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## 第4話:12画『割』と散りゆく画数

「カク、私の魔力を使って……! 奴の心臓が見えるわ!」


リンの声がカクの脳内に響いた。『()』の光がカクの霞んだ網膜に、魔王の核を赤い烙印のように映し出していた。右腕が斬り飛ばされた肩からは熱い鮮血が溢れ出していたが、リンの小さな手を通じて流れ込む魔力は、凍てついたカクの神経を再び燃え上がらせた。


魔王 ()(16画)が、巨大な魔力の爪を振り上げた。16画の重厚な質量が、残された二人を完全に押し潰すべく落下する。


「人間の限界は10画だ。貴様らが何を見ようと、この殻を破る力は存在せぬ!」


魔王の咆哮が森を震わせた。だが、カクは嘲笑った。


「限界? それは貴様らのような繁体字が作り上げた、傲慢な基準に過ぎない」


カクはリンの手を握りしめたまま、残された左手で虚空を切り裂いた。普段の解体魔法とは、その軌跡からして違っていた。指先が通るたびに大気が裂け、黒い火花が散る。リンの補助で増幅された魔力がカクの魂を削りながら、禁忌の領域に足を踏み入れた。


(ハン)!」


(かえ)


瞬間、16画の堅牢な殻を維持していた魔力の整列が捻じ曲がった。カクの秘記は『回帰』。複雑で肥大化した繁体字の構造を、本来の簡潔な形態である『新字体』へと強制的に書き換える技術だ。


龜(16画) → 亀(11画)


「な、何だ!? 私の画数が……減っているだと!?」


鬱の悲鳴が、鏡の向こう側――『鑑』の世界まで振動させた。16画の威圧感は消え去り、不完全に取り乱した11画の新字体だけがそこに残った。だが、依然として11画。人間の扱える10画の壁を、わずか1画の差で超えられない絶望の数字だった。


カクは血の混じった唾を吐き捨て、目を見開いた。


「たった1画……その1画を超えるために、人間は数千年の時を苦悩してきた」


カクの左手にリンの金色の魔力が凝縮され、巨大な刃を形成した。人間の身では耐えられぬ、存在そのものを焼き尽くしてこそ到達できる領域。12画의 終焉魔法が発動した。


(カツ)!」


()


――轟音。


世界が白き閃光に覆われた。12画の一撃は、魔王の11画の殻を紙のように引き裂いた。解体ではない。それは存在の消滅だった。魔王を成していたすべての画数が飛沫のように散り、大気中へと蒸発していった。


「そんな馬鹿な……卑小な画数が……私を……」


鬱の断末魔は、森を埋め尽くしていた鏡たちが粉々に砕け散ると同時に途絶えた。


静寂が訪れた。


焼けた森の臭いと、冷たい夜明けの空気だけが残った。カクは斬られた右肩を抑え、膝をついた。リンが駆け寄り、血まみれになったカクを抱きしめた。


「カク! カク、しっかりして!」


カクは震える左手を上げ、リンの頭をゆっくりと撫でた。彼女の髪に付着した赤い血が痛ましかったが、少女の瞳に宿る決然とした意志は、彼を微笑ませた。


「終わったよ、リン……少なくとも、こいつはね」


だが、カクの視線は空を向いていた。魔王が消えた場所、夜空の雲が奇怪に渦巻き、巨大な繁体字の形状を成していた。魔王は倒れたが、世界各地に散らばった魔王軍のネットワークは、いまだに息づいている。


「魔王は倒れたが、世界にはまだ数多くの繁体字の脅威が残っている。そして……」


カクの目が冷徹に沈んだ。


「増殖はここで止まらない。奴らはより複雑で、より奇怪な画数で再び生まれ変わるはずだ」


カクはリンに支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。片腕を失ったが、彼にはもう、共に画を刻んでくれる相棒がいた。


二人は、いまだ煙の立ち昇る地平線へと第一歩を踏み出した。画数が戦闘力であるこの不条理な世界で、すべての不条理を解体するための彼らの真の戦争は、今まさに始まろうとしていた。


【第1部 完結】

ご愛読ありがとうございました。これにて完結となります。

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