第27話 首輪の仕組み
住み始めてまもなくのことだった。
翔は主人の洗濯物を干していた。
庭に差し込む朝日が、白いシーツを透かし、風に揺らしていた。
そのとき、強い風が一枚のシャツを飛ばした。
ひらりと塀を越え、隣の家の庭先に落ちていく。
「あ……」
反射的に翔は足を踏み出した。
洗濯ばさみを握ったまま、塀の隙間から外へと出ようとした瞬間――
――ピピピピッ!
首元の首輪が鋭く鳴り、赤いランプが明滅した。
同時に、鋼の輪がぎゅっと喉を締めつける。
「っ……ぐ、あっ……!」
息が詰まり、視界がぐらりと揺れる。
翔はバタバタと手足を動かし、洗濯ばさみを取り落とした。
首輪の圧迫が強まるたび、全身の筋肉が勝手に縮む。
「た、助け……!」
その声も、まともに出なかった。
しばらく苦しんだ末、翔は膝をつき、ようやく首輪が緩んだときには、全身が汗でびっしょりになっていた。
(……家から離れると、こうなるのか……)
震える手で首輪を触る。
硬い金属はびくともしない。赤いランプはゆっくり点滅を続けていた。
“檻”は、ここにもあった。
見えないだけで、首に巻きついている。
翔は隣家に落ちたシャツを見つめながら、しばらくその場に座り込んだ。
取りに行きたくても、行けない。
ただ、主人が来るのを待つしかなかった。




