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嘘がつけない雨宮さん  作者: 宗一


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3/3

嫌いじゃ、ないよ

 翌日、蒼真は登校した後、いつも通りラノベを読んでいた。


(そういえば今日って、このラノベの新刊発売日だよな⋯⋯)


「おはよう、宮内くん」


「うわっ?!」


 振り返ると、やはり碧が立っていた。


(雨宮さんっていつもいつの間にかいるよな)


「おはよう、雨宮さん」


 そう返すと、碧は優しく微笑んだ。



 支度を終え、席に着いた碧から少し熱い視線を感じる。


「⋯⋯その小説、面白いよね」


 まさかの言葉に蒼真はページをめくる手が一瞬止まる。


「う、うん。雨宮さんも、小説とか読むの?」


「読むよ。私はやっぱりラブコメディが好きかな〜」


「あ、ラブコメいいよね。僕も好き」


「えっそうなの?じゃあ、一緒だね!」


「そうだね」


 碧との意外な共通点を見つけ、蒼真は少しだけ胸が高まった。


「⋯⋯じゃあ、アニメとかも見たりするの?」


「うん。ただ最近はあんま見る気が起きなくて見てないかな⋯⋯」


「そうなんだ⋯⋯」


「でも、最近は面白いアニメもやってないしね〜」


「そう⋯⋯だね」


 その後の碧はずっとモジモジしていて、何か言いたげな仕草だった。




「蒼真、頼む!」


「だから無理だって言ってんだろ」


 ホームルームが終わった後の休み時間、晴也は蒼真に駄々を捏ねていた。


「昨日も言ったけど、普通に晴也が雨宮さんに聞けばいいだろ?」


「だって席ちけぇから」


「だったら休み時間に聞けばいい。ほら、行ってこい」


 そう言って、蒼真は晴也の背中を押す。


「分かったよ!行きゃいいんだろ!!」


「その心意気だ」


 晴也は雨宮さんのもとへ歩き出したと思ったが、すぐにその足は止まった。


「⋯⋯やっぱ、蒼真もついてきてくれない?」


 蒼真は少しの間沈黙する。


「⋯⋯はぁ、分かった」


「じゃあまずは雨宮さんを探すとこからだな」


 隣に目をやると、教科書や筆記用具が丁寧に置かれた机があった。


「あぁ」


――数分後。


「おい、晴也、雨宮さんいたぞ」


 碧がいたのは、「2-1」の教室前の廊下だった。何やら誰かと話しているように見える。


「なあ、雨宮さんが一緒にいるのってさ⋯⋯」


「お、相沢さんもいるじゃん。よかったな」


「いやよくねぇよ!」


「ほら行ってこい」


「っ⋯⋯。分かった。行ってくるわ」


「頑張れよ」


 蒼真は遠目から晴也たちを見ている。会話は弾んでそうな感じがするが、実際はどうなのだろうか。


(雨宮さん、楽しそうだな)


 自然と、碧を見ていた。理由は蒼真自身も分からない。強いて言うならそこだけ空気が違う感じがするからだろうか。


 少しすると、晴也が戻ってきた。なんだかとぼとぼしている。


「おお、どうだった?」


「好きな人、聞けなかったわ⋯⋯」


 すると晴也がバッと顔を上げ、こちらを向いた。


「頼む!俺の代わりに聞いてく――」


「無理だ」


「うわぁぁーん!!⋯⋯でも、玲奈さん可愛かったなぁ⋯⋯」


(情緒不安定すぎんだろ)


 蒼真は内心呆れつつも、晴也の恋を応援していた。


「⋯⋯あ、あと蒼真。雨宮さんが『宮内くんって好きな人いるのかな』みたいなこと言ってたぞ?」


「え?」


 いやまさか、言ったとしてもそれはただの好奇心で、それ以外の気持ちはないはず⋯⋯


「⋯⋯そうか」


「で、いるのか?好きな人」


「いや、いない」


「ふーん」


「⋯⋯てかおい!もう3分前!教室戻るぞ!」


 気づけばさっきまでそこで話していた碧たちも居なくなっていた。


「あ、あぁ」


 蒼真は小さな引っかかりを感じながらも、足早に教室へと向かった。




 1時間目は数学だった。いつもだったら眠くて仕方ないはずの授業も、さっき晴也に聞いた話のおかげで眠れそうにない。


 蒼真はチラっと隣に座る碧を見る。そんな碧は、綺麗な姿勢で寝ていた。⋯⋯いや、寝ている?


「雨宮さん、起きて」


 肩を何度かトントンすると、碧は欠伸をしながら起きた。


「⋯⋯ふぁ〜。⋯⋯待って、私すごい顔してた?」


「うん。ちょっと」


 蒼真はクスクスと笑いながらそう言ってしまった。


 すると、碧の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


「⋯⋯もう、宮内くんなんてきら――」


 碧はそっぽを向いてそう言おうとした、が止まる。


「⋯⋯嫌いじゃ、ないよ」


 碧が放ったその小さい一言に、蒼真の動きが止まる。


(最初、『宮内くんなんて嫌い』って言おうとしたよな⋯⋯?)


 昨日の昼休みのものと同じような違和感を、蒼真は覚えた。


「よかった」


 そう返して数秒ほど経ったあと、蒼真は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。


(『嫌いじゃ、ないよ』って⋯⋯)


 その時の仕草も、鮮明に思い出せる。


 隣を見ると、まだ顔を若干赤くした碧がノートを取っている。丁寧に手入れされたサラサラロングの茶髪が、よく似合っている。


(やっぱり、僕は雨宮さんに嫌われたくないのかもな⋯⋯)


 そう思う理由はまだわからない。だが、昨日よりも強く、よりはっきりと「嫌われたくない」と蒼真は感じた。




 その日の帰り道、蒼真は晴也と一緒に帰っていた。今日は部活が休みらしい。


「じゃあ、蒼真、またな」


「またな」


 晴也と分かれたあと、蒼真は1人で帰る。


(疲れたな)


 今日は体育で少し体を動かしたからだろうか。⋯⋯実をいうと、蒼真は運動という分野でめっぽう弱かった。


 蒼真が曲がり角に差し掛かった時、そこから誰かが出てきた。


 サラサラな茶髪の髪、かなり小柄な体格。完璧な位置にある顔のパーツ。なにより、その人が放つ穏やかな雰囲気。


 ――碧だった。


「あ、宮内くん⋯⋯」


「雨宮さん⋯⋯?」


「えっと、雨宮さん、なんでそこから?」


「あ、今日は久しぶりに玲奈と帰ってて」


「なるほど」


 少しだけ、無言の時間が流れる。


「雨宮さん、一緒に帰らない?」


 自分でも驚くほどに、さらりとその言葉が出た。


「うん。いいよ!」


 碧はふっと口元を綻ばせ、優しく笑った。



 2人は桜の花びらが微かに残る街道を歩いていた。


「宮内くん、今日の体育どうだった?」


「めっちゃ疲れたって感じかな。雨宮さんは?すごく運動得意そうだけど」


「う、うん。得意だけど、球技がダメなんだよね」


「そうなんだ」


「⋯⋯ごめん、今の、嘘なんだ」


 拳をぎゅっと握りながら、碧は話した。


 そして、蒼真はその告白で、昨日からの違和感に納得がついた。


「もしかしてなんだけどさ、雨宮さんって⋯⋯嘘つけないの?」


 そう言った途端、碧の顔が一気に暗くなるのが分かった。


「ご、ごめん雨宮さん」


「い、いや別にいいんだよ」


 数秒間、沈黙が続く。すると、碧がポツポツと話し出した。


「私、昔から嘘つけないんだ⋯⋯」


「それで色々あって、人と距離を置くようになっちゃって⋯⋯」


 蒼真は、なんと返せばいいか分からなかった。口を開きかけて、また閉じる。何か言わなきゃいけないのに――


「僕も⋯⋯」


 碧が顔を上げる。


「僕も、雨宮さんとは理由は違うけど、人と一定の距離を置いてた。嫌われたっていいってさえ思ってた」


 蒼真は続けて話す。


「でも、雨宮さんと話すのは嫌じゃなくてさ⋯⋯」


 碧は少し目を瞬かせたあと、困ったように笑った。


「⋯⋯そう、なんだ」


 なんだか、さっきの自分の発言がとんでもなく恥ずかしいものだった気がして、顔に手を当てた。


「あ、桜きれいだね」


 碧が少し早口で言う。


「う、うん。きれいだね」


 蒼真はその横顔を、直視することができない。


 桜のはなびらが、2人の間を静かに通り過ぎて行った。


 2人の距離も、少し、ほんの少しだけ近くなったように感じた。

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― 新着の感想 ―
碧が蒼真の前で居眠りしたり、弾んだ口調で話したりと心を徐々に開いていっている描写が今までの話よりも増えていて、仲が深まってると認識させられました。そしてラスト、碧が自分の悩みや心の奥底にある苦い思い出…
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