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第30話 ご主人様の優しさ
もがいていると、そこへ足音が近づいてきた。
視界の端に、ご主人様の足が見えた。
翔は苦しみながら、かろうじて顔を上げた。
ご主人様はゆっくりとしゃがみ込み、首輪の赤いランプを確認したあと、穏やかな声で言った。
「翔くん、指示を忘れちゃダメだよ」
その声は優しく、まるで叱るというよりも、心配しているように聞こえた。
だが、その目は――笑っていなかった。
瞳の奥に、冷たく硬質なものが光っていた。
「いい子にしていれば、痛くないんだからね」
そう言って、ご主人様は首輪に軽く触れる。
次の瞬間、締め付けがすっと緩み、呼吸が戻る。
翔はぜいぜいと息を吐きながら、無意識のうちに頭を下げていた。
まるで、謝るよりも先に服従の姿勢を取ることが、身体に染みついてしまったかのように。




