『そっちは未視聴です。アニメも原作も』
「・・・・・・で、この組織は世界征服を目論んでるってことでいいんだよな」
「うむ。その認識で相違はない。あとは個人個人が違った思惑を持っているが・・・、そんなものどこの職場でもそうじゃろう?」
「俺の前の職場は、店長を殺したいって思いで一致してましたがね」
「物騒な会社じゃな」
俺は廊下を歩きながらこの組織についての色々な説明を受けた。
まずは、最初に挙げた組織の基本理念。
極端にまとめると俺の言った世界征服、マニュアル的に言うと、あの時コンビニの中でタコが叫んでいた演説そのままだそうだ。
世界征服か・・・、今までゲームの中の魔王くらいしか言ったことのないセリフをまさか俺が言うことになるなんてな。
人生って言うのは分からないものだ。
「にしても・・・。ワシは正直驚いておる。なんでそんなに落ち着いておるのじゃ?まさか主人公補正なんてものでもあるまいし・・・」
「俺はどんな人の人生でもモブですよ。・・・・・・単純に自分がどうなろうとどうでもいいだけです。こうしてる今も、あぁ家賃を払わずに済むぞとか、大学の単位は諦めようとか、給料はいくらもらえるんだろうか程度のことしか考えていませんよ。俺にとっちゃぁ、ここが悪の組織だろうが地球防衛軍だろうがテロリストだろうが関係ないんです」
「達観しとるな。いや、何かのラノベか何かの影響か・・・?」
「俺はそういう、語っちゃってる小説は読まない主義なんですよ。ただ、まぁ・・・、〈れでぃ×ばと〉は心のバイブルですよ。アニメも全話観ました」
「あれは〈かのこん〉臭さが抜けんかったがな」
「そっちは未視聴です。アニメも原作も」
「・・・正直〈れでぃ×ばと〉を見とったらわざわざ観なくてもいいとは思うが」
やがて一つのドアの前で爺が立ち止まる。
ドア自体はとても無機質なつくりだ。
悪の組織というと洞窟の中、扉のデザインもおどろおどろしい感じのものをイメージしていた俺にとってはこの基地の未来的な内装も拍子抜けである。
事実、目の前のドアもスターウォーズ的な自動ドアだ。
「この扉の向こうに親玉が待ってる・・・、なんてことはありませんよね」
「そのまさかじゃ。くれぐれも失礼のないようにな」
「・・・・・・個人的なことを言わせてもらえば、もっと解り易く作ってほしかったです。ここはボスの部屋だ、的に」
「上を見てみなされ」
言われたとおりに扉の上の方を見上げると、ホームセンターにでも売ってそうなプレートに、〈首領室〉と書いてあった。
「・・・・・・間違いではないですけども・・・」
「因みに他にも〈休憩室〉・〈会議室〉・〈訓練室〉・〈食堂〉なんかがある。後で確認しておくといい」
「せめてカタカナ表記にしてほしかった・・・。せっかくこんな未来的な基地なのに」