表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話 名前をくれる人

「先輩、もうマッチングアプリ登録しました?」


昼休みの給湯室。お湯がコポコポとサーバーから落ちる音が、誰もいない室内に乾いた音を響かせていた。


翔は紙コップにコーヒーを注ぎながら、その言葉に振り返った。


「……は?」


「外人限定のやつですよ。最近始まった、“人道保護型婚活マッチングプラットフォーム”。国の認可も降りてるやつです」


振り返った翔の眉がわずかに寄る。だが、内心ではわずかな焦りが静かに波紋を広げていた。


「まさか、お前……登録したのか?」


「勿論しましたよ!もう余裕ないですし。残ってる枠も少ないって聞いたんで」


今泉は制服の襟元を軽く指で摘んだ。何かを隠すような、あるいは見せたいような、曖昧な仕草だった。


翔は息を吐き、紙コップを持った手を少しだけ強く握る。


「……登録したからって、選ばれるわけじゃないだろ」


「でも選ばれなきゃ終わりっすから。ていうか……もう俺たち、人間じゃなくなるんすよ…」


冗談めかした声だったが、今泉の笑みにはどこか乾いたものが混じっていた。目だけが、空っぽのように沈んでいる。


翔は返す言葉を探せず、コーヒーをひと口すする。苦味が喉に張りついて、うまく飲み込めなかった。


(……俺も、早くしないとな…)


今泉の言葉が脳裏に残る。


「婚活で人間に戻れるなんて、皮肉ですよね」


翔はそのとき、はじめて静かに頷いた。

言葉ではなく、現実がそうだと告げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ