婚約破棄RTA 初チャート検討
短編『婚約破棄RTA』を先に読まないと内容が分かりません。
あちらはギャグとテンポを重視するため、設定や主人公の考察をかなり省略しています。
また、こちらは全編シリアス調となっております。
本作は、前短編の後で主人公が何を考え、どう状況を整理しているのかを描いた、設定・考察寄りの短編です。
全編に渡って主人公の独白が中心になります。
物語の設定や世界観を掘り下げるのが好きな方向けです。
「……さて、いい加減、現実を見て対処するとしましょう。」
もう暫く現実逃避したい気分ではあったが、
既に1000年に近いであろう主観人生の中で初めて得た手掛かりだ。
ないよりは余程マシだろう。
改めて、表示された評価結果を検討してみる。
まず、一番改善しなければならなさそうなものについて。
婚約破棄の時期:E
第一王子の幸福度:F
聖女の幸福度:F
「とは言っても、これは直ぐには難しいわね。」
まずは、状況を整理しましょう
私と第一王子の婚約は純然たる政略だ。
私は伯爵家の令嬢でしかなく、婚約者候補となり得る、より高位貴族の令嬢も何人かはいる。
但し、この時期の王家の権威は弱く
当家が中立派の中ではそれなりの家格であった事、
8歳当時の私がそこそこ優秀であった事を買われ、王子妃として補佐の役目を負う形である。
要は派閥均衡を重視し、中立派を少しでも取り込みたい王家からの婚約打診であり
伯爵家に過ぎない当家としては受けざるを得ない。
というか、前日に結ばれてしまっている。
従って、そもそも婚約前に回避するという案は最初からない。
……あっても国内情勢の問題で却下するしかない気はするが。
「……あの子も、別に悪い子じゃないんだけどね。」
第一王子は能力的にはそれなりに優秀で、責任感もある。
ただ、王としての資質は微妙だった。武断的とでも言えば良いのか。
疑うということを知らないとまでは言わないが、それに近い。
そういう意味でも私が補佐に付けられた訳だが、
何しろ、私はもう子供らしくもなく、王妃教育などは手慣れたものだ。
大分苦手意識を持たれてそうな印象は受ける。
……本当の一度目、何も知らなかった頃はどうだったかしら?
私にはもう既に分からない。
複数の、細部が微妙に違う人生の記憶は、前後の経緯ごと覚えるには困難に過ぎ、
この時期にこんな事が起こるかも位の曖昧さだ。
また、大きく行動を変えてしまうと、前提条件が変わるためか後の別の何かに影響を与えてしまう。
私の人生は変化可能な項目と、変化して欲しくない項目の許容範囲の探索であったと言っていい。
冤罪を覆すのに成功した後は、極力そこまでの道筋を変えない様に生きてきた。
必然的に王子とのやり取りも、手慣れた手順として処理する私に対し、
王子が抱く感情としては、当然と言えば当然か。
結局、冤罪の証拠及び、周囲の声に対して、疑うべき時に疑えなかった事。
公の場で、王としての資質に疑問を呈されての廃嫡となった。
幸福度がFなのは妥当であろう。
「聖女も、悪い子ではないとは思うけど……。」
全くの善人かというと、正義感が行き過ぎる人みたいな印象はある。
聖女は平民から見い出されたが、法皇国と親密な教会派の侯爵家に引き取られる。
侯爵家の教育によるものか、本人の資質か、
はたまた平民出という経歴自体が偽りで、法皇国から送り込まれた存在だったのか。
細かい事情は分からないが、多分に政治的な思惑も理解できている節はあった。
貴族的な事情に疎いのは確かであったが……。
私が処刑される場合は、第一王子と婚姻関係になるが、
聖女としての価値、侯爵家としての後ろ盾、法皇国の思惑によるものである。
王妃としての彼女の人生が幸せだったのかは私には分からないが……。
彼女はどうしてだか、私の事を悪人だと確信している様なところがあり
冤罪の証拠の保全に動いたり、私の言動を第一王子に相談したりしていた。
直接的に法皇国に指示を受ける立場だったのかは不明だが、
王子が立太子を迎える前に、政敵と疑惑の多い立場であった私を失脚させるため、
卒業式という公の場での断罪を後押しした一人ではあった。
結局、冤罪であるとの主張が通ったことにより、
それまでの行動から、積極的に冤罪に加担する側であったと見なされての失脚。
王妃になれない事が確定し、瑕疵が付いた事により、侯爵家から法皇国側に身柄を移されたと記憶している
その後の足取りは不明だが……。
幸福度がFという事は、下手をすると消されたりしている可能性があるのかしら?
冤罪についての前に
国内および、周辺環境を整理する
婚姻事情で述べた通り、王家の権威が弱く
派閥争いが激化すると容易に内乱に結び付く様な国内環境にある。
その不安定さがどの程度のものかと言えば……。
評価に関する情報から、天寿の全うをクリアと仮定し、
初めて老衰を迎えたのを便宜的に1回目と呼称するなら。
4回目までの人生は国内統治に力を注いだが、
それなりに満足できそうな成果を挙げても戻って来てしまった私は、5回目で方針を転換した。
即ち、王家との婚姻回避を模索したのだが……。
第一王子と聖女が失脚し、私が第二王子との婚姻を回避する場合、
各派閥の高位貴族令嬢の婚約者争いから、派閥争いそのものが激化していく。
内乱に発展するかどうかは場合によるが、大体は国内の混乱から帝国侵攻を招いて、どこかのタイミングで死亡するという経緯が多かった。
ましてや、王妃として生きた4回目まででも、
舵取りに失敗すると内乱に発展する程度には、国内情勢は不安定である。
結局、帝国国境に位置する辺境伯家に縁付いて、
帝国に対する、牽制、防諜、防衛支援に終始。
王国防衛を成した上で天寿を全うしたのが、5回目の人生であった。
戻って来てしまった私は、この方向性は困難に過ぎると悟って
6回目以降は外交に活路を見出すしかなかった訳だが……。
周辺各国について
帝国は拡大路線を取ってはいるが、終始戦争しているという訳ではない。
但し、隙があるならば狙うし、隙を作りだすための工作はしてくる。
第一王子が性格的に御しやすく、私を排除すれば国内の混乱を誘発出来ると見たのか、婚約者時代においても、王妃時代においても、暗殺を試みてくる。
子供時分でも、あまりに優秀過ぎるところを見せると、
暗殺の頻度や送り込まれるタイミングが異なるし、第一王子の情報も同様だ。
この辺り、親帝国派よりの貴族からの情報漏洩を遮断することや、
私の振る舞いの塩梅などについては、非常に苦心させられた記憶がある。
狙いが私であっても、帝国の工作員の暗躍というのは事実であり、
タイミングの問題で、結果的に冤罪を補強する証拠となる事が多々あった。
法皇国は帝国ほど積極的な動きはしないが、政治的な圧力はある。
聖女を王妃にするのを後援しており、宗教的影響力を高めたい思惑は見て取れる。
聖女が妙に冤罪の証拠保全に動く事や、卒業式での断罪を後押しする事を鑑みると、冤罪についても策謀の幾つかはここから出ている可能性はあると見ている。
商業国連合は商人の国らしく利益を優先する。
利益があるならどことでも取引はするし、そうでなければあっさりと引き揚げる。
外交先としては他の二国よりは、付き合いやすく、
帝国と法皇国との外交均衡を模索した後に、関係を深める先として選び、
ある程度の結果を出せたのが前回の生だった。
さて、次に婚約破棄および処刑に至った原因である、私の冤罪について。
罪状としては、王族暗殺を何度も企てたとされる物である。
一見して王妃候補である私に動機はない様に見えるが、
帝国と繋がりがあり、帝国を手引きした。あるいは帝国亡命の手土産にしようとしたという形だ。
実のところ、第一王子については、単独で狙われた事はない。襲撃は常に、公務で私といる場で発生していた。
標的が私であったとする意見については、王族暗殺を偽装するために仕組んだ自作自演であると疑われてきた。
前提として、
私は伯爵令嬢でしかなく、婚約者候補となりえる高位貴族令嬢からはやっかまれる存在であったし、各派閥重鎮からも同様であったであろう。
同時に、伯爵以下の各家からは、派閥均衡のためとはいえ、王妃になるという旨味よりも、当家に掛かる負担の程を考えて、やや同情的に見られる向きがあった。
娘である私が暗殺の対象となった事に対して、父が帝国への亡命を考えたとしても不思議ではない。
少なくとも、その様な疑いを持たれても周囲が納得するだけの素地はあった。
父が実際に亡命まで考えていたのかは正直なところ、分からない。
ただ、父の外出の際に、出先に帝国の関与を示す様な物が残されるといった事があったのは確かな事実である。
また、私自身も帝国方面への防諜の問題で、親帝国派の貴族への折衝が他派に比べて多かった点も挙げられる。
政治的には十二分にあり得るという印象付けは、どこからも異議が出なかった。
……本当に最初の頃は、帝国との繋がりについては、疑惑が少なかった様な気もするが、冤罪を覆すのを成功した辺りからは、ずっとそういう生き方を続けているために曖昧だ。
様々な証拠や証言には、国内各派閥や帝国、法皇国、それぞれの思惑が絡んだでいた。どれがどの勢力によるものなのか、正確な所は分かっていない。
目的がどうであれ、帝国の工作は実際にあり、そこに私の関与を示すような材料を散りばめられた絵図面は、当家の失脚という目的には十分ではあった。
対処については、幾つかの事件について、発生の許容範囲で情報操作などにより暗殺発生タイミングをずらしたり。
私や父の行動タイミングをずらす事で、因果関係に疑義を呈する形にしたものや、
暗殺の対象が明確に私である事が分かる物を用意。
あるいは、警備を意図的に偏らせるなどして、偽証を置かせない事や、先んじて回収して、意図的に問題ない物を残すといった迂遠な方法を取らざるを得なかった。
これは当家の失脚を望む派閥が多かった事もそうだが、
状況証拠の積み重ねでの断罪であったため、証拠が出揃った場で主張する必要があると考えていたためだ
あの日、学園の卒業式にて
式次第が一通り終わった頃、
第一王子は最後まで迷ってはいたようだったが、最後に聖女に後押しされて
「立太子の前に、王妃となる者の帝国との密通及び、暗殺手引きの疑義を呈する」と発した。
以前より、そういった疑惑が出ている私に対する、各派からの政治的な追及は出ていた様だが、立太子の前に確認をしておくべきというタイミングの問題。
聖女を含む幾つかの信頼している者からの物証や証言の提示。
そういった複数の事情を持って、私は審問に掛けられた。
複数の証拠、証言に対し、私は反証出来るものは反証した。
聖女の保全した幾つかの証拠については手は出せなかったが、それらは法皇国の色を帯びる事になった。
……証拠と証言は見事なまでの斑模様を描いた。
次第に重臣達が沈黙し、国王が問いかけた。
「それでもなお、有罪だと言うか?」
自らが信じた者たちの言葉を信じて、第一王子は答えを変えなかった。
あの日、公の場で示されたのは、私の身の潔白ではなく、
第一王子の王たる資質の欠如であった。
証拠の裏にある思惑を考えず、自らの信じたいものを信じる姿勢は、
裁定者たる王としては致命的な欠点だった。
信頼できる適切な助言者がいれば良いが、彼はそれを選び取る事が出来なかった。
そうして、第一王子と聖女は失脚した。
……私の疑惑は最後まで疑惑のままではあった。
ただ、少なくとも有罪と断じるには証拠が足りない。
その一点だけは、公の場で認められた。
「……改めて整理してみても、難しいわね」
婚約破棄の時期:E
第一王子の幸福度:F
聖女の幸福度:F
問題があると評価された、これらの3項目の改善。
勿論、婚約破棄の時期を前倒しして、内々で処理すれば第一王子は失脚しないかもしれない。
しかしながら、王妃になれなかった場合の聖女の幸福度は改善するかは分からない。
そもそも、どうやって時期を前倒しするのかというのは、中々難題ではある。
実行可否や成否といった細かい部分を一旦脇に置いて、案だけを出すなら。
私が明確に暗殺対象であると判断できる証拠を確保した時点で、こちらから、それを理由に解消を持ちかける。
これは成否や結果はともかく、比較的実行難度は低い部類だろう。
成功した場合、評価がどう変化するかを見るため、最初に試す候補としてはありね。
聖女との対話を試みて、誤解なのか何なのかを解き、聖女の保全した証拠も反証として扱える状態にする。
時期を早めるための反証の確保を兼ねつつ、聖女の幸福度改善に影響があるかを見る様な内容。
間接的に第一王子の幸福度改善に繋がる可能性はある。
幼少期から第一王子の考え方の改善に努める。
補佐役としての助言の仕方を変えたり、自分で判断する様に仕向ける。
失敗しても問題がない案件の場合に、わざと間違った助言をするというのもありだろう。
これは時期の問題には寄与しないが、幸福度の改善には効果がある可能性はある。
幼少期より意図的に目立ち、工作の数や頻度を増やす。
利用可能な事件が増えれば、破棄を早める材料も増える可能性はある。
破棄を早くできる可能性は高いかもしれないが、そもそも切り抜けられるかが未知数すぎる。とはいえ、危険は承知の上だ。
それに、死んで戻ってこれなかったならそれはそれで本望というものだ。
だって、私は休みたいのだから。
「……とはいっても、やっぱりこの評価の改善は一旦後回しね」
何度も変えた部分ほど記憶は混ざって曖昧になる。
逆に言うと、ほとんど固定していた婚約破棄までの道筋は手順として処理できる程度には覚えている。
曖昧さに飲まれてしまったら、元の手順に戻せるかは分からないのだから、
幼少期からの変化を試みるのは最後にした方が良いだろう。
そしてそれは、婚約破棄その物の結果を変えた時全般にも言える。
私にとってその先はどれも未知の事象なのだ。
……そもそもこの板らしき物は、次に天寿を全うして戻って来た時にも出る物なのかしら?
失敗した時にも出てくれると有難いが、確認するためにこの場で自殺するのもどうかと思うし、失敗はそのうちどこかで機会があるだろう。
むしろ問題は、老衰で死ぬ場合、私はこれから60年近く生きる事になる点にある。
出ないよりはいいけど、結果が返ってくるのが遅すぎるし、
途中の変化点が多すぎて、何が影響を与えてるのか絞るのが難しすぎる。
何より前の結果を正確に覚えていられる自信もあんまりない。
それから、評価の内容がどの程度、現実や私の行動に即しているのか?
というのも気になる部分ではある。
「……となると、最初に確認するべき内容の方針としては。」
商業国連合評価
国の発展度:B
民の幸福度:B
友好度:B
クロード・ヴィンケルの幸福度:D
各評価とクロード・ヴィンケルなる人物の幸福度に逆相関があったりしないか?
そして、この謎の人物が一体誰なのか。
外交方針は、商業国連合へ舵を切る直前、外交均衡を模索していた頃。
大体7回目か8回目の人生を出来るだけなぞる。
手慣れた分で生じる余裕は、この人物を探る事に用いる。
続いて、法皇国にも探りを入れる。
聖女の幸福度Fが何に起因しているのか、今の私には分からない。
分からなかったら、次の次くらいに外交政策を親法皇国に振ったって良い。
……聖女の足取りを追う。
「方針としては大体こんなところかしら、他に気になる評価項目は……。」
行動評価
本人の幸福度:B
後継者の教育度:B
後継者の幸福度:C
婚約破棄の時期:E
後継者の項目が私に紐づいてそうなのは、辺境伯家で生きた5回目の様に王国から出るという可能性を示唆している物なのかしら?
仮にそうだとしたら、各国へ縁付く可能性まで考えなければならない。
確認項目が一気に増えるわね……。
そんなもの、何百年か、あるいは何千年後の私に任せるしかない。
……覚えていたら、いつか父に帝国への亡命は本気なのか聞いてみましょうか。
第二王子の幸福度:A
……クスリ。
自然と笑みが漏れた。
子供時代と、辺境伯家に嫁いだ5回目の人生を除けば、ほとんどを一緒に過ごしてきた第二王子は私にとっては気心の知れた戦友の様なものだ。
A評価なのは、私としてもうれしい。
元々、第二王子は第一王子とは逆に王としての資質は十分にあったが後ろ盾が弱く。
あんな事にならなければ、第一王子のスペア兼、補佐として国を支えるつもりでいたと聞いている。
……少なくとも、私の行動が彼に与える影響を測る指標にはなりそうね。
勇者と魔王?
知らない。別に問題が発生したこともないのだから、観測されるまで放置でいいでしょ。
半透明の板らしき何かは、私がベッドから降りると勝手に消えた
「さて、11回目の人生とやらを始めましょうか」
私はため息をついた
読んで頂きありがとうございます。
前短編の方で、投げっぱなしギャグだった設定に
ある程度整合性を持たせて上手く調理できたと感じて頂けるなら幸いです。




