転生したら魔王の幼馴染だった(らしい)
「リリムロスさん!この北方国との貿易資料ですけど、何処に置いた方がよろしいでしょうか?」
「あーそれはA-66のとこに置いといて……そうそう左から二列目のとこ」
「お師匠様〜街中でまた三馬鹿が喧嘩してやがりますけど、止めて下さらな〜い?」
「もう三人共のしておいたよ。ほら。」
「えっ?いつの間に?私がコッチに来てる間に対処してくださったという事〜?さすがですわ〜」
「はぁ〜」
思わずため息が漏れる。何年もここにいて分かった事だが、ここのギルド支部は毎日何かしらの問題が起こる。
私も昔は手を焼かれていたものたが、今はそうでもない。
慣れ、だろうか。
ギルド長に怒鳴られていた日々が懐かしい。
今や私がその立場だけど。
お約束の交通事故で轢き殺され、異世界の知らない誰かさんに転生して、二百年と少し。
前世だったら、ババァと言えるような年齢だけど、私が転生(憑依?)した人は普通の人間では無いらしく、老化が極端に遅い。
今でも私が何歳か、というしょうもない議論が行われているらしい。
知らんけど。
最初の一年はざっと35回くらい死にかけたけど、なんやかんや、10人程度の弱小支部とはいえ、ギルド長にまで上り詰めた。
今の私は竜種に囲まれたとしても生還できるだろう。
なんたって、あの魔王すら習得できなかったとされる、神属性魔法最上階位まで使えるのだから。
体に恵まれたのか知らないけど、血の滲むような努力の果てに獲得した力だ。
決して最初からチートモリモリであったわけでは無い。
髪は薄紫で、目は黄金というなんともまあ、悪役みたいな色。
一回、魔王軍と間違われて、斬られたこともあるくらいだ。
それも勇者に。
ひどくない?
私をこの世界に呼んだのは、魔王軍の人らしいけど、詳しいことは分からない。
だって、私が目覚めた瞬間に辺り一帯が爆発したし。
それが私が最初に死にかけたときなのだけれど。
おっと、そろそろチヨミさんキノシタさん夫婦に預けているワンコが、暴走して会いに来る時間だ。
仕事上一緒にいられないので、二人に預けているが毎回新しい脱走方法を編み出しては私に会いに来る。
さすが、獄狼種という物騒な名前の種族なだけはある。
あ、見た目は普通の可愛いワンコ。
二人は前魔王を討伐した元勇者と元聖女なのだが、もう年らしく、腰が痛いといつもぼやいてくる。
昔のよしみということで面倒をみてもらっているがそろそろ限界かも知れない。
ちなみに私を魔王軍と間違えて襲ってきたのはコイツら。
ドタドタドタ
よし、来たな。
大丈夫。これにも、もう慣れたものだ。正面玄関から真っ直ぐに突撃してきてーーー
「…ここに『リリムロス』という者はいるか」
「…ッ」
巨大な二本の角、大きな外套。そして漆黒の翼…間違いない。
「ま…ま、魔王ですの?!」
「どうして…こんなところに…」
「…喚くな、害虫共…《■♦︎◾️◆▼》」
《影に掬う闇よ、悪鬼を喰らえ》……影魔法!
「ならば…《メシアス・ジシャスト》!!!」
「…」
刹那、世界を白と黒が満たした。
「神属性魔法をあの速度で…」
「こっこれで、まっ魔王も、イチコロですわね〜オ〜ホホッホホホ…ゴホッコバ」
何故魔王がここに…ここは大火山の極楽湯の数百キロ近くにあるくらいしか価値のない田舎のはず…
「こんなものか…」
「ッ…ならばもう一度!《メシアスーーー」
「…《#/&_cdmjf》」
「なッ」
私の魔法が…消えた?
「どうやって…」
「…お前たちの言語で、《魔を消す法術》と言うものだ…文字通り相手の術を掻き消せる…先と違い…知識と対抗策は持ち合わせていなかったようだな…」
魔力が1ミリも感じられん…まさかこの魔法の効果は、相手の魔法ではなく、魔力そのものに干渉するというのか?
「…察しの通り…この術の効果は魔法発動の根幹に作用する…最もそこらの幼児でも解除出来るような専用の術があるがな…ただ…それが知られていない種族には対抗策など存在しない…終わりだ」
ここで終わるのか…私の人生は。
まぁ…よく生きた方だろう。
だだ⋯
「…後ろの奴らは殺さないでほしい。私にとっての家族みたいな奴らだ。頼む。あとーーー」
「………殺しはしない。後ろの害虫もだ。」
「ん?」
そういえば、奴は最初にーーー
「…話の続きだ…ここに彼女はいないようだ…なら…『リリムロス』、と言う名に聞き覚えはないか………新たに生み出した転移術でこの地に来た時に、襲ってきた獄狼種にわずかながら彼女の魔力が染み付いていた……この辺りにいたことは間違いない…」
「…先程は害虫共のせいで…中断してしまったことは詫びよう……そなたは…他の害虫とは違う…我と会話する価値のある存在だ…して…問いの是非は?」
私を探していた?
この名は転生した時に、頭に流れ込んできた名をその前使ってきたものだが…
何故、私を…魔王には一切関わったことがないはず。
私を試しているのか?
「…答えぬなら…貴様らに命はない…我は無敗を誓った身なのでな……死ね…《∴●▲ーーー」
「……私だ!!!!」
「…」
「紛れもない…リリムロスはこの私だ!!」
「…ありえん…お前が?……術は正常に機能している…ということは…」
?…なんだその驚き様は…
リリムロスという名を知っていて、この地に来たというのなら、身なりはある程度分かるはず。
理由は分からんが、私を試したと思っていたのだが…違うのか?
本当に…私を探していた…あの魔王が?
「……ついに…」
え、泣く?ここで?
…まさか、魔王は…
「…見つけたぞ『リリムロス』!!」
「うわっ!!」
なになになになに?!
魔王が私に抱きついてくるとかどんなキャラ崩壊!?
つーか普通に重い!
ちょ首首首!締めてるっ……て……
バタリ
「…あ」
「なんですのこの状況は……」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「それで〜?お二人はどういう関係をしてやがったのです〜?」
クソ…なんで私がこんな目に…
人前で正座するのは久しぶりだぞ⋯
それも、愛弟子のアリトテにされるとはな。
チラ
魔王も正座してるし…もしこの場面が魔王軍に見られたら、私達は極刑だろうな。
「⋯⋯⋯」
というか、こっち凝視してるし⋯
顔面の上半分が蒼炎で覆われてるけど、見えてんの?
「………我から話そう…あれは実に二百と八年前のこと…」
「あ〜も〜!そういう長ったらしいモンは、いいですから〜!端的に述べてくれませんこと!?」
「……分かった…我と『リリムロス』は…旧来よりの竹馬の友よ…」
「…ん〜?つまりどう意味です〜?」
「昔、共に竹馬に乗り合うほどの友だった。という慣用句ですよ。つまり、幼馴染だった。ということです」
「なるほど〜お師匠様は魔王の幼馴染、ということですわね〜………え???」
まぁ……つまり、本物の『リリムロス』の関係者か。
私が調べた限りでは、少なくても人間史にその名は出てこなかった。
恐らく、『リリムロス』は人間が行き着いていない、魔界の深部で暮らしていたのだろう。
「それで、私をどうするつもり?」
「……まずはその化けの皮を剥がそうか…」
化けの皮……
つまりは…『私』…
「…気づいていたのか」
「…我は彼女と別れた後…とある術を我自身にかけた…」
魔王が立ち上がる、と同時に床が黒く染まった。
⋯これは拘束魔法
無詠唱でこの強度か⋯
「……我の前で『リリムロス』の名を偽った者を自動的に呪い殺す…という術だ………当時は空間の座標理論が確立していなかったのでな…こんな回りくどい術でしらみ潰しに探す他なかった…」
「それなら…私は…」
「…そう……貴様は確かに我の前で『リリムロス』を語って生きている…我もそれを見て本物だと思っていた……たがようやく貴様にかけた《魔を消す法術》が魂にまで作用したようだな…」
…そういうことか
つまり…魔王が『リリムロス』を探すためにかけた術で、私を本物だと最初は判断した。
だが《魔を消す法術》が、私の魂を本物と誤認させる術…つまりはこの体に『私』の精神と記憶を根付かせた術そのものに作用し始めた。
そして、隠すものが無くなりつつある私の魂を見て、偽者だと判断した。
さっきから何故『リリムロス』を外見で判断できなかった理由を、当時との身体年齢の差と思っていたが…
恐らく魔王は世界を目で見ていないのだろう。
こんな奇抜な髪と目をしているのにわからなかったのにも合点がつく。
魔王は世界を魔力…つまり、魂そのものしか見ていない。
「…話は終わりだ……二百年前…『調和の魔女』に裏切られてから始まった…我らの因縁を…そして我の悲願を…果たす時だ…」
…今回もなんだかんだ生き残ると思ってたのにな。
「待ちなさい!!」
「お前に…私達のリリムロスを殺させませんわ!!」
アリトテ…
「そうだ!!リリムロスさんはこんな辺境の地をずっと1人で引っ張ってきた僕たちの英雄だ!!」
新人くん…
「…もういい」
「お師匠様!!」「リリムロスさん!!」
「前にも言ったと思うけど、私はこの世界とは別の世界で死んでからこちらに生まれた…いや乗っ取った…この『リリムロス』を…」
「…この世界に来て、初めて見た夜空に『二つの月』を見た時から思ってたよ…いつかこうなるじゃなかったのかって⋯いや、こうなるべきだって」
「私が今までに死ななかったのも多分…この時のためだと思う」
「………利用されたとはいえ⋯『リリムロス』を二百年も支配し⋯傷つけてきたお前の罪は重い⋯故に⋯その魂を輪廻の外方にまで捨て去ってやろう⋯⋯⋯」
「《7515dce2bc25b6fc1c26f98e4b76c8ddb1a4e41aebfff46b076904f0b9c2a386》」
やっと⋯『死ねる』⋯
「お師匠様ーーーー!」
アリトテが、リリムロスの元に駆け寄る。
「……自力で我の拘束魔法を破るとは…やるな⋯だが⋯邪魔はさせん⋯」
「ッッ魔王!!《メシアス・リー》!!」
「……《空に堕ちる浮上論》」
「⋯あ」
直後、アリトテがどこかに消えた。
「アリトテさん!!」
「……ただ…まだ我には遠く及ばない……魔力操作が雑すぎる⋯して…お前はどうする…新人とやら…」
「…僕…は……」
「……まぁいい…黙って見ていろ……『リリムロス』を」
光が溶ける。
その先には、一人の女がいた。
「…リリムロスさん?」
彼女は魔王のもとに歩み寄る。
「ただいま、アダシーク。ちょっと遅かったんじゃない?」
「…すまんな…だがついに…」
「うん。一緒に帰ろう、アダシーク」




