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第31話 日々の変化
それから翔は、少しずつ変わっていった。
朝の指示書を受け取るとき、以前は心のどこかで反発を覚えていた。
なぜ自分がこんな扱いを受けなければならないのかと、心の中で繰り返していた。
だが今は違う。
「忘れてはいけない」「間違えてはいけない」――その恐怖が、翔の思考を支配していた。
命令は時計の針と同じように正確に守られた。
五時に起床、六時に掃除、七時に朝食の準備。
紙に書かれた予定表どおりに身体を動かすうちに、翔は自分の意思というものを感じなくなっていった。
ご主人様が笑えば、翔も笑う。
ご主人様が黙れば、翔も黙る。
それが、この家で生き延びる唯一の方法だった。
夜、与えられた布団の中で目を閉じると、首元の赤い光がかすかに点滅していた。
それは、まるで「お前はまだ自由ではない」と告げているようだった。
翔はその光を見つめながら、ぼんやりと微笑んだ。
もう、怖くなかった。
恐怖すらも、日常の一部になってしまったのだ。




