『フフフ、ジーンときたか? ジーンと』
「・・・・・・ところで俺のことは一方的に知られてるのに、俺はあなたたちのことを何も知らないって、不公平じゃないですか?」
急に自分が話題にあがり、怯えたような気配がソファの後ろからヒシヒシと伝わってくる。・・・・・・そんなに俺のことが怖いか、中の人よ。
「ふむ。そうだな、確かにそれはフェアじゃないな。・・・今のセリフかっこいいな。もう一回言おう。確かにそれはフェアじゃないな」
「・・・・・・」
「フフフ、ジーンときたか? ジーンと」
「ジーンマイクなんて、そりゃまたマニアックな道具を・・・」
「だがまあ、名乗りはしておこう。私はヒール団3代目総統、興蔵鈴菜!。年齢不詳、スリーサイズはトップシークレット! 私の魅力に男共はメッロメロ! 今世紀最大の悪女たぁ、アタシのことだぁぁぁあ!」
自己紹介にここまでエクスクラメーションマークがつく人間も初めて見た。それにどこから突っ込んでいいかもわからない。
もし、始業式の日にこの自己紹介をしたら、間違いなくいじめられるか無視されるだろう。
とりあえず、この人の呼び名は総統で決まりだ。名前より、こっちの方がしっくりくる
自分の作りだした極寒の空気にすらひるまず、ソファの後ろの中の人にも話を向ける今世紀最大の悪女。
「で、あの全裸が穂村まほろ。ウチで怪人タコゲドンをやってくれる。怪人っつても、この間入ったばかりの新人だからな。仲よくしてやってくりぇ」
・・・・・・総統の発言にいちいち突っ込んでいたら日が暮れてしまいそうだな。
紹介された当の本人は、ソファの背もたれからちょこんと顔をのぞかせると、「よろしくお願いします・・・」とだけ言って、すぐに姿を隠してしまった。
それにしてもまほろか・・・。名は体を表すとはこのことを言うのだろうか。とりあえず彼女の呼称は下の名前に〈さん〉付けで。
挙動が不審すぎるまほろさんの姿を見て呆れたように首を振る総統。まるでできの悪い妹を見守る姉のようだ。
「あの通り、まほろは極端な対人恐怖症でなぁ。気長に接してやってくれ。何んといっても、お前をここに連れてきた言って行ったのはアイツで・・・」
「や、やめてくださいいいいいいいいいい!」
突然顔を真っ赤にしたまほろさんがソファの後ろから飛び出し、総統の口をふさごうと飛びかかった。お陰で総統の発言のほとんどが聞き取れなかったとかそういうことを気にしている場合じゃなかった。
あ、あれだけ激しい動きをしたから仕方ないといえば仕方ないが・・・・・・・。
衝撃で折角自分の体をくるんでいた毛布を落としてしまったまほろさんは、本日二回目の美しい肢体を童貞の俺に見せつけてくれたのである。
なんという防御力の低さ。
さしもの総統もこれには動揺を隠せない。
「まほろちん・・・。アンタって露出の気でもあんの・・・?」
「いいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
なるほど、顔から火が出るとはこういうことを言うのだろうか。実際は目から水が出るだけなのだが。あまりのことでパニックになったまほろさんは、再び毛布にくるまるとソファの後ろで丸くなってしまった。
耳を澄ますと、押し殺したような鳴き声が聞こえるのが激しく切ない。