかけの俺に、震えた声が返ってくる。
「う、ううん。わ、私の部屋も・・・ここだから・・・」
「はえ?」
思考がフリーズ。やがて、先ほどの総統の言葉を思い出す。
「で、これが部屋のカギね。戦闘員は基本全員相部屋ね、相部屋。部屋数が足りねぇのよ」
納得、いや、頭では理解できるけど感情がついてこない。いまだ何もしゃべることができない俺は、えさを求める鯉のように口をパクパクさせることしかできない。
やがて、沈黙に耐えかねたほのかさんが口を開く。
「は、羽賀也くんは私と一緒の部屋ね。・・・よ、よろしくお願いします・・・」
「え、えぇぇ・・・・・・」
その後にも、着替えの時のことなど、いちいち挙げていたらきりがないほどに騒ぎがあり、ようやく寝つけたのが深夜の3時。まほろさんはそれだけ言うと「じゃ、じゃあ、おやすみなさい」と早々に自分のベットにもぐりこみ、疲れていたのだろう、一分と絶たずに寝息を立て始めた。
残された俺はというと、女性に対する免疫が0なので、オロオロと所在なさげに動き回るばかり。同じ大学の所謂ヲタク系の友人に読ませられたハーレム物の主人公を見るたびに「俺だったらもっと喜ぶけどなぁ~」なんて嘯いていたが、現実に起きるとなると・・・、無理だ。精神が持たない。逆にどうしていいのかわからない。
悩んだ挙句に無心で荷物の整理を始めたのだが、寝返りを打つたびに悩ましげに聞こえるまほろさんの寝言や寝息に心臓の鼓動が止まらない。
最終的に、俺は初めての職場での夜を、iPodを耳元で大音量で流して過ごしたことになった。
まさか、ずっとこんな感じの夜を過ごすことになるのだろうか・・・?
戦闘服にも着替え終わった俺は、未だに出てこないまほろさんを待ちながら、のんびりともらったばかりのマニュアルに目を通している。思ったより早く目が覚めたため、朝礼まで時間ができたからだ。
ちょうどマニュアルには俺が知りたかったこと、要するにこの組織の内容について詳しく書かれていた。