第25話 生活スケジュールの中で
翔の一日は、紙に記された時間割によって完全に支配されていた。
午前五時半、庭に落ちた枯葉を拾い集め、ゴミ袋に詰める。
六時になると、台所で妻の指示に従い、朝食の準備を手伝う。
切る、並べる、片付ける――作業の一つひとつに考える余地はなかった。
食事が終われば洗濯物を干し、靴を磨き、買い物の荷物を運ぶ。
すべて「指示書」に書かれている通り。
時計を見れば、自分が次に何をすべきかは一目瞭然だった。
(……俺は、何をしているんだ?)
最初の数日は心の中でそう呟いていた。
だが、やがてその声は小さくなり、気づけば消えていった。
首輪の赤い点滅は、決して止まることはなかった。
ある朝、新聞を取りに行くのを忘れていたとき、警告音が鳴り響き、首に鋭い電流が走った。
膝が勝手に折れ、地面に崩れ落ちる。
呼吸が整う頃には、翔はもう二度と忘れまいと誓っていた。
「お利口ね」
妻の言葉が、耳の奥に沈んでいく。
夜になると、布団の上に倒れ込むように眠った。
眠る前に「明日は何をしよう」と考えることはなくなった。
ただ、次の日も紙に従うだけ。
(考えなくていいのは……楽だ)
ふと、そんな思いが胸をよぎった。
それに気づいた瞬間、翔は目を見開いた。
自分の中の何かが削られている。
だが、それを止める方法も、取り戻す手段も、思いつくことはできなかった。
首輪の光は、静かに脈打つように点滅していた。
まるで、翔の心臓と同調しているかのように。




