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第29話 指示忘れた報い
そして、そんな生活がしばらく続いた。
朝に紙で指示を受け、夜には決められた時間に眠る。
翔は自分が何をしているのか、時々わからなくなることがあった。
だが、褒められるたびに、胸の奥が温かくなる感覚を覚えた。
ある日の午後、ご主人から頼まれたはずの仕事をふと忘れてしまった。
台所で立ち尽くしていると、突然――首輪が「ピッ」と音を立てた。
次の瞬間、激しい電流のような痛みとともに、首が締め付けられる。
「ぐっ……! う、うあああっ!」
翔は床に倒れ込み、必死にもがいた。
呼吸ができない。喉の奥が焼けるように熱く、視界が白く霞んでいく。
どれほど時間が経ったのか――サイレンが止んだとき、翔は汗と涙に濡れて、冷たい床に横たわっていた。
その時、ようやく理解した。
「忘れること」さえも、この家では許されないのだと。




