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嘘がつけない雨宮さん  作者: 宗一


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プロローグ

温かい目で見ていただけると嬉しいです。

 今日、4月7日は名門の公立高校である青葉高校の始業式だ。春休みが終わり、また新しい1年が始まる。


 生徒たちが楽しそうに話しながら廊下を歩く中、宮内蒼真(みやうちそうま)は窓から見える少ない桜を眺めながら独りで廊下を歩いていた。


 彼が独りなのは蒼真自身が人と()()の距離を取っているからだ。昔から期待されることが多く、その期待に応えられなかった時の空気を、彼はよく知っている。だからいつの間にか、人と()()()関わらないようになった。


 ⋯⋯まあそんな蒼真にも1人だけ友人はいるのだが。



 ――「2-5」の文字が見える。


 蒼真は教室の扉を開けた。


「よう蒼真、遅かったな!」


 そう声を掛けてきたのは唯一の友人の月城晴也(つきしろはるや)だ。彼は社交的で明るく、人情もあるので多くの生徒から好かれている。蒼真が中学時代からの友人で、かれこれ4年の付き合いになる。晴也とまた同じクラスだなんてかなり嬉しい。


「晴也か、おはよう」


 蒼真はそう言って窓際の隅の席へと腰をかけた。




 しばらくして教室の扉が開く音がした。


 そこから入ってきたのはこの学校で知らない人はいないほどの容姿を持つ雨宮碧(あまみやあおい)だった。


 物静かで、誰に対しても言葉遣いが丁寧なその様子が、教室の空気をわずかに落ち着かせた。


 蒼真はそんな碧に自然と目を奪われていく。


 すると碧もこちらの視線に気づき――


 次の瞬間には目が合っていた。


 蒼真は目をそらす。碧とは1度も話したことはないし、優しい美人さんだということ以外よく知らない。


(まあ、めちゃくちゃ綺麗な人だとは思うけど、今はまだ、別に仲良くなりたいとかは思わないな⋯⋯)


 やはり蒼真は人と一定の距離を保ちたいのだ。


「⋯⋯宮内蒼真くん、だよね?」


 ――透き通るような声が聞こえた。


「え?」


 蒼真は誰かに話しかけられたことに驚く。そして声がした方を向くと――


 上品に微笑む碧が立っていた。


(え?なん⋯で?)


「そう⋯⋯だけど」


「挨拶しないとなって思って⋯⋯これから1年、よろしくね」


「え、ああ⋯⋯よろしく」


 そう返事をすると、碧はどこか嬉しそうな足取りで歩いていく。


 突然の出来事すぎて、頭が回らない。


 あいさつを交わした。ただ、それだけのこと。


 ――なのに、妙に胸がざわついていた。




 蒼真たちは始業式のため体育館へ移動していた。ざわめきの中、ぶつからないよう1人で歩いていると、晴也が隣へくる。


「おい蒼真!お前さっき雨宮さんに話しかけられてただろ」


「あぁ、まあ挨拶みたいなもんだったけどな」


「いや羨ましいぜーあの雨宮さんに挨拶されるなんて」


「⋯⋯でもみんなに挨拶してなかったか?多分だけど」


「え、俺されてないんだが?」


「まあ多分だからな。そんな気にすんな」


「そうだよな。ありがとな!」



 晴也とくだらない話をしながら体育館へ入る。すると碧が友達と笑いながら話しているのが見えた。


 その落ち着いた所作からは、上品さが(うかが)える。


――青空みたいな人だな。


 多分、自分とは住んでいる世界が違うのだ。


(まあ関わることもあんまないだろうし、そんな深く考える必要もないか⋯⋯)




 始業式が終わり、生徒たちがそれぞれの教室へと戻っていく。蒼真も教室へ戻り、窓際の椅子へと突っ伏す。


(やっぱここが1番落ち着くんだよなぁ)


 春の心地よい気温と、窓から差し込む柔らかい光、このダブルコンボが気持ち良くて今にも眠ってしまいそうだ。


 ぽかぽかした空気の中で微睡(まどろ)んでいると、ガラガラとドアを開けて先生が入ってきた。


 その音で、蒼真の目もすっかり覚めてしまった。


「えー、今日から新しい2-5の担任になりました。青山孝介(あおやまこうすけ)といいます。以後よろしく」


 確か、この先生は面白いししっかりしていると評判のおじいちゃん先生だ。間違いなくアタリだ。


「えー、先生は楽しくやれたらそれでいいという主義の人間なので⋯⋯席替えをしていこうと思う」


 途端、クラス中から『やったー!』とか『よっしゃぁ!』とかいう声が聞こえてくる。その反面、『いやなんで?』という困惑の声も聞こえてくる。蒼真も困惑している側だ。


(⋯⋯今から?いや、新学年初日から席替えなんて聞いた事ない)


 そんなことを考えているうちに、先生は古びたヨタヨタの抽選箱を出してきた。


「はい、じゃあみんな引いてくれ」


 みんなわいわいとくじを引いていく。そろそろ蒼真の番だ。


(とりあえず隅っこであれば⋯⋯)


 と願いながらくじを開く。するとそこには――


『1-5』と書かれていた。つまり、窓際の1番後ろというわけだ。


(⋯⋯いや、最高すぎないか?)


 蒼真は心の中でガッツポーズをしながら歓喜した。


 ほどなくして、碧の番がやってきた。騒がしかったクラスはいつの間にかシーンとしている。



 碧が抽選箱に手を入れ、くじを引く。そして開く。


 すると、碧は蒼真の方へと歩いていき――


 蒼真の隣へと腰をかけた。


 体育館での『あんま関わることはないだろうし⋯⋯』という考えは、どうやら訂正する必要があるようだ。


「よろしくね、宮内くん」


「よろしく」


 そう言った瞬間、クラス中の男子から咎められるような視線が、ズバズバと突き刺さってきた。


 少し、いやかなり視線が痛かった。



    ◇



 今日は始業式だから、11時には下校する。お昼前のほのぼのした感じと春の澄んだ空気が心地よい。


「帰るか」


 そんなことを1人つぶやき、歩く。


(いや〜、この始業式終わったあとの空気感いいよな〜。⋯⋯ってあれ?)


 前方に碧の姿が見えた。


(雨宮さんって、こっちだっけ⋯⋯?)


 そんな疑問が頭を()ぎる。


「――雨宮さん」


 気づけば、声を掛けていた。


 碧は少し驚いた様子で振り向く。


「宮内⋯⋯くん?」


 碧は数回瞬きをして小さく首を傾げた。


「あぁ⋯⋯いきなりごめん。雨宮さんってこっちなの?」


「う、うん。そうなんだ。1年の時は友達と一緒に帰ってたから別の道だったけど、今年は別々になっちゃったから、元の道で帰ってるんだ」


「そうなんだ」


 ――少しの間、沈黙が続く。


「⋯⋯じゃあ、また」


 蒼真は、自分でも不躾すぎると分かっていながらも、距離を保つことを選んだ。


「え?あ、うん。またね⋯⋯」


 その声には、少し寂しさが混ざっていた気がした。




(⋯⋯いくらなんでも、愛想が無さすぎたよな⋯⋯)


「明日、謝らないとな⋯⋯」


 1人の帰り道で、そう呟く。


 正門を出た時は、晴れていた空も、今は黒く曇っているように感じた。

読んでくださりありがとうございました。もし改善点があったら、遠慮せず言ってくださると幸いです。これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
楽しみです
情景描写以外の心情や作法などを会話にして表現する事で、我々読者が読みやすくなっていてとてもありがたいです。その上、会話主体の構成にする事で物語の流れがよく伝わります。ラストの蒼真が雨宮さんとの距離感を…
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