第26話 薄れていく抵抗感
今日も同じ繰り返しだった。
指示書に従い、庭の掃き掃除から一日が始まる。
はじめのうちは、渋々だった。
「なぜ俺が」「こんなことをするために生きてきたんじゃない」
そう心の中で繰り返しながら、竹箒を握りしめていた。
けれど、不思議なことに――褒められるたび、胸の奥が少しだけ熱を帯びるようになった。
「翔、きれいにできたじゃない」
「あなた、本当に働き者ね」
そのたびに、首輪の点滅が柔らかく光り、身体がふっと軽くなる。
あの不快な電流とは違う、じんわりとした温もり。
まるで、褒められることそのものが報酬のように刷り込まれていく。
(……こんなことで、喜んでどうする)
そう思う一方で、次の指示を待つ自分がいる。
庭を掃き終われば、洗濯物を干す。
干し終えれば、食器を磨く。
一つ一つを終えるたびに、夫婦の笑顔や言葉が投げかけられる。
その快感が、昨日より今日、今日より明日と、確かに強まっていくのを翔は自覚していた。
(俺は……いつの間に、こんなにも“褒められたい存在”になったんだろう)
夜、布団に横たわった翔は、目を閉じながらその疑問を追い払うように眠りに落ちていった。
夢の中でも、首輪の赤い点滅が脈打つように揺れていた。




