『アンタのこと。あらかた調べさせてもらったから』
「で、アンタが新人だっけ? 新人」
「は、はい・・・」
はっきり言おう。俺はこういうタイプの女性がものすごく苦手だ。下手なヤンキーよりも遥かに苦手だ。クラスでもこういったタイプの女子の眼にとまらないように生きてきたのだが、いつもいつも見つかり、格好のおもちゃとされている。
まるで獲物をいたぶる猫のように、しげしげと体を眺めまわす。
「ふーん、思ったより顔は悪くないじゃん。記録だけ見たら、そう考えても社会から落ちぶれた究極ダメ人間だったから」
「き・・・、記録?」
「アンタのこと。あらかた調べさせてもらったから」
そう言うと、総統はめんどくさそうに立ち上がり自分の机、デザインだけ見たら悪の組織というか極道の組長の机、からホチキス止めされた何枚かのA4用紙を取り出した。
「えーっと、葉剛羽賀也5月5日生まれの21歳、血液型はAB。保育園小学高校を経て、・・・フッツーの大学に進学。バイトは2回経験。一回目は学生時代、受験に専念ってことで辞める。二回目は・・・・・・、まじで、店長殴ってクビ!? キャハハハ、なにこれ、羽賀也君って切れるとヤバイ系?」
「・・・・・・いえ、その時の店長のバイトへの態度がどうしても許せなくて」
「ふーん。正義感強いんだ。感心感心。・・・・・・で、大学で燃え尽きて漫然と日々を過ごして、今に至るってとこか」
見るだけ見たら興味を無くしたのか、A4用紙を無造作に床に放る。なんだか自分の人生を馬鹿にされているみたいで哀しくなってくる。
そんな気持ちが伝わったのか、総統が優しい目で俺に語りかけてきた。
「ま、気にしなさんな。我がヒール団は来るもの拒まず去るもの追わず、但し出会ったら完全抹殺、がモットーの優良組織だから」
「・・・・・・戦闘員止めたら海外でひっそり暮らします」
「ほう・・・。どこに住みたい?」
「料理はまずいって聞きますがイギリスですかね。大英博物館とか一回行ってみたいです」
「よし、決めた。お前が辞めた年から社員旅行はイギリスの大英博物館へ行こう!」
だめだ・・・、この人とは生理的に合わない。現に、返答に困っている姿をこれ以上ないってくらいいい顔で観てるし・・・。
「ともかく、もう今までの退屈な人生とはおさらば。狂気と殺意に彩られた非現実・非日常の悪の華道が始まるのよ!」
それだけ言うと総統はまるで歌舞伎のように大見得を切った。漫画だったら、バーンという擬音が聞こえてくることだろう。






