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第28話 首輪の意味

翔が地面に膝をつき、荒い息を吐いていると、玄関の引き戸が音を立てて開いた。

白いシャツを着た中年の男――翔を“購入”した主人が姿を現した。


「おやおや、どうしたんだい? そんなところで」


男はゆっくりと歩み寄り、翔の首もとを覗き込んだ。

首輪の赤いランプは、まだゆっくりと点滅を繰り返していた。


「……洗濯物が、飛んで……隣に……」


かすれた声でそう言うと、男は一瞬だけ眉を上げ、それから穏やかに笑った。

笑顔は優しいようで、どこか冷たかった。


「はは、そうか。いい心がけだ。でもね、ここから外には出ちゃいけないんだよ」


男はしゃがみ込み、首輪に指を触れる。

ピッという電子音が鳴り、ランプが青に変わった。


「これは、君たちが“安全に暮らすため”の装置なんだ。

 外に出ようとすると危ないだろ? 交通事故とか、迷子とか。

 だから、この家の外には、行かないようにできてるんだよ」


「……危ないのは、俺じゃなくて……」


翔は言いかけて、口を閉ざした。

男の目がほんのわずかに細くなったからだ。

その眼差しの奥に、無言の命令のようなものを感じた。


男は立ち上がり、微笑んだまま言う。


「首輪はね、AIで管理されてるんだ。君の脈拍も、行動範囲も、感情の変化も全部記録されてる。

 ちゃんと従っていれば、何も怖いことはない。

 ……いい子でいれば、ずっとここで暮らせるんだよ」


その言葉を残し、男は家の中へ戻っていった。


翔はしばらく動けなかった。

首輪の青いランプが、静かにまた赤に戻る。


(……いい子でいれば、か)


空は晴れているのに、どこにも風が通らない。

翔は、塀の向こうで揺れる白いシャツを見つめながら、

自分が“家畜としての平穏”に慣れつつあることを、

ぼんやりと理解し始めていた。

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